小学生の頃、犬が飼いたくて飼いたくてたまらず
毎日、親に子犬を貰ってきてくれとせがんでた。
当時はペットショップで犬を買うなんて金持ちダケで
普通は近所から雑種の子犬を貰ってくるのが一般的。
そんなある日、話を聞きつけた親父の友達が家に来て
「犬を譲ってくれる人がいるから一緒に来い」と言う。
その友達ってまるでジャイアンがそのまま大人になったような人なので
子供心に一抹の不安があったのだが、とにかく急いでついていく。
車で少し走った所にある古い家に着くと無口なジィさん、バァさんがいて
コッチを見もせず挨拶もせず、怒ったように裏口を指差した。
ソコには汚れたヒモに繋がれた結構な大きさの成犬が2匹。
毛はボウボウ、フテブテしい面構えでソッポを向いている。
(えっ・・まさか・・この犬?)
そのまさか、だった。しかも2匹とも連れてけ、と。
(いやオジサン違うんですボクは子犬がイイいんですソレも1匹だけ・・)
口をはさむ間もなくトラックの荷台に2匹を載せてさっさと動き出す。
ジィさん、バァさんは諦めたように背中を丸めて家の中へ。
(・・何だか凄く悪いコトしたみたいじゃん・・)
結局、ジャイアンオヤジが「知り合いのガキが犬欲しがってるから
お前のトコの犬、邪魔なら譲れよ!」と無理強いしたようだった。
んで確かに歳とって持て余し気味だし、これからのコト考えると
今、誰かに貰ってもらったほうがイイと決心したんだそうだ。
でも、とはいえ罪悪感っつーか後味悪いコトこの上ない。
★
そんなワケで、とにかく2匹は家に来た。
そしてその日の夕方。
ケンカしたら自分より全然強そうな2匹を前にして
さぁ2匹分の犬小屋とかどうしようかと思案してた時。
一瞬のスキを見て2匹が猛ダッシュで逃げだした!
「こらっ!待てぇー!」
無我夢中で追いかけたけどあっという間に2匹は消えた。
家族総出で夜遅くまで近所を探し回るものの全然見当たらない。
ジィさんバァさんだけじゃなく、当然アイツらも混乱してたんだな。
そりゃそうだよな。
住み慣れた家から離され、いきなり見知らぬガキが主人だなんてな。
(ゴメンなホントに)
寝付けないまま夜を過ごし、次の朝。
まだ薄暗い中、妙に胸騒ぎがして急いで玄関を開けた。
するとソコはその年初めての雪が降っていて一面が白かった。
そして。
玄関の前には神社の狛犬みたいにジッと動かず座る2匹が。
顔や頭にイッパイ雪が降り積もったまま胸を張り座る2匹が。
一晩かけて覚悟を決めたのか。
(オレ達はこの子の家で暮らすしかないんだ)
そう思い直して戻ってきたのか。
まるで決意表明するみたいに雪の中、微動だにしない。
犬ってスゴイ!とその時思った。
飼主の事情とか全部分かって迷惑かけまいと決心したんだな。
彫像のように気高く並んで座る姿を見てたら涙が出た。
★
結局、その日の昼に2匹をジィさんバァさんの元に
返しに行った(後でジャイアンには怒られたけど)
迎えてくれたバァさんは昨日とは別人のようだった。
「ありがとうなぁ」
そう言って嬉しそうに2匹を撫でていた。
強引に頼まれて手放したものの、やっぱり後悔してたんだね。
★
あの犬達とはソレが最後。
たった一日だったけど何だか色んなコトを教えてくれた2匹。
お前らのコト、時々思い出すよ。
いつかまた会いたいな。
覚えてくれてたら嬉しいな☆