※このお話は最近の事になりますので、何かしらの霊障が起こる可能性もあります。
お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
初まりは去年の6月。
その日スイは、お昼になる前に外で洗濯物を干していた。
スイ「暑い…。暑い……」
極度の暑がりであるスイにとっては6月の気温であろうともキツい。
スイの母「今年は暑くなるやろうなー。猫も日中は出掛けんようになるわ」
スイ「チーコ(猫)なんて私が部屋におったら一歩も出んからな(笑)」
そんな他愛もない会話を母親と話していると何やら左の方から視線を感じる。
その視線の方向に目を向けると、屋外玄関の外に一人の女がこちらに向かって立っていた。
身長170はあるだろうか。スラっと細身で背は高く、白いワンピースに腰下まで伸びた黒い髪。
でも顔の目は見えない、麦わら帽子を深く被っていて分からない。
スイ(誰あれ……)
スイは反射的に不気味だと思った。一瞬、霊かと思いもしたが肉眼で鮮明に見える。
スイ「お母さん、あの人見える?」
母「ん?見えるって何が?」
その言葉を聞いて鳥肌が立った。
スイ「え!?誰がってあの玄関の前に立っとる女の人やんか…」
母「え?誰も居らんけど…」
絶句した。あの女の人のことは自分にしか見えていない。
では霊か?いや肉眼で捉えられる。あんなにもハッキリと見える。
もう一度玄関に視線を戻すとやはり立っている。目は見えないがこちらを向いている。
スイは怖くなったので洗濯物を干すのを早く終わらせ直ぐ様部屋に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
スイ「ていう事があったんやけど……」
スーパーに買い出しに行く道中、車内で今日あったことをスイに聞かされた。
自分(ASUMA)「マジか…。お義母さんには見えてないってのは不味いな」
“視る”こと自体はいい。それは今に始まったことではないし、もう何度も数えきれないぐらいスイは視てきている。
不味いのはそれが“肉眼”で捉えたことだ。
自分「波長があったんかな?今日は特に視えやすい日?」
スイ「いや別に。今もちらほら居るけれども」
なら何故肉眼で視えた?それだけその女が強いのか?
いずれにせよ気を付けなければならないのは確かだ。恐らくその女はまた来る。
直感的にそう感じていた。
月日が立ち9月。その日の夜は何だか寝付けれずにいた。
隣で深い眠りに付いているスイを起こさぬよう、ゆっくりと起き上がり玄関の居間まで向かう。
不思議と落ち着く居間だからか、こういう日には一人で過ごすことが多い。
常夜灯をつけソファーに横になる。何をするでも考えるでもなく、ただボーと天井を眺めていた。
そうやって何分かすると自然と眠気が訪れてきた。灯りを消し瞼を閉じる。
「来たよー……」
「……来たよー」
抑揚のない無機質な女の声。
そんな不気味な声で目が覚める。………嫌……違う。
目が覚めたんんじゃない。これは夢?
今、自分は横になって瞼を閉じている。それは間違いなく確かなこと。
にも関わらずはっきりとした居間の映像が見える。
何と言うか、もう一人の自分の目線を見ているかのような感覚だ。
しかし寝ている自分の姿は見えない。でも間違いなく瞼を閉じたまま横になっている自分がいる。
不思議な感覚。
「来たよー……」
瞬間、玄関扉の映像が映る。
白いワンピースに腰下まである長い黒髪。
磨りガラスでぼやけてしか見えないけれど、麦わら帽子を深く被っているのが分かる。
自分(これはヤバい…普通じゃない)
早く起きなければならない。そう思えどこの不思議な状態から抜け出せず焦りが恐怖を助長する。
「カララ」
その音と共にまた映像が切り替わった。今度は居間に入る襖の扉。
その音が何なのかは直ぐに分かった。
中庭から廊下に入れる窓ガラス、それを開ける音。
そいつは中庭から廊下に入り自分に意識を向けている。
襖より向こうは見えないのに何故か分かってしまう。
そして動き出す
ゆっくり…ゆっくりと此方に向かって歩を進める。
目線が外せない
足音一つもしない静寂な空間であるのに
そいつが近づいて来る度に空間の密度がより『濃く』そして『重く』なる
「ピタ」
女が襖の向こうで止まった。
実話心霊体験【来たよー…】前編(完)