箸。 | 私的リーガル項

私的リーガル項

古いアメ車と暮らす日々。犬のコト、その他諸々を。


書こうかどうしようか、ちょっと迷った。

振り返れば、胸に刺さったトゲがメチャクチャ痛むから。


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子供の頃、遊びに行ったヒデ君の家で夕食をご馳走になった時。


ヒデ君のお父さんが私の箸使いを見て、「ソレはアカンなぁ。

お母ちゃんは、ちゃんと教えてくれなかったんか?」と一言。



今ならわかる。



子供のうちに正しい箸の使い方を教わらなければいけない。

だから、あえて厳しく言ってくれたんだ、って。


でも勿論ガキの私には、よその家でよその家族の前で

注意されたコトが、ただただショックで恥ずかしくて。


その日、家に帰るなり母親に詰め寄った。


「なんで箸の持ち方とか教えてくれへんかったんや!」

「恥かいてしもたやないか!」


親が商売をしている為に、典型的なカギっ子だった私。


忙しい母には、ゆっくり一緒に食事する時間も箸使いを

教える時間も無いコトくらい、理解出来ていた筈なのに

持って行き場のない怒りのまま声を荒げてしまっていた。



母は何も言わず、黙ったまま目を伏せる。


そして。


そして、その時、母の視線が自分の右手に向いている事に気付いた。



母の手には指が足りなかった。


幼いうちから働きに行かされていた母は、まだ10代半ばで職場の

工場で怪我をして指を失くしていたのだ。箸を持つ右手の指を。


救いようのない愚かな私は、そのコトをすっかり忘れていた。



何が「何で教えてくれなかった?」、だ!

何が「恥をかいた」、だ!


教えようにも教えられないんだ。

息子にさえ、手を見せたくなかったんだ。


・・私は最低だった。



毎日一緒にいるのに。一生懸命育ててくれてるのに。

そんなコトにも気付けなかった、なんて。


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その母親が亡くなってから2年が経つ。

最後までちゃんと謝れないままだった。


今でも時々、本気で自分を殺したくなったあの日を思い出す☆