待ち受ける異様な政局 菅首相のバクチは裏目に出る
(日刊ゲンダイ2010/12/20)
菅・小沢会談後に一体何が起きるか
―首相の求心力がいよいよ低下し政権崩壊へ向かうか、小沢一郎が反発し民主党内がガタガタになり政権基盤が崩落するか
民主・小沢元代表の政倫審への出席をめぐり、菅首相と小沢が20日午前、会談する。菅は直々に政倫審への出席を求める意向だが、バカなことをするものだ。
菅が乗り出したところで、小沢は「はい、そうですか」と言うわけがない。これまで通りの主張を繰り返し、政倫審での弁明、説明は拒否する。それが100%分かっているのに菅が出向くのは、これがセレモニー、演出だからだ。
小沢追放に血道をあげる菅、仙谷、岡田らにはステップ1、ステップ2のような悪魔的シナリオがある。まず岡田が出向き、次に菅が説得。それでも小沢が政倫審に出てこなければ、政倫審で小沢招致の議決へと進む。小沢が出席拒否を貫けば、起訴のタイミングで離党勧告を突きつける。小沢切りで“毅然とした態度”を取り続け、政権浮揚をもくろむとともに、政敵・小沢一郎を抹殺する――。
こんな作戦、謀略を描いているのだろうが、よくぞ、こんなマヌケなばくちが打てたものだ。
菅が小沢の前で何を言うか知らないが、“格”の違いを見せつけられて終わりじゃないか。それでも菅がシナリオを強行しようとすれば、党内はシッチャカメッチャカになる。
今だって、小沢切りに血道をあげるだけで、選挙に負け続けている執行部に対し、小沢周辺は猛反発。民主党内は大モメ、火の海だ。そこに菅は油を注ぐことになるのである。
◆「いい加減にしろ」が国民のホンネ
「どうかしていますよ。国民だって、この騒動には呆れています。民主党は党内抗争をしている場合なのか。政権与党にとってもっとも大事な予算編成の時期なのに、いい加減にして欲しい。これが国民の気持ちです。菅首相は小沢叩きをすれば支持率が上がると思っているのかもしれないが、大間違いです。今度は絶対に下がる。
次の世論調査では1割台じゃないですか。このタイミングで、小沢氏の国会招致に乗り出し、自ら党内対立を煽る神経がわかりません」(政治評論家・山口朝雄氏)
菅・小沢会談の結果、小沢がギャフンとなり、この問題に決着がつけば、菅の株も上がるだろうが、収拾がつかなくなるのは見えている。それなのにシャシャリ出る菅は心底、アホというか、トチ狂っている。権力にしがみつきたい一心で、マトモな判断力を失っているとしか思えない。
川内博史衆院議員が言う。
「政治倫理審査会とは国会における裁判所のようなところです。国会議員を呼ぶとして、その議決をするには裁判でいう“起訴状”にあたる文書を作る必要がある。そこで違法行為をはたらいた事実認定をし、国会議員が署名する。こうした手続きが必要なのですが、小沢さんの場合、検察が不起訴処分にしたわけで、違法行為の事実認定ができるのかというハードルがある。さらに、与党の国会議員が軽々に違法行為を指摘すれば、これから始まるであろう裁判に重大影響を及ぼす。慎重になるべきで、私は議決の申し立てができないのではないかと思っています」
申し立てができても、議決が通る可能性は低い。あくまで証人喚問を求める自民党は協力しない意向だし、公明党は全会一致を求めるとみられている。
政倫審の招致議決が多数決で決まれば、「証人喚問も多数決で」ということになりかねず、池田喚問の恐れが出てくるからだ。
それでも“暴走機関車”と化した民主党執行部は過半数で招致議決を強行するかもしれない。そのために6人いる小沢系の政倫審メンバーの差し替えも検討しているが、そんなことをすれば、大ゴトになる。
「政倫審規程第8条には『委員に選任されたものは正当な理由がなければ辞任することはできない』と明記されているのです。裁判所のような役割を担う政倫審には厳格なルールがある。ここが自由に委員の差し替えが利く予算委員会などとは決定的に違うのです。岡田執行部は、こうした規程を知らないのではないでしょうか」(川内博史氏=前出)
メンバーの差し替えなんてできっこない。党内は騒然とするし、そんな思いまでして議決しても、小沢が出席を拒否すれば、それまでだ。
菅や岡田のシナリオは、ハナから無理スジなのである。
◆無謀な賭けで始まる退陣へのカウントダウン
とはいえ、ここでひるんだら、「腰砕け」と非難されることを恐れる菅・岡田執行部は、何が何でも離党勧告まで突き進む可能性もある。
仙谷官房長官は最近、周囲にこんなことを言っている。
「どうせ小沢は起訴されるんだ。そうしたら、離党するしかない。石川もそうしたじゃないか」
石川とは小沢の秘書だった石川知裕衆院議員のことだ。政治資金規正法違反で逮捕、起訴され、離党勧告前に離党した。時の幹事長は小沢だ。起訴→離党のルールは小沢が決めたものじゃないか、という理屈だが、この暴論には呆れてしまう。逮捕・起訴された石川と、検察審査会が「裁判で白黒つけなさい」と議決し、起訴される小沢とでは、まるで状況が違うのである。
それなのに離党勧告を強行すればどうなるか。
「小沢さんの夢は2大政党制の定着です。そのために民主党を育てた。やっと政権交代したのに、党分裂を誘うようなことを執行部が求めればどうするか。本気の闘いになりますよ。両院議員総会を要求され、執行部の総退陣を突きつけられると思います。小沢問題より問責決議案を出されている仙谷官房長官や馬淵国交相の処遇をどうするのか。これじゃあ、通常国会を乗り切れないという批判も出る。大混乱の中、菅首相の退陣論が吹き荒れると思います」(民主党関係者)
