新幹線の

ガード下のふたつ目の交差点に

差し掛かる。


そこでは

必ず信号を待たされる。

通い始めて2年目になるが

青信号だった事は一度たりとも無い。


そして

今回も当然のごとくであった。


コロナ禍と

妻の発病が重なって

もう何年も新幹線に乗っていない。


おそらく

この先もう二度と

ふたりで乗ることなど叶わないだろうと思っている。


この場所からは

その姿型を見ることは到底不可能だが

せめて走り抜ける音と振動だけでもと

いつもわくわくしながら赤信号を待っている。


何月かは記憶してないが

一度だけその醍醐味を味わったことがある。しかし、残念ながら今回は出会えなかった。


信号を

大人しく待っていると

突然「どこにいくの?」と妻が訊いてきた。


その時

ルームミラー越しに見た眼は

まるでこれから市場に売り飛ばされてゆく子牛の様だった。

か?どうか?までは見極めきれなかったが、その声は少し不安気に聞こえた。


「あなたのホネの検査をしに整形外科に。病院、忘れた?」と、俺。


すると 「ふーん...」と、そちらから訊いといてなんとも素っ気ない返事の妻。


少しだけ、ホンマに少しだけイラついた。



2、3日前から

ついさっき出かける寸前まで

あれだけしきりに「病院にゆくよ」と

云い続けてきた事を

もう、すっかり忘れちまっていた。


今日は

2件の病院の掛け持ちをこなしてきた。

思う様に外出できない

妻の負担と天候を考慮してのことだった。


掛け持ちを上手くこなし

道中事故無く妻を連れ帰って来る事ができてホッとしている。



風は

まだまだ冷たいけれど

いよいよ春本番を迎えつつある様だ。