Hello Againああぼくはひとりじゃないんだ。もうひとりじゃないんだ。だってきみに会えたから。ぼくは今泣いている。それはきっと昨日までの自分とお別れしたから。ひとりだった昨日までとお別れしたから。昨日までの自分を想って涙が流れているんだ。そして今日からはずっとずっときみがいる。ぼくの傍にはぼくの隣にはきみがいる。もうひとりじゃないんだ。(チャンドラ、何してるかな…)撮影の合間。ほんの少し気持ちが自分に戻る瞬間。そんな時相も変わらずぼくはきみの事を考えている。撮影中はぼくであってぼくではない。だからきみの事も考えないようにしている。けれどやっぱりぼくに戻った途端にきみのことを一番に考えてしまう。(食べ過ぎてなきゃ良いけど)きみは今、ひとりでイタリアに行っている。もうずっと前から計画していた事だった。ツアーが終わって落ち着いたらもう1度イタリアへ行く。今度はプライベートで。きみはずっと楽しみにしていた。あそこに行こう。あれを食べよう。ずっと前から色々と計画を立てていた。本当に本当に楽しみにしていたんだ。「ヒョン!あのね、イタリア旅行のことなんですけど…」きみはもう何冊目かも分からないそこら中に付箋を貼ったガイドブックを嬉しそうにぼくに見せた。「やっぱり初日はここに行って、このアイスをですね…」「チャンドラ」ぼくは言葉を遮るようにきみを呼んだ。きみは不思議そうな顔をしてぼくを見る。「あ、ヒョン。アイスは嫌ですか?」キョトンとした愛らしい顔。ぼくはその顔を曇らせる事になる一言を告げなくてはならなかった。「ごめん」ぼくは言葉が続けられない。でも謝らなくてはならなかった。「チャンミナ、ごめん」何故謝られているのか、まだ分からないといった顔できみはぼくを見つめた。「いえ…いいんです。他にも美味しいお店ありますし…」そう言いながらも、察しの良いきみはぼくの様子がおかしい事に気づいていた。ぼくはきみの顔を見る事ができなかった。きみの悲しむ顔を見たくなかった。「ヒョン…?あ、あの…えっと…」きみは落ち着かない様子でガイドブックを捲り出した。「あ、もしかして…イタリアは…嫌ですか?それなら!もっと近場でもいいんです」そう言うと今度はスマートフォンで何やら検索を始めた。「ほら!ここだったら…ね!近いし…ちょっとぼくらの顔を知っている人も多いかもですけど変装すればバレませんよ!近ければ…近ければ…」今度は席を立つと自分の部屋に走って行きたくさんのパンフレットを抱えて戻って来た。「こんなこともあろうかと…ぼくってば流石ですよね!ほら!パンフレットも貰っておいたんです。イタリアじゃないところも沢山!ねえ、ヒョン…どこが…どこがいいか…」俯いてパンフレットを手当たり次第並べるきみの手をぼくはそっと握った。「チャンミナ」「分かってます。ヒョン。し、仕事が…入ったんでしょう?大丈夫ですよ。2日くらいならどうってこと」きみは震えるくらいに強く手を握る。ぼくはその手を摩る。「ごめん。休みは取れそうにないんだ」「…」きみは何も言わずにただ手を握りしめる。俯いて、小さく震えていた。「ドラマをやることになった」「…」俯いたままぼくの言葉に頷くきみ。「断る事も出来た」また頷くきみ。「でも受ける事にしたよ」きみはその言葉に小さく、はい、と返事をした。そしてそのまま席を立つとゆっくりと部屋へ戻って行った。本当はきみとふたりで行くはずだった。はじめてのふたりきりの旅行だった。写真集の撮影で行ったイタリア。きみはイタリアが甚く気に入ったようで絶対に今度はふたりで来ようと撮影中から言っていた。ぼくはそんな嬉しそうなきみを見ているのが嬉しくていつかふたりで来ることを想像しながらイタリアの空気を感じていた。それからしばらく経ち、ぼくらに休暇の話が舞い込んだ。日本でのツアーが終わった後、しばらく休暇を取ってはどうかと事務所から提案があった。ぼくはあまり休暇を取るのが好きではないので少し考えさせて欲しいと言ったのだかきみがこの機会にどうしてもふたりで旅行に行きたいと言い出したので、この提案を受ける事にした。