吾輩は猫みたいなものである。
名前は秘密。
ちなみに犬好きだ。

今日は吾輩の性質について話そう。

レディーガガに"Gypsy"という曲がある。
彼女は職業柄、世界を飛び回るために愛する人とずっと一緒にいられると限らない。これからも、そんな生活をやめない限り一緒にいられない。
そんな2人の関係を歌った曲である。


Gypsyとは、現代日本ではあまり良い意味ではなく「放浪癖のある人」を指すが
元をたどると移動型民族を表している。


吾輩の中でも、そいつは急にやってくる。
ある日突然、今ある生活を全部放り出して全く違うどこかに行きたくなる。

飼ってくれている主人の許を離れ、ふらりとどこかに旅立つんだ。

だから

ずっと1つの場所で生き続けることはムリだと思っていた。

むしろ

自由に生きられるようにしなくては、と思っていた。

どうにかして、自分の衝動を飼い慣らすか
この性質に合わせられるような生き方をしないと。

これには子猫の頃から何となく気づいていて
生まれ故郷は嫌いではないけれど、一生居たい場所ではないし
いつかはどこか遠くに行くんだという漠然とした考えを持っていた。

このタイプの、特に人間は、学生時代は3年か4年で生活がゴロッと変わるから
比較的未来に希望を持てるが、大人になる事を想像すると辟易する。
吾輩にだって耐えられない ―40年以上同じところに通い続けて、毎日同じ人と会い、狭い世界の人間関係に苦しみ、
同じことを繰り返すだけの人生(猫生)なんてのは。

人間だって、猫だって、何事も繰り返しに感じてくると、ある日突然、全部変えたくなるんだ。

でも、"何か"がないとどこでも生きていくような人生(猫生)は選べない。
そこで、これらの人間・猫たちが求めたのは知識・技術だった。


どこでも生きていけるという圧倒的な知識があれば、自分の思った通りに生きられる。


ある人間の女の場合、たまたま入っていた大学のゼミの専攻がIT分野のネットワーク。
例えば、スイッチやルータといったネットワーク機器の設定をして
PC等の端末をインターネットに接続する勉強をしていた。

とはいえ、そいつは卒業できる程度ではあるものの、不真面目な学生だったので
ネットワークの試験はいつも教科書を持ち込み
その場で読み解きながら機器の設定をしていた。
あまり興味がなかったから自主的に勉強する訳ではなかった。


その女は、いわゆる就職活動の時、自由に生きる場所を選べる職業が良いと思いついた。
そこで、エンジニアとしてスキルをつけ、どこでも生きていけるようになりたいと願った。


何とか就職活動も上手くいき、ネットワーク専業首位の、とある会社に就職。
晴れて技術系の職に就けた。


しかし、現場に配属されてからある場面に出くわした。
昼ごはんにコンビニ弁当を食べながらパソコンを見て仕事をしている先輩たち。



その女は思った。

「私にはこの生き方は出来ない。


そいつは自問した。

「気に食わなくなったら、このまま環境と分野を変え続ける人生を送るのか?
逃げてはいけない。
ここで戦わなくては。」



とはいえ、ずっとパソコンとにらめっこする業種が向いていないと感じた女は
あるコンテストに出場した。



今度こそ、どこでも生きていけるような"何か"を見つけたかった。
必死で出来ることは努力し、あらゆる弱点を練習とトレーニングでかき消した。


挑戦は3度に渡った。
最後と決めたコンテストで、女は受賞した。
一番良い賞だった。



でも、そこで気づいた事は、
自由になるために必要だったのは
技術でも、圧倒的な知識でもないという事だ。



自分という存在への絶対的な自信。



その自信は一朝一夕ではつかないものだったし
相当な時間と努力に裏付けられて初めて芽生えるもので、
しかも、厄介なことにその努力は、周りのあらゆる人(猫)の協力なしでは成し得ない代物である。


人間てのはつくづく大変そうに見える。
奴らの自信てのは、努力を怠るとすぐにすり減ってくる。
そして、自信だけではなくて人間社会を生きるのには、大変な複雑性の理解が必要である。
我輩は猫のままでいたい。


何はともあれ、その女は自分を纏う「自信」によって、どこでも生きていけるという、ある種の覚悟とすら思える心の支えを得た。
ここからの人生はこの女の自由である。


さて、ここで新たな問題が出てくる。
自由とは聞こえが良いが、気ままに飛び回りたい衝動に従い続ける人生を選ぶ女と
一緒に生きてける人間はいるのか。


一旦、どこかへ行きたい欲が出てくると
どんなに人間関係が上手くいっていようが
どんなに残された相手が傷つこうが、自分の気持ちは止められない。


友はいる。
大人になってから気づいたが、友というのは時間と場所を合わせれば世界のどこにいても会える。


ただ、一緒に生きていくとなると話は別だ。


その女は自由を手に入れた代わりに
将来、手に入らないであろうものが増えたのではないか。
答えはまだない。


ただし、猫にも帰巣本能というものはある。
自分の家だと思える場所には、いつか帰る。


吾輩は猫である。
ずっと待っていてくれる、犬みたいなやつが好きなんだと思う。


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