与謝野に乗っ取られた菅政権 (日刊ゲンダイ2011/1/22)
◆デタラメ麻生内閣の亡霊が復活
これほど簡単に政権が乗っ取られるとは驚きだ。内閣改造からまだ1週間しか経っていないのに、菅内閣は、まるで「与謝野内閣」のようになりはじめている。
唖然としたのは、与謝野馨経財相(72)が、入閣直後から新聞、テレビ、雑誌のインタビューを片っ端から受け、まるで自分が総理かのように、内閣の方針を得々と語りはじめたことだ。
小泉政権時代も、竹中平蔵が好き勝手に経済政策を進めていたが、それでも青木幹雄といった実力者には気を使っていた。
ところが、与謝野馨は民主党の事情などお構いなしに突っ走っている。
民主党は「消費税アップは鼻血が出ないくらい無駄をカットしてからだ」と訴えてきたのに、「まず無駄を省きましょう、その次は経済成長しましょう、それから消費税増税というのは、逃げの議論だ」と、民主党の党是を完全否定。
さらに、民主党がマニフェストに掲げてきた「税による最低保障年金」という年金制度改革についても、「社会保険方式の方が具体的で実現可能性がある」とバッサリ切り捨てた。とうとう、きのう(21日)は、年金支給年齢の引き上げまで口にする始末。
情けないのは、ここまで自分たちの「政策」を否定されても、民主党の閣僚が誰も異論を唱えないことだ。キャリアが違うためなのか、「政策論争」では勝てないためなのか、「消費税アップ」も「年金制度改革」も、すべて「与謝野ペース」で進み始めている。完全に政権をジャックされた格好だ。仙谷前官房長官は「陰の総理」と揶(や)揄(ゆ)されたが、与謝野大臣は「陰」ではなく、「本物の総理」のようになっている。
◆与謝野大臣は「トロイの木馬」だ
閣僚に迎え入れてから、わずか1週間でこの調子では、この先、菅内閣が与謝野大臣を中心に回っていくのは間違いない。
しかし、与謝野は「民主党政権を倒す」と主張しつづけ、「民主党が日本経済を破壊する」という本まで書いた男だ。そんな政治家を政権の中枢に置いて大丈夫なのか。
このままでは、民主党はまったく違う政党に変質させられてしまう恐れが強い。政治評論家の本澤二郎氏は、「与謝野大臣はトロイの木馬だ」とこう言う。
「自民党を離党し、政治家として終わったはずの与謝野にとって、大臣就任は僥(ぎょう)倖(こう)だったはず。これは最後のチャンスだと、誰が反対しようが自分のやりたいことを推し進めてくるはず。彼がやりたいことは、消費税の大増税です。財務官僚ベッタリの与謝野は、自民党の政調会長時代に『2010年代なかばに消費税率10%』の提言をまとめ、さらに麻生内閣の経財相として『消費税増税を2011年度より実施』という中期プログラムをまとめている。自民党政権では実現できなかった消費税増税を民主党にやらせるつもりでしょう。すでに、消費税のアップ率と実施時期を6月に明記すると宣言しています」
しかし、民主党はマニフェストで「4年間消費税は上げない」と約束していたはず。マニフェストに掲げていた「税による最低保障年金」という公約を反(ほ)故(ご)にし、マニフェストで否定していた「消費税アップ」を強行したら、民主党は民主党ではなくなってしまう。今度こそ、本当に国民から見放されてしまうだろう。
◆小沢失墜で完全にタガが外れた民主党
「国民生活が第一」というマニフェストを掲げた民主党が歴史的な政権交代を成し遂げたのは、ほんの1年半前のことだ。いったい誰が、与謝野馨に政権を牛耳られる姿を想像できたことか。
それもこれも、小沢一郎が実権を失ったことが大きい。小沢がパワーを失ってから、民主党は完全にタガが外れてしまった。
「財源不足を理由に、マニフェストの見直しを訴えている菅首相に対し、『国民との約束は守らなければいけない』とかたくなに抵抗してきたのが小沢一郎です。両院議員総会でも、小沢グループは『なぜ、マニフェストに書いてあることをやらず、書いてないことばかりやるのか』と声を上げている。マニフェストを変更したい菅首相にとって、小沢が邪魔だったのは間違いない。それもあって菅首相は『政治とカネ』を騒ぎ立て、小沢を身動きできないようにしたのではないか。実際、追い詰められた小沢一郎は、マニフェストの変更阻止にまで手が回らなくなっている。菅首相は狙い通りでしょう」(本澤二郎氏=前出)
民主党の執行部が、小沢排除に動いている間に、与謝野は、拘束力のない09年3月の所得税法の改正で盛り込まれた「付則」まで持ち出し、「消費税を含む税制改革は、11年度中に法的整備することが法律上要請されている」と、着々と「消費税アップ」に動いている。菅首相も「消費税アップ」で突っ走るつもりだ。
◆「マニフェスト」見直しで喜ぶのは誰だ
しかし、これでは一体、なんのために政権交代したのか、まったく意味がなくなってしまう。
国民が09年総選挙で政権交代を実現させたのは「民主党なら自民党とは違う政治をしてくれるはずだ」と期待したからだ。民主党は「自民党政治」を否定して政権に就いたはず。
なのに「国民との約束を守るべきだ」と訴え続ける仲間の小沢一郎を排除し、民主党を敵視してきた与謝野馨に経済政策を丸投げするなんて、どう考えたっておかしい。狂っている。
その結果、自民党と同じ政治に逆戻りなんて冗談じゃない。
「とうとう民主党議員は、何が正しくて、何が間違っているか、正常な判断力さえ失ってしまった。本来、民主党のマニフェストを『選挙用の毛バリのようなもの』とバカにしていた与謝野を大臣に起用するとなったら、党内から異論が噴出するのが当たり前です。なのに、誰も抗議しない。愚かなのは、『政治主導』『日米対等』『国民生活が第一』という民主党のマニフェストを見直すことで、誰が喜ぶのか気づいていないことです。なぜ、自民党政権を支えていた『官僚』『米国』『大企業』が喜ぶことが分からないのか。小沢バッシングに血道を上げているのも、そうした勢力でしょう。これでは、二度と国民は民主党に一票を入れませんよ」(政治評論家・山口朝雄氏)
民主党議員は、ホントにこのまま菅首相と心中するつもりなのか。