それからと言うものの、きみは山のようにガイドブックを買って来てはツアー中も暇があるとイタリアの写真を眺めていた。とても嬉しそうに。しかしきみの想いとは裏腹に、ぼくにドラマの話が舞い込んで来た。事務所はぼくに選択肢を預けた。もちろん断ろうと思った。だけど、結局は受ける事にした。きっときみなら分かってくれると思ったから。「チャンミン、食べ過ぎてないといいね」マネージャーがぼくに声をかける。やっぱりきみの心配というと食べ過ぎになるのだろうか。「ええ、ぼくも今それを心配していたところでした」つい、笑みがこぼれる。きみが美味しい美味しいと色んなものを買い食いしている姿がありありと浮かんだ。だれも止める人はいないのだから食べ放題だろう。「シウォンくんは帰りだけ同行してくれるんだっけ?」たまたま休みが重なったシウォン。そしてたまたまイタリアへ行く用事がありたまたま帰りがきみと一緒になった。「そう聞いてます」韓国の空港が一番気がかりだ。今回は完全なプライベートだからSPもマネージャーもいない。騒ぎになってきみが辛くならなければいいのだが。けれどシウォンが一緒にいるなら安心だ。「きみが…頼んだんだろ?」ぼくは少し微笑むと視線を台本に戻した。けれど台本を見ていても心はきみのことばかりを求めていた。「一緒に行けば良かったのに」ぼくが黙っているのを見ると邪魔をしてはいけないと思ったのか、マネージャーは車の方へ移動していった。ぼくは空を見上げた。この空はきみまで繋がっているから。きみがイタリアの空の下で笑っていることを願った。たくさん美味しいものを食べて。たくさん美味しい空気を吸って。たくさん笑って。そんなきみを想えばぼくも笑顔になれた。「さ、頑張ろう」視線を台本に戻す。ぼくは再び役の中へ戻って行った。「ただいま」玄関へ入るときみの靴が乱暴に脱ぎ捨ててある事に気がついた。昨日までのぼくの部屋と今日のぼくの部屋。何故だろう。驚く程空気が違っていた。暖かい空気。ぼくはほっと安堵の息をつく。居間へ向かうと、きみが店でも開くような勢いで荷物を広げていた。「ヒョン!!」きみはぼくに気づくと嬉しそうに笑いぼくを思い切り抱きしめた。「ただいまです…!」ぼくはきみの香りを感じながらそっと抱きしめ返す。「楽しかったか?」きみはぼくから離れると満面の笑みで、はい、と返事をした。「それでね、ぼくってば知らない人に『写真撮って下さい』って声かけちゃったんですよ!」きみは先ほどからずっとイタリア旅行の話をしていた。少し興奮しているのが上気した顔からも分かる。話は行ったり来たり、合間合間でお土産が出て来たりきみにしては支離滅裂でそれがなんとも可愛らしかった。「あ、それとここ!初日にアイス食べようって言ってたお店なんですけどね、ここが…」突然きみの言葉が止まる。ぼくはきみから貰ったお土産の品々を眺めていたがきみの話が再開されない事を訝しみ、きみへ視線を戻した。ぼくは驚く。まったく想像していなかったきみの姿を見て。「チャンドラ…」きみは泣いていた。「どうした?」ぼくはきみの涙をぬぐおうと手を伸ばす。その手が届かないようにきみは少し離れた。「ヒョン…」ぼくは訳が分からずきみの手を握った。「どこか痛いのか?」もしかしたら旅行中にどこか怪我でもしたのだろうか。「なにか…イタリアに忘れ物でもしたのか?」ぼくはきみが泣く理由が思い当たらなかった。きみはなにか大切なものでもなくしたのだろうか?「はい…」きみは頷く。「え!それなら急いでホテルに連絡した方が…」きみは激しく首を振る。涙は止まらない。ぼくは焦る。きみは楽しかったはずなのに。きみはぼくが居なくても楽しみにしていたイタリア旅行で思い切り羽を伸ばしてたくさんの思い出を作って来たはずなのに。そうじゃなかったんだろうか?「イタリアには…」きみは悲しそうに言った。「ヒョンはいなかったから」ぼくは驚く。言葉が出て来なかった。きみはあの話の後、少しも寂しそうな姿を見せなかった。だからふたりではないけどひとりでイタリアへ行く事も楽しみしているんだとそう思っていた。「楽しく…なかったのか?」ぼくは恐る恐る尋ねた。きみは首を振る。「いいえ…そんなことはないです。