(8)
「な…どういうことだ」
「教えてやろっか。
この病院… 病人なんて、
はなから一人もいなかったんだ」
女の言葉に、僕も驚いた。
「え、ど、どういうこと…?」
「今日の夕方までに、全患者を都内のあちこちの病院へ移動させた。
今、お前が操ってる患者も、
殺したと思っている病室の患者も、
全員アタシが雇ったエキストラなんだよ。
停電になったくらいで死ぬ人は一人もいない。
残念だったな」
な…なんだ、それは。
「そ、そんな馬鹿な… い、いつの間に」
「だから今日の夕方までの間だよ。
あんたが夜に来るって情報があったんでね。
今の時代、受け入れ先を探すのがどれだけ大変か、わかる?」
「ど、どうやって…」
相手は明らかにうろたえていた。
「あんたと同じだ。
電気スタンドで、病院内の人たちを操った。
あんたが来るより、ずっと早くね。
この病院はいいね。
天窓からの光が吹き抜けで1階まで届くんだから」
僕は上を見上げた。
確かに、この病院は吹き抜けの構造で各階が繋がっている。
「病院内に入るとさすがに目立つからね、この頭は。
外から操るのは大変だったぜ」
いったい何人を同時に操ったんだ。
電気スタンドの力…
ちょっと、何でもアリ過ぎじゃないか。
僕は思った。
「ハハハハハ。
そうか。おもしろい。
だがしかし…、計画に何の変更もない。
このままはなみを捕まえることさえできれば、
俺の使命は達成されるのだからな。
行け、皆の衆!」
またも時代錯誤的な号令に合わせて、
数百人が一度にこちらへ向かってきた。
「ちょ、ちょっと…どうするのよ、どうするのよ。
みんなこっちに向かってくるわ!」
みずきの甲高い声がフロアに響いた。
迫り来る、いくつもの電気スタンド。
それでも女はあくまで落ち着いていた。
「あんたの負けだって言ったろ。
格が違うんだよ。
残念だったな」
そう言うと、彼女の頭の電気スタンドが光を放った。
さっき地下ではなみが襲われたときと同じだ。
光を浴びた人たちは、一瞬で後方に吹っ飛ばされた。
それは、ほんの数秒の出来事。
誰一人、立っている人はいなくなっていた。