以前に書いたヒゲと並んでもう一匹、私には忘れ難い犬がいます。
実家の隣にあった、古いパン工場の裏で飼われていた白い犬。
名前もそのまま、シロ(と、みんな呼んでた)。
見た感じは

ソフバンのお父さん犬みたいだけど、もうちょっと大きかったかな。
紀州犬の血を引いているらしく、真っ白な体と凛々しい目をした
とてもとても賢くて、どこまでも優しい犬。そして我慢強い犬。
長い付き合いだったけど、シロが一度でも暴れたりイライラしたり
スネたり吠えたりするところを、ついに見るコトが無かったもんな。
草ボーボーの手入れされていない敷地に、いつも繋がれたままで
ちゃんとした世話もほとんどされず、常にポツンと一匹ぼっち・・。
それなのに、いつでも機嫌良く近所の悪ガキ達の相手をしてくれた。
学校の行き帰りは必ずシロに挨拶。
シロも嬉しそうに尻尾を振って挨拶返し。
日々の出来事、特に悲しかったコトは何でもシロに話したっけ。
跳び箱の6段が飛べずに笑われた、文化祭のバンド演奏でトチった、
チエちゃんにフられた、第一志望に落ちた、エトセトラエトセトラ。
シロと並んで腰を下ろし、一緒に夕焼けを眺めながら喋っていると
いつの間にか気持ちが落ち着いて、笑顔が戻ってくるのが不思議。
さて、と立ち上がってジーンズの土をパンパンと払いながら振り返ると
いつも最後に一度だけぺロっと手を舐めて見えなくなるまで見送ってくれた。
あのコトもこのコトも知ってるのはオマエだけだぞ、シロ。
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小学生から中学、高校と進んで大学生になっても、やっぱりいつもソコにいて
昔と変わることなく、静かに尻尾を振りながら小首を傾げて出迎えてくれる。
そんなシロの姿が消えているコトに気付いたのは、色んな壁にぶつかりながらも
何とか無事に、二十歳を迎えて少し経ったある日のこと。
しばらく会っていなかったシロの顔が見たくて、パン工場に行ってみると
アルミの食器や繋いでいた鎖がキレイに片付けられて、犬小屋だけがそのまま・・
オトナになるにつれて、どんどん世界が広がって色んな楽しみを覚えて。
いつしか実家からも離れて遊び歩いてる間にオマエは居なくなっちゃったんだね。
サヨナラも言えなかったよ。寂しいな。
でもな。
それでもオレ達、ずっとホントの親友だったと今でも信じてるんだ。
そうだろ、な、シロ。
そうだよな。