先生の許可で
久しぶりの我が家…。
病院を出たのが四時過ぎ…。
夫はタクシーを呼んでくれて
すんなりと家路に向う…。
家の近くでタクシーを停めた…。
「ここで大丈夫?」
夫が私を心配してくれる…。
「少しだけ歩けるから…。」
二、三日前から病院の廊下を
歩いていたんだ…。
少し歩くと
5階に我が家が見える…。
そこにはオレンジの明かりが
灯っています…。
急ごうとする夫に
「少しだけ待って…。」とお願いする…。
私は我が家の部屋の明かりを
見つめています…。
「あれが我が家の明かりなんだね…。」
そう思うと不意に涙が溢れて来ます…。
時々、明かりに人影が見える…。
「娘が部屋の中を歩いて居ます…。」
夫が身体が冷えないように
私の手を握って我が家に向う…。
「おかえり!」
娘の大きな笑顔が待っていた…。
「ただいま…。」
娘がテーブルに沢山の
料理を作っていてくれます…。
「なんかレストランに来たみたい…。」
娘が店員さんになって
私の座る席を引いてくれます…。
私は正直、薬の影響で
舌に味覚がありません…。
それでも娘が一生懸命に
作ってくれたサラダや
筑前煮を口にする…。
病院ではゼリーとブドウジュースしか
口にしなかったのにね…。
私はよく噛み締めて
半分だけ食べました…。
残りは夫と娘が食べてくれます…。
「コーヒー沸かすね…。」
それだけは私が淹れたかった…。
コーヒーメーカーに上からお湯を入れて
ひたすらコップを眺めています…。
甘党な二人は
私の淹れたコーヒーを飲んでくれます…。
私は娘の残した一口をすすった…。
二人の顔を見つめる…。
私、砂糖と塩を間違えてた…。
なのに二人はほぼ飲み干してくれる…。
「ごめんなさい…。」
今の私はコーヒーすら満足に
淹れる事が出来ません…。
それでも二人は文句も言わずにに
飲み干してくれる…。
世の中にはとっても美味しい料理は幾らでもあります…。
でもこの世の中で
塩入りのしょっぱいコーヒーを
飲み干してくれる人はきっと居ません…。
嫌な顔さえせず飲み干してくれた
私の家族…。
二人の思いを想像すると
涙が溢れて止まらない…。
私は容器に「砂糖」と
大きな文字で書きました…。
それから私は毎日
コーヒーを淹れています…。
「ありがとう…。」
の気持ちを込めて…。
私を二人の家族にしてくれて
ありがとう…。
一人ぼっちだった私を
家族に入れてくれてありがとう…。
私、コーヒーを二人に
淹れて上げることしか出来ません…。
でも、心を込めて淹れるから…。
私の大好きな家族が一日でも
長く生きてくれたら
私の命は明日は尽きても構わない…。
大好きだよ、貴方…。
大好きだよ、愛夢…。
二人の為にだったら
明日
死んでも私はとっても幸せだよ…。
でも。私、まだ死ねない…。
だって私。まだ、二人に
恩返ししてないもの…。
まだ感謝の全てを
言い尽くして無いんだもの…。
人は嬉しくても
人は悲しくても
涙が勝手に溢れて来て
本当に困っちゃうんだ…。
