その日は入社初めての健康診断があって、わざわざ片道1時間半ほどの距離にある病院を予約していた夫。


平日近場の病院に行った方がいいよ、オプションも充実しているし、と、何度も進言したが、どういう訳か夫は「日曜日にやっている病院」というのに拘った結果、朝早くから全く土地勘のない市外の病院へ行く羽目になった。


夫が今の会社へ入社してから早4ヶ月が経過していたが、体感は、まだ4ヶ月しか経っていないのか、と思う位、まるで長く遠い道程を歩いてきたように、振り返ってみて初めて1日1日の濃さを思い知った。


この健康診断は言い換えれば正社員への片道切符でもあるはずだが、夫自身、これから正社員になるのかともならないとも分かっておらず、また、雇用主にも何も確認もしていないと言う状態だった。


今思えば、その時にはもうそんな事に関心も無かったんだろう。


私も丁度用事があり夫とは時間差で外出していた為、帰宅したのは夕方頃だったが、夫はもちろんもっと早く帰宅していたので、それからはずっと部屋に籠っていたのだろう。

帰宅して早々部屋に入ったところでふと夫の顔を見ると、何だか妙に気まずそうな顔付きをしてこちらを見返して来たのに何となく違和感を覚えた。


さも健康診断の時に何らかのトラブルでもあったのかと思い、その時の事を詳しく聞いてみると、しかし自身の健康には全く何の問題も無かったと言う。


それどころか、元々親子代々の高血圧持ちで、ビザが降りる前のインドにいた時でさえ、上は優に140は超えて酷い時には160近くまで上がっていたのに、今では上は120、下は70そこそこにまで落ち着いたと言う。


冗談で、「私が作った毎日の料理が良かったんじゃないの?!」などと言ってみたが、笑うどころか乾いた鼻息しか出なかった。


そして、変な空気になりそうになる前に、夫が意を決したように、


「…仕事、辞めた」


…つまり、理由はキツくて合わなかったと。大雑把に括ってしまうのは少し乱暴かもしれないが、本筋はそう。


もし一つでも釈明するなら、私が最初に、どんな仕事でも3ヶ月は辞めない方がいいよと言ったが為に、ここまで頑張って4ヶ月も耐えてきたけれども。

まぁただ、その中でも群を抜いて、「キツイ癖に給料か安すぎる」という理由。

これだけは盾にされるとどうしても同情してしまった。

確かに、本当に、それだけは私も胃がギュッと縮むほどに酷かった。。(夫にはもちろん言っていないが…)


だけど、だからと言って、会社側からすれば、せっかく正社員にステップアップさせる直前の健康診断で、それも経費でわざわざ受診させたのに受診逃げかよ!とは夫に対して思っているに違いない。。


しかし逃げるも進むもそうなってしまったんだから、今更どうこう言った所で覆水盆に返らず、もうその覚悟と罪悪感があったのか、夫はその月の給料だけはほぼ全額引き出して私に手渡してきたのだった。(普段は半額)


そして、今は、どうやらやりたい事があるらしく、聞けば、車を使う仕事に就きたいと健康診断の当日から僅か1日足らずでドライビングスクールの夏の合宿プランを自分で見つけてきて、いつの間にかとっとと予約もしていて、前金も払っていて、そしてそのスクールが始まるまで現在はぷらぷらしている、という状態だ。


私もお陰様で贅沢さえしなければ、自分の仕事も別に食うに困るという程では無いし、夫のお給料もそこまで当てにしていない為、基本スタンスは「好きにすれば?」という感じなので、家庭内がヒリついていないだけ有り難い事なのかもしれない。


だけど夫は、「女に稼ぎでおんぶにだっこになる訳にはいかない!」という昭和の頑固オヤジみたいな価値観が根底にあるせいで、自分で自分のプライドも柵になっていて、それでいてどこかコンプレックスがあるようにも思う。


遡って行けば、インドのカーストによるプライドだったり、周りの友達の金持ちに具合には到底及ばないというコンプレックスだったり。


夫本人もあまり普段そういう事は考えないようにしたり、口にも出さないようにしているので、私も見ないふりをしている。


さておき毎日家に居るんだから、掃除機ぐらいかけて欲しいな、とか、洗濯機も回して欲しいんだけど、などと思ったりする。


更に夫は毎日ペットボトルのミネラルウォーターだけを大量に飲むので、家にいる時間が長くなった分、まさか災害用にと隠してあった水でさえ全部、1本残らず綺麗に飲み尽くしてしまった時には流石にブチ切れて、給料でもらった中から1万円を突き返して、「水!自分で家用と自分用と分けて買い直してね!!Amazonで!!」と言ったら丸くなった目が更にグラグラ泳いでいた。笑


さて、合宿まであと数日、といった段階だが、果たして合宿の内容よりも、その間の食事はどう工面するんだろう(ベジタリアンの為)と思うのだった。