とても…楽しかったです」「ならどうして…」「ヒョンがいたら…」きみは増々泣き顔になっていく。まるで子供のように。「ヒョンにも見せて…あげたかった…なあ…て…思って…」そう言うときみはわんわんと泣き出した。「ヒョン…きっと…笑った…だろう…なあ…て…お、おもたら…」苦しそうに息をしながらきみは言葉を吐き出した。「これ…も、ヒョンが…好きな味…だなとか…おも…おもって…」小さい子供みたいだ。泣きながら喋るから、もう何を言っているのか分からないのに。「い、一緒に…う…し、しゃしんと…とりたかった…なあって…うう…」ぼくはそんなきみを見て嬉しくてやっぱり少し涙が出そうになった。でもぼくは笑った。「バカだなあ」きみの頭をごしごしと撫でながら。きみが好きだ。大好きだ。「ヒョン、なにを考えてるの?」ぼくの腕の中から、ぼくを見上げてきみが尋ねた。きみの身体がイタリアの買い食いでも太っていなかったことを思う存分確認し尽くした後である。ほんの数日離れていただけなのに数日ぶりのきみの身体はなんともいえない甘さが漂っていた。汗で滲んだ肌に触れてもきみがイタリアで充実した日々を過ごして来た事が分かる。そんなにきみを楽しませたイタリアに悋気を起こしてしまいそうだ。「ヒョン?」ぼくが答えない事を訝しんできみが少し首を傾げる。その仕草がなんとも可愛らしくてぼくはもう一度きみを抱きたい衝動に駆られる。「いや、お前、可愛いなって思って」ぼくはつい本音を言ってしまった。「ば…!」きみは顔を真っ赤にするとくるりと反対側を向いてしまった。ぼくはそれを良い事に後ろから抱きすくめた。「もう1回する?」耳元できみに囁く。ぶんぶんと首を振るきみ。「あ、明日もあ、朝早いじゃないですか、ヒョンは!!」「大丈夫だよ」また首を振るきみ。きみが首を振る度に髪がぼくの鼻をかすめる。きみの良い香りがして増々きみが愛おしくなる。「だ、ダメです!あ、ああああ明日もドラマの撮影大変なんですから!」見に来た事無いくせに何故大変だと分かるのだろうか。本当に可愛い。「残念」そう言うとほっとしたようにきみが力を抜くのが分かる。ちょっといじわるしたくなってきみのウエストのあたりを抱きしめた。「わあっ!」きみは案の定驚いて再び身体を硬くする。「じゃあ…しない変わりにこうして寝るよ」「ひ、ヒョン…」ぼくが眠れませんよ…と呟くのを聞き逃さなかったが可愛いのでそのままにしておくことにした。思う存分きみを可愛がりきみのいなかった日々をこれで帳消しにしてぼくは眠りについた。朝の香りに目が覚める。きみはもう起きて朝食を作ってくれているようだった。まだもうすこし寝ていられる。ぼくはぼんやり天井を見ながら不思議と昔の事を思い出していた。事務所に入ったばかりの頃ぼくは焦ってばかりいた。はやく独り立ちしたくて。はやくステージに立ちたくて。はやく夢を実現したくて。焦って焦ってそれを周りにも強要した。当然誰も着いて来てくれなかった。ぼくは孤独だった。みんな同じ夢を持っていると思っていたのに誰も理解してくれないような気がして。辛かった。そんなとき。きみと出会った。がむしゃらなきみ。とにかく何かに追いつこうとひたすら走るきみ。そしてひたむきなきみ。そんなきみの姿に自分を重ねた。そしてきみを信じた。きみの夢とぼくの夢を重ねるようになった。それからきみを愛するようになった。きみもぼくを愛してくれた。ぼくらはひとつになった。心も身体も。だからもうあの日からぼくは孤独を感じた事は一度も無い。例えきみが傍にい無くてもきみが見えなくてもきみの声が聞こえなくてもきみはぼくの中にいた。いつも。「だけど」ぼくは声に出してみる。「それでもやっぱり」ああ、きみが好きだ。「傍にいないと寂しいんだなあ」きみが朝食を作る音。美味しそうな匂い。きみの香り。きみの体温。どれもぼくにとって宝物だ。傍にいて欲しい。いつまでも。ぼくの傍に。大好きなきみに。ENDにほんブログ村
Never Ending DUET
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