エピローグ(3/3)






電気スタンドは消えなかったけれど、


なくなってしまったものもある。


それは、はなみの不思議な能力だ。




「きっと…世界から闇が消えたから…


 能力は必要なくなったのよ。


 必要なくなったというか…


 闇の力がないから、できなくなったというか。


 そう。これが、闇が消えた何よりの証拠。


 そして…酒槻家の十数年にわたる悩みの歴史も…


 ついに、終わった」


みずきが言った。




「なんか…嬉しいような…さびしいような。


 ずっと嫌だったのに、なくなったら急に、


 それほど嫌でもなかったような気がしてくる」


はなみが言った。




「あはは。まあ、そんなものだよ。


 でも、確かに…


 ずっと普通なはなみちゃんも、何か慣れないけどね。


 ちょっと、個性が弱まったんじゃないの」


僕は笑った。




「あ、ひどーい。


 まあ、でも…その通りかも」




ひなげし保育園。


僕とみずき、はなみは全員で机に向かっていた。




「しかし、夏休みの宿題…


 なんでこんなにほったらかしてたの。


 期限が一週間延びただけで、


 結局全部提出するしかないだなんて」




「いや、だって、入院したりとか、いろいろありまして…」


「それ、たったの4日じゃない。


 絶対、ハルキくんが怠けてたせいよ」


「しかも、なんで手伝わなきゃいけないの」


「はなみちゃんがやってるのは自分の宿題じゃないか。
 
 そっちこそ信じられないよ。


 ほぼ全部手付かずなんてね」


「天野くんに言われたくないな」


「ま、いいんじゃない。


 夏は、まだ、終わらないってことで」


「えー。早く終わってほしい」


「はいはい、無駄口叩かないで。


 手を動かす! 頭、使う!」


「そう、頭、使う! それから、頭、照らす!


 ぷぷぷ、あたまテラス。


 久々思い出した。あたまテラス、うける!」


「うけなくていいから」


「にひひ。


 でも、さ。


 闇が消えたっていうけどさ。


 今までと何が変わったんだろ?


 闇がないってことは、


 悪人がいない世界になったってこと?」


「ん…そ、そういうことなのかな」


「そうね。たしかに…


 光と闇の闘いは終わった。


 アマテラスの人たちが闇と呼んでいた存在は消えた。
 
 でも、人間の心から邪心やマイナスの感情が消えたわけじゃあない。


 きっと、私たちはこれからも、


 絶えず光を灯し続けないといけないのよ。


 闇を払うためじゃなく、いつも私たちらしく生きていくために。


 この、命の輝きという光をね!」


「おお、なんかそれっぽい!」


「じゃ、話もまとまったところで…


 それ、スイッチ、オン!」


「って、勝手に押すなよ。


 おもちゃじゃないんだけど」


「いいじゃん。


 うーん、相変わらず、いい色」


「別に嬉しくないよ」


「えー、褒めてるんだよ。


 こんなに天野くんの電気スタンドを愛してるのは、


 私くらいだと思うよ」


「いや、愛さなくていいから」


「照れなくていいよ。


 照らせ! 頭照らせー!」


「ああ、もう、何なのアンタ達! 


 手伝ってあげてるんだから、


 真面目にやりなさーーーい!!」






季節が変わる。


僕たちは、未来へと進んでいく。


この光を、たずさえて。






(おわり)

エピローグ(2/3)






全てが終わって目を覚ましたとき…


世界の全てが変わっていた。


僕の頭から…電気スタンドは消えていた。


「もう…必要なくなったんだ。


 世界は新しい始まりを迎えた。


 これからの世界には…


 電気スタンドも、闇も存在しない。


 新しい毎日が始まるんだ」


誰かが言った。


「そう。新しい世界。


 そこには電気スタンドも、闇も、


 夏休みの宿題も、存在しない…」




ん? 夏休みの宿題?


ちょっと待てよ?




