色々あって虫が苦手です。


何を考えているのか分からないところとか、
何をしでかすか分からないところ、
次にどこに行くのか予想もつかないところ、
人間が虫を嫌いな理由って色々あると思いますが
私も色々あって苦手です。


四六時中ではないといえ、あの小さな生き物が日常に踏み込んできた瞬間に
私の人生は非日常になります。
あなたが現れると心がかき乱されるのです。



君は私の「すべて」ではない
だけど いないと「すべて」がダメになる だから

 (倖田來未/Butterfly より)



まさに真逆。
Butterflyも虫だと気付いた今日この頃、部屋に1匹の蚊が現れた。
蚊っていうか、手足がそれぞれ2センチくらいあって、胴体は消しゴムのまとまるくんを10秒ほど高速でこすって作った真っ黒の3センチくらいの長細い糸みたいな。
要するに、飛ぶアメンボみたいな蚊(?)が…!!


虫は出てこないと想定して生活しているため殺虫剤の買い置きはなく、あいにく叩き潰すメンタルも持ち合わせておりませんので、ご自身でお持ちの物の中から工夫して対処する必要があります。


なお、ヘアスプレーなら中距離戦でも戦えます。
多少吸い込んでも人間は死に至りません。







ところで、人間は極限状態に陥ると普段よりも格段に高い能力を発揮することがあるらしいです。
いわゆる火事場の馬鹿力でしょうか。




あれは高校生の時でした。
自分の部屋でストレッチをしていると
なぜか、どこからともなく視線を感じる…
でも、カーテンは閉めているし、部屋は2階だし、誰かいるわけはありません。



異常なし、と判断して床でストレッチを継続していましたが、
やはり感じる誰かの視線。





あぐらをかいている自分と同じくらいの高さのベッドに、ふと目をやると
布団の影から覗く1組のつぶらな瞳が…







蛾。


蛾「あ、どうも」
奥田「あ、どうも」


くもりなき目でこちらを見ていて、目が合った私に、さも当たり前のように挨拶してくれました。


蝶と判別がつかない感じの細い蛾じゃなくて、胴体にフワフワな白い毛が生えてるデカいやつだった。
カイコみたいなモケモケの。
目力がスゴい。
よく見ると顔がしっかりしてるから昆虫というより哺乳類に似てるかも知れない。



蛾「どうも」

奥田「…は?」



え、こっわ!!!!
目と鼻の先20センチほどに、蛾がいる…!!

我にかえった私は、
実は無意識に精神が極限状態だったらしく
そのせいで蛾の言ってることが分かるくらい
コミュニケーション能力が解放されていた。
火事場の馬鹿力で、虫と喋れた。


その蛾は、私が本能的に敵とみなしたのに勘付いたらしく、ひどく動揺してどこかへ行ってしまった。
友達になれなかったのだ。
あいつが人間を見たのは私が初めてだったに違いない。本当ごめん…



そういうのに似たことが何度かあって、私は本気を出せばわりと種族をこえて言いたいことが分かるんじゃないかと思うようになった。





ところで、今回はヘアスプレーで蚊を撃退しようと努力していたのですが
お風呂の壁に貼りつく結果になってしまった。
理想では、窓に追い込んで外に出したかった…



本当の地獄はここからで、
ヘアスプレーで蚊の手足が貼り付いているものの、胴体は健康そのものだから動くこと動くことハンパない!!!
本気で生きたがってる!
でも、あのタイプの虫に動かれると本気で気持ち悪い。必死に生きたがってるところが更に怖い。

壁に貼り付いていない足で、貼り付いている手を引き剥がし、その足がつき、手で足を壁から引き剥がし…を繰り返しているのをただただ見ているしかなかった。



ここで精神の極限状態になった私は、





声を聞いてしまった






蚊「ちょっとぉおおおお」


奥田「ゔわぁぁぁぁあああああ」


蚊「取れない取れない取れない何これぇえええ」


奥田「ゔわぁぁぁぁあああああ」




聞こえるから、ホントに聞こえるから…


余計にトドメをさせない。


でも怖いから救えもしない…


ほんっとごめん。


キミが生まれ変わったらさ、
虫じゃない生き物になって欲しいな。
そしたらさ、もっと楽しい話しようぜ。



お風呂の排水溝に流れていく姿を見ながら、
私はその子の来世を祈った。



私、頑張ってキミの分まで生きるからさ。

これから私は、この小さな命を背負って生きていくんだと思った。



色々あって虫が苦手です。