支離滅裂菅政権に国政は無理 (日刊ゲンダイ2011/3/2)

民主党にはがっかりだ

―昔の自公政権時代とそっくり同じ国会審議のやり方を見せられて何が政権交代だったのかと選挙民はアキれ怒っている

どこが「熟議」の国会なのか。深夜の国会で予算案が衆院を通過したドタバタ劇を見せられた国民は「日本の政治は変わらないな」とウンザリしたに違いない。

2011年度予算案は、政権交代後、民主党が初めて本格的に編成した予算案だ。国会審議も自民党時代とは様変わりして当然だった。民主党も「国会改革」を大きく掲げていた。しかも、国会は衆参がねじれているから、民主党は知恵を絞り、ひと工夫も、ふた工夫もする必要があったはずだ。
ところが、どうだ。国会の風景は昔の自公政権時代とまったく変わらない。なんの工夫もなく、閣僚は役人が用意したメモを読むだけだ。国民が耳を傾けるような答弁はひとつもない。低調な国会審議は話題にさえならなかった。
ただ、スケジュール通りに審議時間が過ぎるのを待ち、時間がきたら「さあ、採決だ」と300議席の数の力で衆院を通過させただけだ。

何から何まで、自民党政権と同じじゃないか。民主党政権になって、いったい何が変わったというのか。
与党と野党が入れ替わっただけだ。
「民主党は衆院で300議席も持っているのだから、いくらでも国会審議のやり方を変えられたはずです。たとえば、全体で45分間しかない党首討論です。いまは自民党と公明党にしか資格が与えられていないが、自民党から共産党まで各党に1時間ずつ割り当てて党首討論すれば、激論が交わされ、国会審議は盛り上がったはず。国民だって『政権交代で政治が変わったな』と実感できたでしょう。時間がないというなら、夜7時から開催したってよかった。野党だって反対しなかったはず。ところが、菅首相は日本の政治を変えようという熱意のカケラもない。頭にあるのは、なんでもいいから予算を成立させて政権を維持したいという保身だけです。これでは国民が菅民主党に失望するのも当然です」(政治評論家・山口朝雄氏)

◆民主党の理念捨てた予算案を成立させてどうする

09年衆院選で有権者が3200万票という圧倒的な票を民主党に投じたのは、この国の政治に「変化」を求めたからだ。

民主党なら自民党とは違う政治をやってくれるはずだと期待した。なんといっても「脱官僚」「政治主導」「国民生活が第一」という民主党が掲げたマニフェストは、有権者の胸にストレートに届いた。 ところが、菅首相は民主党の「マニフェスト」を次々に見直し、破棄しているのだから、こんな裏切りはないだろう。とうとう、マニフェストの目玉である「子ども手当」まで見直すと言い出している。
民主党が掲げた「子ども手当」の理念は、「社会全体で子育てする」ため、子どもへの現金給付を親の所得で区別しないことだった。所得制限をしていた自公政権の「児童手当」を、わざわざ否定して導入したものだ。
なのに、菅首相は「予算関連法案」の採決で公明党の協力を取りつけるために、「子ども手当」を「児童手当法」を改正する形で実現させるつもりだ。「子ども手当」の名を捨て、理念を捨て、所得制限を復活させるつもりでいる。
菅首相は「子ども手当」だけでなく「年金一元化」「高速道路の無料化」……と09年マニフェストを片っ端から見直しているが、冗談ではない。

国民は「09年マニフェスト」を信じて民主党に一票を投じたのだ。あのマニフェストが全部ウソ、ペテンのデタラメだったというのなら、09年総選挙で当選した民主党議員は全員即刻、辞任すべきだ。
「子ども手当の見直しは、給付額を2万6000円から1万3000円にするといった金額の問題ではありません。子ども手当は『控除』から『給付』へと、国の形を大きく変える民主党らしい政策でした。その『子ども手当』を見直したら、民主党は民主党ではなくなってしまいます。『年金一元化』や『高速道路の無料化』も、『国民生活が第一』という民主党の理念が形になったものです。菅首相は公明党の協力を得て、予算関連法案を成立させるために、子ども手当の見直しを唱えているのでしょうが、民主党の理念を捨てた予算を成立させることにどんな意味があるのでしょうか」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

そもそも、菅首相はほんの1カ月前、民主党の党大会で「子ども手当は歴史の上で画期的政策だ」と絶賛していたはずだ。政権維持のために舌の根も乾かないうちに見直すなんてどういう神経をしているのか。

◆国民を裏切った菅首相を引きずり降ろせ

いったい菅首相は、何のために総理をつづけているのか。
自民党議員に無能ぶりを指摘された首相は、「野党生活が長く、市民運動的な発想で物事に当たることが多かったので、その体質が抜けきらない」と作り笑いを浮かべていたが、ハッキリ言って、この男が国政を担うのは無理だ。

伸子夫人が首相の就任直後「あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの」という本を出版したのも、長年連れ添った菅首相の限界が分かっていたからだろう。
「菅首相の最大の問題は、総理大臣としてやりたいことが何もないことです。歴史的な政権交代を実現したマニフェストを平気で見直せるのも、そのためです。恐らく、なぜ小沢一郎がマニフェストの実現にこだわるかも理解できないはず。なにしろ菅首相は、『これからはオリーブの木だ』と連立政権を理想としていたかと思ったら、『やっぱり2大政党だ』と臆面もなく主義主張を変えてしまう。20年以上『日本に政権交代可能な2大政党を根づかせたい』と言いつづけてきた小沢一郎とはまったく違う。菅首相のように理念や信念がない人物が権力を握った場合、怖いのは、やりたいことがないために、権力維持だけが目的になりかねないことです。保身、延命のためならどんなことだって平気でやりかねない。実際、ここまで国民の支持を失っても『なんとしても4年間頑張りぬきたい』と国会で答弁している。統一地方選を控えた議員が退陣を求めても、やりたいこともないのに、あくまで総理のポストにしがみつく構えです。自分がどう評価されているかを客観視する力さえ失っている。こんな人物がトップに立っているのは、恐ろしいことです」(鈴木哲夫氏=前出)

最近の菅首相は、政策をそっちのけにして、三木武夫元首相が「三木降ろし」をどうしのいだか研究しているという。心ある民主党議員は、どうすれば「マニフェスト」を実現できるか考えるべきだ。こうなったら、首相を引きずり降ろすか、仲間を集めて「新党」を結成するしかないだろう。



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