大熊猫です。

ただいま放映中のテレビドラマ
「流星ワゴン」で
広島弁で豪快なお父さんを役を
演じる香川照之さん。

昔 観た映画「ゆれる」でも
すごく平凡なのに どこか狂気を秘めてる
田舎に残ったお兄さんを演じていて
感嘆させられましたが。

この方は
どんな役を演じられても
はまっている。
つまり それだけ演じるということに
天才的才能がある方なのでしょうね。
本当に頭の良い方ですしね

そんな 香川照之さん、
文章を書く才能もおありなのです。
 
中国魅録 「鬼が来た!」撮影日記 

香川さんが1998年8月~12月まで
中国 河南省にて 撮影に参加した
「鬼が来た!(中国名 鬼子来了)」
という中国映画の撮影記です。

この本は 私は
実際に映画を観る前に読んだのですが、
映画を観る前に読んでも 面白く、
映画を観てから読んでも面白い
撮影記録となっています。

監督は
姜文(Jiang Wenじゃんうぇん)
 
映画監督というより
俳優として「紅いコーリャン」「芙蓉鎮」という
映画に出ていた主演男優、
と言った方が 日本人の方には分かるでしょうか。

彼が初めて監督した
「阳光灿烂的日子 (日本名 太陽の少年)」
という映画も とても良い映画で、
当時 娯楽のあまりなかった大熊猫は
確か3回くらい 機会を見つけては中国国内の
映画館に観に行きました。
文化大革命時代の
自身の少年時代を映画にした
ちょっと切ない気持ちになる青春映画でした。

「鬼が来た!(中国名 鬼子来了)」は
彼の監督 第二弾です。
2000年カンヌ国際映画祭
審査員特別グランプリを受賞しました。

中国語で
鬼子 と言えば
外国人を罵る言葉で、
残念ながら 現在は
ほぼ日本人を指す言葉となっていますが。

この映画は
テレビで大量に生産されている
単純な反日教育プロパガンダ的作品ではないと思います。

冒頭
「気をつけ~」の大音量日本語で始まり、
映画全編にわたり 軍艦マーチが流れる映画。

白黒の画面が続き、
河南省ののどかな農民たちの
強烈な方言が印象的な映画なのですが、
最後の最後の一場面がカラーに変わって、
とてもシニカルな結末で終わる映画です。

日本人が
この映画を観て
気持ちが良いか、というと
正直 気持ち良い映画ではありません

が、
途中には コミカルな場面もあって。
例えば 中国人に囚われた香川さん演じる花屋という日本兵が
「あいつらを怒らせるために 中国語の罵り言葉を教えてくれ」
と中国人通訳にいうのですが、
通訳は保身のため、 花屋に
「大哥大嫂 过年好(お兄さん、お姉さん、新年おめでとうございます)!」
と教え、
それをひたすら怒鳴る花屋と
ニコニコする農村の人という場面や。

中国の子供たちに
手品を見せ、片言の中国語をしゃべりながら
飴をあげる優しい日本兵。

などという描写もあります。

香川さんの撮影記は
香川さんたち 現代の平和な日本社会に生きる
日本人俳優や留学生たちを
戦時下の日本兵の状態にするための
軍事訓練の様子から始まっています。

炎天下の軍事施設の中
衣装を着け、
ただ起立状態「気をつけ」30分×5セット
最後の1セットは1時間。

銃を持った捧げ筒、ほふく前進。

訓練外でも
ホテルにいる しゃおじえ(服務員)との
もう頭が痛くなる訳わからないバトル。

中国人スタッフとのこれも理不尽な闘い。

とにかく
香川さんは
頭の中身に
ぐぃと手を入れて 
かき混ぜられたような衝撃を受けながら、
そのことを上手に文章にされています。

結局
この映画は
中国国内で発禁処分を受ける映画となり、
(国の機関の許可を得ず、海外の映画祭に出品したため)
姜文も 俳優としては復活しましたが、
2005年まで 次の映画を作ることが出来なくなりました。

香川さんが撮影記の中で
その4ヶ月をポーカーゲームに例えています。
これが 言いえて妙です。

「ポーカーの手持ちカードは5枚。
私は 大した数でもない 2ペアにしがみつき、
それをずっと手の中に暖め、
あとのラッキーな3枚をずっと待っている。

しかし、1998年の8月12日(中国に渡航した日)
ゲーム場に大量の中国人がやってきて、
私の手から 私が後生大事に持っていた2枚をビリビリニに千切り、
いや 5枚もろともあっという間にもぎ取って
ぎゃあぎゃあ喚きながら
その代り適当にそこらから4枚だったり6枚だったりする
カードを持ってきてくれるのだがそれではゲームにならず。

我に返って辺りをみれば、
カードを盗む者、
カードを売る者、
カードを複製する者、
カードをただ ぼぅっと眺めるものでごった返してしまっている。

4か月後、
彼らから最後に持たされた5枚(もちろん数は偶然「5」だった)
のカードを飛行機で見てみたら、
なんと生まれて初めてのフルハウスが出ていた
(大熊猫的抜粋)


終わってみれば
夢みたいで
地獄みたいな中国映画撮影記。

香川さんにとって もう 二度と行きたくない国=中国に
なったのか、と言えば
その後 監督は違いますが
2003年「故郷の香り(中国名 暖)」という中国映画に
また 出演されています。

中国人の方と深く付き合うと
自分が今まで日本で持ってきた
考え方やルールをズタズタにされてしまいますが。

あのどこからくるのか分からないパワーを
解明したい気にもなります。。。

でも、
きっと一生 理解できないな(笑)

中国魅録 「鬼が来た!」撮影日記 香川照之著