ソロモン流のオンエアから、私の人生で最も忙しい時期が始まりました。

そのことは様々な功罪を生み出しますが、まずは表面的な成功のほうについてお話ししましょう。

 

ある日ソロモン流をご覧になったと言うテレビ局の方から電話がかかってきました。

2006年のお正月の番組、松本清張原作、米倉涼子主演の「けものみち」と言うドラマで、設定が

「ジュエリーデザイナー」と言うことになっているので、その協力をしてもらえないかと言うことでした。

 

直ぐにプロデューサーの内山聖子さん(2023年現在ではテレビ朝日の次期社長と噂されている敏腕な方)とサブの方が3人ほど揃ってギャラリーに尋ねていらっしゃいました。イメージしていたいかつい男性とは違って3人とも女性でとても美人なのに驚きました。

出演者は、米倉さんのほかに「佐藤浩市」「仲村とおる」「東ちづる」と豪華な面々。

直ぐポスター撮影に入り年明け直ぐに、記者会見が行われると言うことでした。

「松本清張」「けものみち」

少し悪い予感がありましたが、米倉涼子さんが主演なのだからそんなに悪いドラマではないだろうと思いお引き受けしました。

 

米倉涼子さんのこの番組に対するコメントを、偶然新聞で見つけたのはそんな折です。

「悪女を演じることについて?

「光栄です。迷いはありません。」と米倉涼子はきっぱりと答えた。

「松本清張先生の作品は、とても面白く、このような大作に拘わらせていただけることを嬉しく思います。」

 

初めて涼子さんに会ったのは、恵比寿にある写真スタジオで、

「けものみち」のポスターのスチール写真撮影のことでした。

 

涼子さんが、素肌に私のジュエリーとフェンディの毛皮だけをつけるという大胆なショットに挑戦すると言うことで、周りはかなりナーバスになっていて、スタジオ内はきりきりとした緊張感に包まれていました。すでにCGで合成したほぼ完成に近いコンテが出来上がっており、それに合わせて、米倉涼子さんのスタントウーマンがポーズをとっていました。

CGで作られたイメージポスター

 

ライトやセッテイングが定まってから涼子さんが入りました。写真はキクマヤスナリ氏、スタイリストは米倉涼子さんを寶田マリさん。

 

後ろに立って腕だけが撮影される男性に、そのころパリコレのトップモデルとして活躍していた前川泰之さんが起用され、その彼が着用する「よれよれのコート」を用意するためにも、専属スタイリストがスタンバイしていました。超一流スタッフが数十人がこの番組を最高のものに仕上げようと言う意気込みで終結していました。

 

実は私はこの日までも、先日の涼子さんの「迷いはない」と言う発言は、ご本人のものではなく、プレス用に誰かが作ったコメントではないかと半分疑っていました。ところが、実際お会いした涼子さんは、テレビで見るよりずっと細く、透き通るように肌の白い華奢な女性なのに、ただならぬ存在感とオーラが漂っていたのです。

 

「迷いはない」の言葉通りこの作品に賭ける並々ならぬ気迫が感じられました。

カメラの前に立つと、瞳孔が狭まり、目裏でシャッターが下りたかのような鋭光がスパークした。

いま、まさに何かが彼女に取り付いているかのように,ひときわ異彩を放っていました。

私はそんな彼女の鮮烈なイメージに、持参したいくつかの作品の中から、ヴァレンテイーナと言うタイトルのエメラルドを使用したアールデコタイプのネックレスを選びました。14ctのエメラルドのカボッションにブラックダイヤモンドを使用したシンメトリーなデザインです。ダイヤも、タンザナイトも、パライバも、彼女の存在には希薄に思えました。もともと南洋黒真珠がついていたこのネックレスですが、涼子さんのパワーに合わせて、最終的には5連の黒真珠に取り替えて、クッキリとしたコントラストにして撮影に臨みました。