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菊子は孝利に感謝していた。源次おじさんに良い所を紹介してくれたと言った。お蔭様でわちも家族も助かったと言うのだ。孝利は僕もいい人を紹介出来て親方に喜ばれているよと言った。

「それは良かったわ。源次おじさんがそんなに働けるとは思っていなかったものね。元々漁師でそれ以外の仕事はした事が無い人だから、長続きしないと思っていたのよね。ところが源次おじさんは喜んで仕事に行くじゃないの。わちはびっくりするやら有り難いやら本当に驚いてしまったよ。孝ちゃんと源次おじさんの御蔭でわちたち親子はおまんまを食べて行けるんだもの、今では感謝して源おじさんには足を向けて寝られないほどよ。本当にさ。敷布団も二枚にして寝てもらっているんだよ。なにせ板の間だからね。布団一枚じゃ痛かろうと思ってね。源おじさんは恐縮していたけどわちの感謝の気持ちだよ。だってさ源おじさんは煙草も吸わずお酒も飲まずに働いた分のお金をそっくりわちに渡してくれるんだよ。もう。神様みたいな人だね。もう少し経ったら家の旦那さんも働けるようになるだろうからそうしたら源おじさんにゆっくり休んでもらおうと思っているのよ」

「源さんは働く事が楽しいと言っていたよ。働く事が生き甲斐になったんだって。だからおじさんが動けるようになっても源さんをやめさせちゃ駄目だよ。源さんは岡で働いて岡の男になるんだと言っていたからもう海には戻らないそうだよ」

「あらあ、そんな事を言っていたの。わち達には何にも言わないのにね。孝ちゃんには気を許しているんだね。良かったこと。これからもお友達になってあげてね」

菊子に源次の友達になってくれと言われて孝利は照れくさい気持ちだったが悪い気はしなかった。源次は孝利の父親以上の年だったが何故か友達のような気がしていた。父親と言う気持ちよりも友達という気持ちの方がしっくり行くのだった。

孝利と源次は夏になっても阿部組で働いていた。孝利の肌も日焼けして逞しくなって行った。源次ほどではなかったが筋肉も付き、さすが若い者だと親方が言うほどに成った。

工藤家の主も仕事に復帰したが源次は阿部組で仕事を続けた。もう、のらくらしては居られないと源次は言った。働く事が源次の喜びになって居た。仕事から帰ると菊子は主と源次の為に晩酌を用意して待っていた。源次は自分から酒を求めるような事はなかったが用意されると黙って飲んだ。菊子としては亭主だけに酒を出すのは気が引けたのであった。源次に対する感謝の思いを晩酌で表していた。久雄は飲むとご機嫌で良く喋ったが源次はむっつりとしたままだった。それでも久雄の冗談に時折は笑い顔を見せるようになっていた。菊子はそれが無性に嬉しかった。源おじさんの笑顔は千金の値があるねと言った。すると源次は照れて笑顔をやめてしまうのだった。源次は働いた金の総てを菊子に渡した。お小遣いと言って多少の金を源次に渡しても受け取らなかった。源次は交通費等必要な金をポケットに入れておくだけで少しの欲も蓄えも無かった。菊子はそんな源次の為に少しづつ積み立てを始めた。源おじさんが必要になった時に渡せるようにと何時でも降ろせる郵便貯金を始めたのであった。