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与那国島にはヨナグニサンと言う世界で一番大きなガがいる。

現地の名前はアヤミハビル。
この方が素敵。
羽を広げると 何と30cmにもなる。
全体に茶色い木の皮のような柄、またはアヤミ、の名の由来の網の目柄。
羽を広げてとまると、大きな鳥の顔にも見える。
鳥に狙われた時に より強い鳥のように装うそうなんだけど、羽を広げて30cmって事は雀なんかよりよっぽど大きいんだから 襲ってくる鳥などいるのかな
島のアヤミハビル館のそばの森では孔雀が ギャーって殺されかけたおばさんみたいな声で鳴いてたけど、まさか孔雀は昔からいたのではないでしょ。

アヤミハビルは とにかくその圧倒的な大きさに心から魅了される。
あの羽で夜の森を飛び回る姿を、一度で良いから見てみたいと思わぬ人はいないんじゃないかな。

そしてね、この魅力的なガには 他には聞いた事がない、ある強烈な特徴がある。

このガは恋の為のみに生きるんだ。

アヤミハビル館では沢山の幼虫がガラス箱に飼われていて、
ふっくらボッテリした白い幼虫達は、桑の葉を規則正しくせっせと食べている。
茶色い頭を振り子のように動かして 一心不乱に食べ続けるからガラス箱の外にまでシャクシャク、シャクシャク食べる音が聞こえてくる。

そして 薄緑色の大きな繭を作る。
やがて時が来て、繭をやぶって誕生した、世界で一番大きなこのガには、
‥‥口がない。

成虫には
食事をする器官は体のどこにも存在しないのだ。

あれほどの食欲の塊であったのに、
羽を得てからは、始めから食欲など持って無かったように。 記憶にカケラすら残っていないのかのように。
羽が完全に開いて渇いたら、やがて恋の相手を探して 音もなく闇の中にひらひらと飛び立っていく。

アヤミハビル
恋をする為だけに生きて、
食べる事も飲む事も鳴く事もなく 命終わる、世界で一番大きなガ。
呪文のような美しい名は誰がつけたんだろう。
あまりに一心なその生き方に、いつものようなオチャラケは言えない気がする。
決して目が覚める程美しい羽ではないけれど、なにか背筋をのばして接しなくてはならないような 敬謙な気持ちになってしまう。

恋の為に死ぬ事が出来た、幸せな恋人達の生まれ変わりか、恋の為に死ぬしかなかった不幸な二人の復讐なのか‥

アヤミハビル
呪文のように美しい呼び名は 恐ろしい程相応しいとおもう。

絶滅危惧種のこのガがよみがえりますように。