ロン彦の朝は、一杯のコーヒーから始まる。
「ニガい」
しかし、ブラックは苦いので苦手だ。
その中に毒をティースプーンでひとすくい。
シナモンのような少し刺激的なアマ味が、ロン彦の大人びた舌を潤してくれる。




~ズッコケ探偵カイワレーズ クソヤッホー誘拐事件~




<いぃ~い>

直江がロン彦の部屋の軋んだ扉を勢いよく蹴り飛ばした。
「ロン彦ぉ、お前また毒のビンを燃えるゴミに入れたな?分別はちゃんとやれっていつも言ってるだろ」
「焼却所はきっと毒のビンもロンパしてくれる」
直江の口角がひきつる。
「焼却所に論破力を求めるなよ」
やれやれ、と直江はマスク、処置用エプロン、プラスチック手袋をつけて毒のビンを分別する。
ロン彦でなくても少量ならば体内に入っても死にはしないが、猛烈な腹痛に襲われるため注意が必要…だ、そうだ。
「毒をロンパできるのはいいけど、他人も同じモノサシで計るなよ」
「え…あ、はい」


「おはよう直江クン、私がギリギリよ」
そういえば君はギリギリさん、随分なあいさつだ。
「ギリギリさん、ご飯も作らずどこに行ったんだ!もうお腹がすいてしまって倒れそうだよ!!」
「どうやらこのような情報が入ったわ。あの子がさらわれたらしいわ」
「なんだってそれは大変だ早く助けなきゃ。で、あの子って誰?」
「タイトルのあの子よ、朝食は抜きで行くしかないわ!」
「わかったよギリギリさん!!」
直江とギリギリさんはロン彦に一瞥もくれず走り出した。

「待て待てぇ、俺の論破力がないと誘拐犯も捕まえられn…早いな」

ロン彦もそれに続いた。




~ウニウニ商店街~
ここはウニウニ商店街、平日はメシの食材を求めた主婦が蔓延し、週末も人がごった返す、賑やかな商店街だ。
探偵事務所の近所で、直江たちもよく顔を出していた。
明け方はまだ多くの店が閉まっている…が、商店街の一角に深刻な表情で話をする集団が目についた。
「落ち着きなさい」
やや小走りで、ギリギリさんは一直線にその集団の輪に入った。
「やや、これはギリギリ様!!」
キュートなぽってりとした体に、愛くるしい右眼、邪悪な左眼、センターマンのように縦に真っ二つに割れた白黒のコントラスト、曲線はなまめかしさすら…要はクマえもんである。

「た、大変だ大変だ!おうおうおうおうおう!!」
「実はヤッホーちゃんが何者かに連れ去られたみたいなんです…このままじゃ誘拐犯の据え膳に…」
「マジチョベリバぁ~、せめて居場所が分かればいいんだけどねぇ」
「どこなの?」
「そうぜ」
「歌うか!!」

クマえもんのほか、ウニ彦、アイドル崩れの人、江ノ島盾子、前田タイソン、LEON、リキも野次馬の中に加わっていた。
「歌うですって…?ギザギザハートのぉ~~♪」
「ちょっとギリギリ様、あのヤッホーがさらわれてるのに歌を歌うなんて人間の屑だね屑!」
「ともかく情報を集めようじゃないか、まずなんでさらわれたのが分かったんだい?」
完璧に脱線したギリギリさんをよそに、直江がマトモなことを言い出した。

その言葉に、LEONが直江の前に躍り出て、黒く煌めく妖艶なノートパソコンを取り出した。
「これだよ。このなんかパカパカするでかい機械」
「これは…ノーパソ!」
「これがノーパソだったなんてぇ~!」
「お前バカだろ。それでどうやってつけるの?」
「ここをこうするのよ」
ギリギリさんがしゃしゃり出てきた。
「どこを?」


<ウィン>


「あ、ヤッホーヤッホー、元気?」
「手短に頼むわ」
「あー?なんだアベックか。あんねー、なんか私の本体がさらわれたみたいなんだよねー。でもどこに行ったのかわかんなくてさー」
「…使えない」
「あ、か、解析の結果デブが犯人だよ!!はい未来予知終わり!!」
「今回はデブが犯人か~。ま、犯人が分かってりゃ楽だね」


<ザッ、ザッ、ザ↓ザ↑ザ→>


遅れてロン彦が合流する。
「よし直江、俺に状況を事細かに教えろ」
「事細かにってったってロン彦混乱するだろ」
「…それ言うなよ…じゃあ三行で頼む」

「ヤッホー
さらわれる
どこなの?」

「わかった。じゃあ直江、ギリギリギザギザ、手分けして情報を集めようじゃないか」
「そうね」
「ロン彦に仕切られるの素晴らしく気に食わないけどオッケー!」


こうして3人の商店街の聞き込みが始まった。





「ロン彦ぉ!何か手掛かりはあったか!?」
「手掛かり?まああったといえばあったしなかったといえばなかったし…」
「なかったんだな!!」

「直江君!有用な情報が手に入ったわ!」
「ホント?まさか、目撃者がいたとか!?」
「ここのスーパーはタイムセールで10時からおひとり様卵1パックまで48円先着100名様までよ!」
「こいつらは頼りにならないな」

「そういう直江君は何か情報はあったの?」
「そうだ」
「実は目撃者がいたみたいなんだ!」
「本当!?そいつの風貌は?どこに行ったの?」
「…それがわかったら苦労しないよぉ…」
「本当に使えない男ね」










(面倒なのでここで終了)