僕はベッドから転がり落ちた。




「うわ、ゆ、夢か…」




辺りを見回す。


僕の部屋。ではない。


すぐにはここがどこか思い出せなかった。




そうだ。僕の家は、メチャメチャに壊れてしまった。


それで、みずきがホテルの部屋を準備してくれたんだった。


一緒の部屋に、父さんとマサキが眠っていた。


隣の部屋には、母さんとちなつがいる。


僕は頭に手を伸ばす。


そこには、確かに電気スタンドがはえている。




「夢、か。やっぱ、これは…消えないよな」


なんだかホッとしたような、残念なような気持ちになった。




「そ。あたし達は、こんな頭で生まれてきた。


 それは、変わらない事実。


 だけど変わったことがある。


 倒すべき闇の化身は…闇は、もう、いない」




窓際に、誰かが立っていた。ひかるだ。




「ハルキ。


 これからの未来、行く先を遮るものは何もない。


 そして…今のハルキなら、進むべき道を


 ちゃんと見つけることができるはず」




「ひ、ひかるさん」




「最後にさ。いいこと教えてあげる。


 アタシの本当の名前。


 みふゆ って言うんだ。


 “ひかる”は自分で考えた名前でさ、


 H・A・R・U・K・Iを並び替えただけ。


 気づかなかっただろ。


 冬の次には春が来る。


 単純なネーミングだよな」




そう言ってひかるは笑った。




「じゃ。アタシはまた、どこか別の場所で暮らすよ。


 みんなに、よろしくな」




「ま、待って…ひかるさん。


 あ、み…みふゆ、さん。


 僕には、消えた記憶がある。


 だけど、思い出したんだ。


 10年前のあの日、僕をかばって…


 一人、組織に入っていった人がいたこと」




「そうみたいだね。


 じじい、余計なことしやがって。



 まあ…昔の話だよ。


 それにさ。


 組合は約束を破ってハルキを迎えに行った。


 アタシはそんな組織を離れた。


 結局のところ、何が良くて何が悪かったかアタシには分からない。


 きっと、全てが大きな歴史の流れの中で起きたことなんだ。


 確かなことは…ハルキは、立派に役目を果たした。 




 ま…とにかく、アレだ。


 なんか…その、ちょっと、照れくさいからさ。


 しばらくは、みんなに会うのは…


 恥ずかしいよ。


 お正月には、帰るかな。ははは。


 また会おうぜ。バイバイ!」




「あ、待って…」




光があふれた。


その光が消えた時、ひかるの姿も消えていた。




ほんの少しの間だけその場所に残った香りを、


僕はとても懐かしいと思った。





(エピローグ2・END)

エピローグ(1/3)






「10年前の…あの時の少女の言葉…覚えているか」


老人はつぶやいた。




「ええ。忘れはしません。


 自分は組合に入り…どんなことでもする。


 その代わり…弟には手を出さないこと。


 二度と関わらないこと。


 弟には…普通の人生を歩ませてあげたい。
 
 それを約束すること」




「なぜ…あんな申し出を、


 ワシらは受け入れたんじゃろうな」




「え…」




「あんな判断をしたのは、後にも先にもあの時だけじゃ。


 姉が弟を思う心に胸を打たれた…それもある。


 しかし、もっと…


 何か、大きな力が働いていたように…


 ワシには思えるんじゃ」




「大きな力…ですか」




「結局…ワシらはその誓いを守れなかった。


 そして…少女も、私たちの元を離れた。


 ワシらの選んだ道には…どんな意味があったと思う」




「ですが振り返れば…


 全てが予言の通りになりました。


 これは…あらかじめ定められた運命だったように、私は思います。


 それを大きな力と呼ぶのなら、そうでありましょうな」




「定められた運命、か。


 確かに、こうなることが最良の道だったのかもしれん。


 なぜ…組合と別の道を歩んだ少年が最後の戦いに選ばれたのか…


 ワシには、分かる気がする。


 闇の力と戦うのではなく…


 闇を…その闇自身から解放する。


 その道は、ワシらでは見出せなかったじゃろう。
 



 組織は…最終的には、彼ら二人に敵わなかった。
 
 いや…比べること自体、無意味であろうな。


 これで良い。


 全ては…これで良かったのじゃ」




「あの時の少女の決断が…


 何かの意味を持っていたと思われますか。


 自分を犠牲にして、弟を守ろうとした力が


 世界を光に導いたのではないか、と?」




「どうじゃろうな。


 全てを知るには…ワシらの存在は小さ過ぎる。


 確かなことは…


 年寄りが何か手出しをする時代は終わったということじゃ。


 もう…ワシの日記に光をあてても、何も光らんしの」




そう言うと、ヤエモンは日記帳を机の上に放り投げた。




「未来は、ワシらの手を離れた。


 これからは、彼らの時代じゃ」



老人は、窓の外を見た。


そこには、よく澄んだ青い空に…太陽が、眩しく輝いていた。





(エピローグ1・END)