人生は思うようには行かないものだ。誰しもそうだと思うが、気が付くと思いもよらない世界に来ていた。

 今年で放送作家になって50年になるが、今まで一度も放送作家になりたいと思ったことはない。私は人生を漂流したのだ。

 きっかけは中学3年の春だった。10歳年上の兄からのDVを受けた。運動神経も良く、勉強も出来、女の子に持てた弟を兄は日ごろから面白くないと思っていたのだろう。そして堪忍袋の緒が切れた。私が夜中勉強していると部屋に来て「勉強するな。寝れんやないか!」と血相をかいてわめき、私の机の上の本やノート、電気スタンドまで払い落した。その時もうこの家では勉強出来ないと判った。こつこつと積み上げてきた私の受験勉強のシナリオが崩壊したのだ。私の中身の実像が消え、影だけになった。

 その後はいくら机に向かっても頭に入らなかった。空回りした。ひどい人間不信に陥った。いきなり強烈なパンチを食らって奈落の底に落とされたようだった。7年半、いや8年間ももがき続けた。しかし、すべての努力も報われず。気力も体力も消え失せ、魂の炎も消えた。

 魂の炎が消える直前、一人の女性と出会った。恋をした。残った魂の炎をすべて恋に燃やし尽くした。線香花火の最後の玉が落ちるように死んだ。

 ありがとう!生まれてきた良かった。これまでの苦しみはあなたと出会って熱い恋をして消え、喜びが上回った。そう思い幸せを感じた。

 何も思い残すことなく死んだ私だったが、彼女は死んだ私の魂をあの世に行ってこの世に持ち帰って来てくれた。そしてこの世で私を再生してくれた。

 奇跡が二度も起こった。一度目は彼女と出会えたこと。二度目は彼女にあの世から魂を持ち帰りこの世に再生してもらえたこと。

 彼女は女神様だ。しかし、この世に再生した時には女神様は私の手の届かない遠い遠いところに行ってしまっていた。

 そのあたりのことは必死に小説に書いた。いずれ本にして出したい。

 そんな人生を経て今日に至っている。随分遠回りして現在を生きている。