二度目の散髪でも

坊主を逃れた妻は

夕食を食べ、クスリを飲むと

すぐに寝落ちしていた。


よほど、疲れたんだろう。


一日二回の散髪だから

そりゃ、疲れるわな!


これは、私のせい。

ホンマに申し訳なかったデス。



寝落ちから

2時間ほど経った、22時50分頃。


寝る前の

クスリ、トイレ、バッド交換、歯磨きをさせるために妻を起こした。


すると!?


ゆっくりと

履いてるおむつをなで回し

「おシッコは、おむつから漏れてないから、トイレには行かない!」

と、強い口調で言い放つ。


予想外の返事にとまどいながら

「な、なにをぬかしとるん!?」


「漏らす前にトイレにいくんよ!」


「明日の朝までにおねしょしないように。ビチョビチョになり、冷えて風ひかんようにパッドも交換するよ!」


「分かった?!」


と、負けじと強く反論。


しかし

どっしり構え、目のすわった

目覚めたばかりの妻は

よそ見して、まったく聞く耳を立てず

起き上がろうともしない。


妻は

攻撃型の妻へと豹変していた。


パーキンソン病には

よくあることだそうだ。


初めて見る人は

その変わりようにびっくりするだろうネ゙。



おそらくだが

妻のこの豹変は、二度目の整髪で

もともと崩れていた自律神経のバランスがさらに崩れ、『かんむし』を起こしていたときに始まっていたに違いない。


今、思えば

じっとしていられない子供のように

モジモジしながら

「わたし、体がおかしいんです」

と、何度も訴えていたから。


本当は

あのときに止めなきゃいけなかったのを

私が無理やり切り続けた結果だった。


そして

寝ている間にも

変貌をし続けたのだろう。



「あたしは、家を出て行きます!」 


「あたしがいなくなればいいんでしょ!」


と、のたまう妻。


カッチーン!!と、きた私は

「出てけや!!」

と、言い放つ。


売り言葉に買い言葉、ってヤツだった。


どうせ、動けやしないんだから。


すると、妻は

スッ!と、起き上がり

クルっ!と、回り

スタっ!と

ベッドの出入り口に座った。

そして

立ち上り、出て行こうとした。


「なんと、言うことでしょう」


その一部始終を

目撃した私は、ビックリした。


普段は

どんなに頑張っても

起き上がるのでさえ何分もかかっていた。その一連の動作をたったの数秒でこなしたのだから、驚くにきまってる。


もしかすると、コヤツ!

今までは、わざとできないフリをしていたんじゃなかろうか?!と

疑いたくなるほど

それはそれは、見事な動きだった。


だが

危険を察知した私は

豹変した妻を力ずくで制止した。


そして、眠らせた。


あのとき

私が意地を張り続けていたならば

今頃、妻は病院のベッドの上だろう。



私は 

性格だけでなく

妻の持つスペックまでも変えてしまう

妻のパーキンソン病の恐ろしさを

改めて実感した。