搬送から手術終わりまでの

長い時間に高まる恐怖心が妻を「せん妄」へと誘う。


この『せん妄』が

妻が別人へと変化していく原因だったのである。


次の日の朝...

「病院に連れて行って欲しい」と言うので私は『救急安心センター』に電話した。 

ここでは、急な病気やケガをしたときに「救急車を呼んだ方がいいのか、今すぐ病院に行った方がいいのか」など迷った際に、看護師等から電話でアドバイスを受けられるのだ。

●救急安心センター事業 「#7119」


相談の結果

私は119番に救急車の要請をした。


しばらくして

救急車がうるさくサイレンを鳴らしながらやって来た。私は少し照れ臭かったが、「いざ!」という時はお互い様である。


一時間以上経っても

受け入れ先が見つからなかった。


妻はあれからずっと救急車の中だ。きっと不安で喉も乾いていたに違いない。

当然、救急隊員が適切に対応をしてくれたはずだ、と今でも信じている。


やっと決まった病院は

自宅からかなり離れた所だった。

妻は救急車で、私は自家用車で病院へ向かった。


私が病院へ追いついた時

妻を乗せた救急車は、まだ妻を搬入できずにいた。


私が着いてからも約一時間。

やっと救急外来へと搬入された妻は泣いていた。生まれて初めて救急車に乗せられた時の恐怖。倒れてから長時間経った自分の身体がどうなっているのか心配だったのだろう。


担当医が

私達二人にレントゲンを見せながら

片方の大腿骨の骨折を告げた。

頭は打っておらず、安堵したのを覚えている。


医者が

レントゲンを見せながら

「骨頭が砕けているので、これから人工骨頭置換術で手術をする」と言った。


その際の

麻酔を全身か局部かの希望を訊くので

私は、「もしも...」を想定し、すかさず局部を選んだ。手術を受けるのは妻なのに。


後に

これが妻の恐怖心を煽り『せん妄』を引き起こす引き金となるのだった

全身麻酔にしとくべきだったのか?!

と反省しても今となっては、あとの祭りである。


その夜から

この『せん妄』が妻に様々な悪さを始める。


妻の

妄想・幻覚などはこの日から始まり

今でもしょっちゅうその顔を出している。