先日6月28日『探偵!ナイトスクープ」で、ラグビー愛に燃える息子が中2で突然死し、心の整理がつかないと悩む40代のお母さんからの「亡き息子になって、息子が憧れる強豪校東福岡高校に行ってラグビーをしたい」という依頼を取り上げた。担当ディレクターの力作となり、感動的と話題になったが、私には苦い複雑な思い出を蘇らせた。今から60年も昔の話である。

 当時、私が通っていた福岡高校はラグビー全国大会最多出場を誇っていた。幾度となく全国制覇し、OBに新日鉄釜石を、主将・監督として日本選手権4連覇に導き、元日本ラグビー協会会長の森重隆や、元日本代表の福岡堅樹など多くの名選手がいる。今でも熱いラグビー愛にあふれているだろうが、当時は、一歩校内に入るとラグビーの汗の匂いが漂い、校舎のあちこちにラグビーの染みが浮き出ていた。体育はラグビーに多くの時間が割かれ、ラグビー部の顧問の先生から指導を受け、クラス対抗試合をよくした。その一つに忘れられにいシーンがある。

 全く勉強が手に付かず絶望のどん底生活を送っていた2年生の時、ラグビーのクラス対抗試合があった。相手チームには巨漢のフルバックがいた。誰も彼も弾き飛ばされトライができない。勝つことを諦めかけていた時、チームの誰かが足の速い私にボールをパスしてくれた。一心に相手ゴールに走った。が、やはり仁王様のような巨漢が両手を広げて突進してきた。インゴールに走り込み、ボールをグランドにタッチしようとした瞬間、弾き飛ばされた。ダメかと思いレフリーを見ると、トライを宣言してくれていた。確かに微妙なシーンだがこちらのプレイを好意的に見てくれたのであろう。あの時トライを認めてくれ先生に今でも大変感謝している。その後、みんなに勧められボールを蹴ると、ボールは絶妙なカーブを描きゴールポストのど真ん中に吸い込まれた。その瞬間、今まで感じたことのない不思議な歓喜で心がいっぱいになった。

 あれ以来、心がへこんだ時、ボールが絶妙なカーブを描きゴールポストに吸い込まれるあのシーンを、無理やり思い出す。そして自分を勇気付けた。あんな爽やかな奇跡もあるんだと。これは普通の人には大したことのない小さな事だと思うが、私には高校生活でたった二つしかない大切な幸せシーンの一つだ。私にとって、ラグビーは青春に咲くアザミのように棘があり哀しくてそして美しい思い出だ。