―――――神無月の夜には―――――
君のことが好きだから……
だからこそ、僕はもう一度だけ嘘をつく
いくら手を伸ばしてももう届かないと知ってしまったけど……
君の中にいる僕はもうちっぽけだろうけど……
でも…
それでも…
すべてを終わらせるために…
俺は、言ノ葉を紡ぐ
「俺は……お前のことが――――――――」
「―――――――大嫌いだ――――――――。」
そして世界は、リセットされた。
…時は新暦33年。
その世界では、圧倒的に発達した科学と魔法、そして一握りの魔術
によってなる地。
古より繰り返されし神話の最後の地となる場所…。
そしてこれは、その物語の序章。
2人の青年の別れが、物語の歯車を回し始める。
今は知る由もなく…。
雨が降っている。
それはすごく冷たく降り続けて。
「なんでだよ…?」
声が響く。
目の前に広がる広い空。
今は…暗くその空の果てを見ることはできない。
空から落ちてくる水滴は俺の体を濡らしては、地面を流れていく。
「なんで…お前が…。」
血の海…
空から目を落とせば、そこに広がっているのは、
ただ…
ただ…
紅があるだけ。
無数の肉塊があるだけ。
「シオンッ!」
ゆっくりとこちらを振り向くシオンの顔は悲しみが湛えられていた。
「―――――――。」
何かを呟く…。
聞こえない…聞こえないよ…
「―――だか…ら―――。」
途切れ途切れに聞こえる声。
シオンは曇天に向かい手を伸ばす。
キィィィィィン…
とても神秘的な音が響いたかと思うと、彼の手の中にはあまりに
無骨な、しかし異様な雰囲気を放つ剣が握られていた。
「――――っ!?」
雨の中、突然シオンの姿が消える。
霧のように。
最初からそこには何もいなかったかのように。
「”零ノ軌跡”が始まった…。」
すぐ後ろから声が聞こえる。
あわてて振り向くけど、そこには誰もいない。
「また…繰り返されてしまう。」
透き通るような声。
どこか冷たく、しかし温かみのあった声。
今は、ただ辛いだけの声。
「すべてを終わらせるためなら…俺はすべてを犠牲にしてもいい。」
なぜ、こんなにも悲しい声をしているのだろうか?
俺のせい?
「そう…だな。」
俺の心の声にこたえるようにシオンは言う。
「だから…俺はおまえを犠牲にする。」
そう…か。
いつの間にかシオンは俺の前にいた。
黒く腰まで届きそうな長い髪を首のところで結っている。
鋭い目をした整った顔をした美青年。
すらりとした体つきだが、弱弱しいという印象を見せない。
これだけでも、現実にはありえない美貌だ。
だが、1番にありえないのが、その体にただの一滴も雨が
降れていないことだ。
シオンにあたる寸前で全て弾かれてる。
それはまるで、雨が自ら彼に触れるのを避けているようにも見えた。
とても神秘的で、しかし、あまりにも異様な光景だった。
「なぁ…シオン。」
まぁ、こいつならありえない話じゃないか…
心の中で苦笑しながら、
キィィィン
俺は手をかざす。
シオンほど早くは出せないけど。
キンッ
音が止んだ時、俺の手にはシオンの剣によく似た形の刀が現れる。
「もう…戻れないのか?」
最後にもう一度…信じてみたかった。
「―――――――。」
でも、何も言ってはくれなかった。
そっか…。
「なら、終わらせよう。」
俺は、その刀を振りかざすとシオンに向かって切りかかる。
フゥンッ!
刀は空気を切るだけでシオンには届かない。
だけど!
「そこぉっ!」
一気に鞘から刀を抜刀しながら流れるように真上へと連続の
突きを繰り出す。
「…!」
シオンは俺が上に攻撃を仕掛けたことに驚いたような声を上げた。
キンキンキンキンッ!
金属同士を何度も叩き付け合う音が響き続ける。
キィンッ!!
幾度か刃同士を交えると先にシオンのほうが折れて
離れたところへ着地する。
俺はその隙をついてシオンに向かって跳躍する。
「もらった…!」
フォンッ…キィイン!
刀の刃先から魔方陣を展開する。
「wi.z;a^futn/:tuh~x-index-…」
魔術式を唱える。
まるで呪文のような、それでいて子守唄のような…。
そんな声音‐メロディ‐。
「memento-mori…」
顕現せよ。
魔方陣から出てきたのは…千の刃。
「終りだっ!」
千本もの刃がシオンを包み込む。
…………
静寂が訪れる。
終わった…。
――――――――――――。
そう思ったのは俺の間違いだったのだろうか。
無数の刃の中から3つの影が見える。
…3つ?
イィィィンッ――――
ガァァァンッ!
内側から起きた激しい突風に刃がはじけ飛ぶ。
「な…嘘、だろ?」
俺の渾身の一撃が…?
そこには、傷一つついていないシオンと、紫の髪をした少女が二人いた。
「…。終りか、レオンハルト。」
シオンはそういうとつまらなそうに言った。
「千の刃で来るのならば、俺は、1万の刃を放つまでだ。」
1…万?
俺は、その数に驚いたんじゃなく、その1万の刃がどこにあって
どうやって千の刃を防いだのか?ということだ。
「わからない…か?ならば、お前は死ぬ。」
その瞬間、シオンの両脇にいた少女たちが消えた。
「な…っ!」
次にその少女たちが俺の目に映った時には、
「がっ…は。」
俺の胸を二人の少女の手に握られたあまりにも不釣合いすぎる槍に
貫かれていた。
ズシュッ
少女たちが槍を抜く。
「あ…。」
ドサッ
俺は足に力が入らずにその場に倒れこむ。
どくどくと血があふれ出る。
…死ぬ、のか?
頭の中をそんな言葉が駆け抜ける。
「安心しろ。殺しはしない。お前はこの世界を終わらせられる
唯一の存在なのだから。」
そういってシオンは近づいてくると俺の頭に手を当てた。
そこで俺は気づく。
「忘…れる、の…か、俺……は?」
シオンの手から流れ込んでくる。
”魔術”が。
俺の中で崩れ落ちていく。
「ああ。そうだ。大切なものも、どうでもいいものも全て。何一つ残さず。」
忘れたくない。
「いつしか、思い出す時が来る。それは決まっていること。だが、
その時が少しでも遠くなるように…。」
記憶も、意識も…
「今は…死ね。」
そして俺は大切なものをすべて失った…。