小学校の同じクラスに「オビン」って子がいた。
このオビン。
見てくれは、まぁぶっちゃけゴリラそのもの。
野性児そのままにいつも走り回り、運動神経も凄くて
馬跳びでもドッジボールでも校内リレーでも何でも一番。
いつも大きな声で明るく笑い、照れるとすぐ真っ赤になった。

バカなコトを言って、みんなを笑わせてばかりいるくせに
意外と勉強も出来て、女子からの人気もなかなかのモンだった。
つまり人気者だったワケです。ゴリラなのに、ね。
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そんなオビンが一度だけ、おかしくなったコトがあった。
ある日の授業で。
教科書に載っていた、優しい両親に恵まれた幸せな子供の話を
先生が読み始めた時。
一番前の机にいたオビンが、突然奇声をあげて騒ぎだした。
「ウッワァ~!!」「ギャァ~!!」
顔を真っ赤にして立ち上がり、手を振り回して叫びまわる。
「ウッワァ~!!」「ギャァ~!!」
先生は呆気にとられ、みんなも何が起こったのかワケがわからず
教室全体が固まっていた。ただ一人、ヨシダ君を除いて。
「お、おい・・どうした?」
先生に訊かれても理由を言わないオビンは、そのまま職員室へ。
ザワザワする教室の中でも、やっぱりヨシダ君だけはうつむいていた。
ヨシダ君。いつも大人しくて誰ともあまり喋らず運動も苦手な子。
つまり全く目立たず、みんなから少し外れていつも隅に居るような子。
そのヨシダ君は、事故で両親を亡くしていた。
みんなも、そして先生さえも、そのコトに全く思いが至らなかったのに
オビンだけは違ってたんだ。
美しい親子愛のような話を先生が読み始めた時、親のいないヨシダ君に
聞かせたくなくてどうしようもなくなって、夢中で大声を上げて授業の邪魔をしたんだ。
普段、ロクに口もきいたことのないクラスメイトの為に。

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オトナとかコドモとかの区別なく。
本当の意味で、自分のコトのように他人の痛みが分かる人。
本当の意味で、自分のコトのように他人の心の傷を想う人。
この世界に誇るべき人間が居るとするなら
あの時のオビンこそが、そうだったと思う☆