「あたしは、恐怖を感じたら現実から逃げている」と白状した妻は、一昨日の妻ではなくなっていた。


それは

以前から約束していた妻の整髪を

昨日の午前中に行ったときの出来事である。


整髪した後の

シャワー、掃除などを考え

浴室で整髪を始めた。


使うのは

専用のハサミ。


これは

前妻の形見である。

前妻は、美容師の免許を持っていた。



ところが

前回とは違い

うまく切れずにジタバタしてしまう。


ついには

それまでおとなしく 

入浴介助用のイスに座っていた妻も

さすがに「疲れた」と切れ出した。


ここからが

妻の豹変の始まりだった。



私だって

必死にやっているのだ。


だが

切れば切るほど

どうにもならなくなってゆく妻の髪型。


「何かおかしい。ユーチューブで観たとおりにならない、できない。前回まではうまくやれたのに、、、」


焦った。


段々と

ワカメちゃん、チコちゃん、じゃりン子チエを足して3で割ったような型になってゆく。


もう、限界か?!


私は

髪を切るときはいつも

「もし、失敗したら、そのときは坊主にしよう」と勝手に決めていた。


なので

妻に「もう、どうにもならないし、これ以上椅子の上で我慢できないのなら、坊主にしようや!」と言った。


妻は「イヤだ!」と拒否った。

ま、当然っちゃ、当然だ。


しかし

私も食い下がる。


自由に

妻の周りを動けない

狭い空間では

これ以上は、私も体力が持ちそうになかったから。



「髪はそのうち伸びてくるヤン。それに、ずっと家の中におるんやから、誰にも見られんし。人前では、帽子被っとったらエエんやから」と切り返す。


しかし

妻は断固として

首を縦には振らなかった。


「チッ!!」