小型の大人しい与那国馬が草をはむ小道を、日本で最後に夕日が沈む岬に向かって車を走らせる。

その途中に、この島の哀しい歴史がある。

確かクブラバリって言ったと思う。
重い税に苦しめられて来た人々が、生きる為にやむなく作った悲惨な歴史。

火山岩で出来た島には時々、下の海まで開いている岩の裂け目がある。
妊娠した女性が集められて この裂け目を飛ばされたそうな。
無事飛び越えられた者だけが生き残り、子を産む。
弱い妊婦や年行った者はそのまま海へと消えてしまう。

その地獄のような裂け目がクブラバリ。
幅が狭い所でもなんと1メートル半はある。
助走でもつければ 何とか跳べないでもない距離ではあるけど、そこはイガイガの火山岩。
とても走れるもんじゃない。ましてや昔のワラジなんかじゃ。

今も 何の囲いもしていないクブラバリの底無しの穴を覗き、下に聞こえる海の音に耳をすますと、つい誘いこまれそうになる。

妊娠した妻が、母が、クブラバリに行く前日には 家族はどんな思いで過ごしたのだろうか。
おそらく、自分の命を奪うことになる、その元が、自分の腹に宿った本来ならば愛すべき子。 その子を腹に抱えて 飛び越えられずに 海に落ちて行った母親達。

微妙な距離だから、頑張れば向こう側に手は届く。
だけど無情にもせりだした腹は 引っ掛けた手の力では はい上がる事さえ許さず、血まみれの指のまま、奈落の底へと、どれだけの数の犠牲がでた事だろう。


そのクブラバリの裂け目の向こうに、日本で一番最後に沈む夕日を見られる突先がある。

血の様に赤い夕日が海を染めた後、アヤミハビルの夜がやってくる。

口減らし
クチベラシ

食べる事をやめ、口さえなくし、子をなす為だけに命を燃やすアヤミハビルは クブラバリで散った、哀しい母親達そのものなのかもしれない。