Kee君は私を法テラスのあるビルの近くで降ろしてくれた。

時間は約束の15分前。
少し早いけど、ちょうど良いかな。真顔

今一度手荷物を確認し、事務所の門を叩いた。

いや、うん、あのね、なんかカッコつけて門を叩くって言ったけど実際は自動ドアね。
ウィーンてね、ウィーンて。しかも、その次エレベーターだったしね。普通にエレベーター乗ってチンって開いたらもう、なんかすっごい入り組んだ廊下があって、受けつけドーンなんですけどね。

たのーもーとか言ってみたりしちゃってはいないわけなんですよ。実際は。

もう、実際は緊張してプルプルしながら受付に行きましたよ。はい。

そこで受付用紙を渡され記入。
その用紙を出すとすぐに、「9番のお部屋にお進み下さい。」と促された。


受付には20人ぐらい座れる待合室があり、その脇の細長い廊下の両側に番号札の付いたカラオケボックスのような小さな部屋がびっしりと並んでいる。

更に相談をしている人の声がボソボソと漏れて聴こえてくる。
私は立ち止まらないようにササッと9番の部屋に入った。

ドアは開放されていて、勝手に閉めて良いのかも分からずにそのままにし、上着を脱いで椅子に座った。

そして持参した書類を机の上に出した。


緊張しながら待つこと5分。
カチッとしたスーツを着た小柄な中年女性がノートパソコンとメモ用紙となんらかの本を重たそうに持ってペコッとお辞儀をして部屋に入ってきた。

そして部屋に入るなりその重そうな荷物を机にドサッと置くと、

「お待たせしてすみません。初めまして、長山と申します。よろしくお願いします。」

そう言って長山先生は名刺を私に差し出した。

私もすかさず立ち上がり
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願いします」

と言って名刺を受け取った。

先生はニコッと微笑んで、
「どうぞ、おかけください」

そしてドアを閉め、席に着くと先生は直ぐにメモ用紙と鉛筆を手に取った。


長山先生「では、早速ですが、母子支援センターの中川さんからある程度伺っていますので、今日はMeさんご本人の口から更に具体的なお話が聞ければと思っています。」

真顔「はい

かくかくしかじかなんちゃらかんちゃら....」

と、今日までの出来事をばーーーっと20分ぐらい掛けて一気に話した。

長山先生は私の言葉を速記していく。その先生のメモをチラッとみたらね、
もう、ちょっとした筆記体なの。
後で読んでわかるの?ねえそれ。って心配するぐらいの豪快な筆記体。

そして先生なりに重要だと思う場所に二重の線を引いたり、ここテスト出ますよー的な何かを見極めてるの。

それから、持って行った書類を渡した。
先生は、「これは何?」「これは?」といくつか質問しながら、パラパラとめくっていく。


で、どんどん話が進んでいって、

長山先生「一応、お相手の女性の方もご家庭があると言うことは、もちろん相手にも旦那さんがいらっしゃるので、Meさんが訴えを起こした事で相手の旦那さんからMeさんの旦那さんが訴え返される事も可能性としてあります。」


と言う。
もちろん承知の上だ。
私はためらわずに言った。


真顔「はい。大丈夫です。それに関して私は関係ありませんので」

長山先生「なるほど。それなりの覚悟がおありということですね。はい、分かりました。」


そんな感じで話は進み、次はお金の話に移行した。

と言うのも、私は専業主婦で自由になる大きな資金がない。そしてそんな人の為にあるのが法テラス。

法テラスの仕組みは至って簡単。
要するに、弁護士費用のローンを組んで弁護士を雇える。しかも国の補助があるので、普通の個人事務所に依頼するよりも破格の値段でお願いできるのだ。

私は先生から一通り説明を受け、法テラスの審査書類に必要な事項を記入した。

足りない書類に関しては後日、住民票などを取り寄せて事務所に郵送する事になった。

先生が言うにはその審査の期間は2~3週間かかるとの事。

その結果を待ってグリコの本名、住所など、弁護士照会を進めようという事になったのだった。


あっという間に時間が経ち、私は法律の専門家に全てを話した事でとても爽快な気分だった。と、同時に見えない未来への不安もあった。

でも、もう戻らない。
私はとことんやると決めた。