岡田幹事長はすでに署名が集まりつつある両院議員総会要求に対し、「論破してやる」と息巻いているらしいが、恐ろしいKYだ。党内の空気がまるでわかっちゃいないのだ。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「小沢氏の問題では党内にさまざまな意見があります。小沢さんに味方する人もいれば批判的な人もいる。しかし、菅首相では駄目だという認識は、党内のほとんどの人が共有しているのではないですか。代表選で菅氏を支持した民主党の国会議員が『間違いだった』と言い出している。旧民社党のグループも『申し訳なかった』と小沢氏に頭を下げています。
解散を極度に恐れる議員が消極的に菅首相を支持しているだけで、多くの議員は離れている。菅首相の求心力は現時点でもほとんどありません。小沢問題で党内がこじれれば、それが限りなくゼロに近づいていくことになります」
それでも菅は小沢に直談判し、「政倫審で説明せよ」「できないなら離党せよ」と迫れるのか。やれるものならやってみろ、だ。その瞬間、菅はアウト。政権基盤は音を立てて崩れ、退陣へのカウントダウンが始まることになる。
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(日刊ゲンダイ2010/12/20)
菅・小沢会談後に一体何が起きるか
―首相の求心力がいよいよ低下し政権崩壊へ向かうか、小沢一郎が反発し民主党内がガタガタになり政権基盤が崩落するか
民主・小沢元代表の政倫審への出席をめぐり、菅首相と小沢が20日午前、会談する。菅は直々に政倫審への出席を求める意向だが、バカなことをするものだ。
菅が乗り出したところで、小沢は「はい、そうですか」と言うわけがない。これまで通りの主張を繰り返し、政倫審での弁明、説明は拒否する。それが100%分かっているのに菅が出向くのは、これがセレモニー、演出だからだ。
小沢追放に血道をあげる菅、仙谷、岡田らにはステップ1、ステップ2のような悪魔的シナリオがある。まず岡田が出向き、次に菅が説得。それでも小沢が政倫審に出てこなければ、政倫審で小沢招致の議決へと進む。小沢が出席拒否を貫けば、起訴のタイミングで離党勧告を突きつける。小沢切りで“毅然とした態度”を取り続け、政権浮揚をもくろむとともに、政敵・小沢一郎を抹殺する――。
こんな作戦、謀略を描いているのだろうが、よくぞ、こんなマヌケなばくちが打てたものだ。
菅が小沢の前で何を言うか知らないが、“格”の違いを見せつけられて終わりじゃないか。それでも菅がシナリオを強行しようとすれば、党内はシッチャカメッチャカになる。
今だって、小沢切りに血道をあげるだけで、選挙に負け続けている執行部に対し、小沢周辺は猛反発。民主党内は大モメ、火の海だ。そこに菅は油を注ぐことになるのである。
◆「いい加減にしろ」が国民のホンネ
「どうかしていますよ。国民だって、この騒動には呆れています。民主党は党内抗争をしている場合なのか。政権与党にとってもっとも大事な予算編成の時期なのに、いい加減にして欲しい。これが国民の気持ちです。菅首相は小沢叩きをすれば支持率が上がると思っているのかもしれないが、大間違いです。今度は絶対に下がる。
次の世論調査では1割台じゃないですか。このタイミングで、小沢氏の国会招致に乗り出し、自ら党内対立を煽る神経がわかりません」(政治評論家・山口朝雄氏)
菅・小沢会談の結果、小沢がギャフンとなり、この問題に決着がつけば、菅の株も上がるだろうが、収拾がつかなくなるのは見えている。それなのにシャシャリ出る菅は心底、アホというか、トチ狂っている。権力にしがみつきたい一心で、マトモな判断力を失っているとしか思えない。
川内博史衆院議員が言う。
「政治倫理審査会とは国会における裁判所のようなところです。国会議員を呼ぶとして、その議決をするには裁判でいう“起訴状”にあたる文書を作る必要がある。そこで違法行為をはたらいた事実認定をし、国会議員が署名する。こうした手続きが必要なのですが、小沢さんの場合、検察が不起訴処分にしたわけで、違法行為の事実認定ができるのかというハードルがある。さらに、与党の国会議員が軽々に違法行為を指摘すれば、これから始まるであろう裁判に重大影響を及ぼす。慎重になるべきで、私は議決の申し立てができないのではないかと思っています」
申し立てができても、議決が通る可能性は低い。あくまで証人喚問を求める自民党は協力しない意向だし、公明党は全会一致を求めるとみられている。
政倫審の招致議決が多数決で決まれば、「証人喚問も多数決で」ということになりかねず、池田喚問の恐れが出てくるからだ。
それでも“暴走機関車”と化した民主党執行部は過半数で招致議決を強行するかもしれない。そのために6人いる小沢系の政倫審メンバーの差し替えも検討しているが、そんなことをすれば、大ゴトになる。
「政倫審規程第8条には『委員に選任されたものは正当な理由がなければ辞任することはできない』と明記されているのです。裁判所のような役割を担う政倫審には厳格なルールがある。ここが自由に委員の差し替えが利く予算委員会などとは決定的に違うのです。岡田執行部は、こうした規程を知らないのではないでしょうか」(川内博史氏=前出)
メンバーの差し替えなんてできっこない。党内は騒然とするし、そんな思いまでして議決しても、小沢が出席を拒否すれば、それまでだ。
菅や岡田のシナリオは、ハナから無理スジなのである。
◆無謀な賭けで始まる退陣へのカウントダウン
とはいえ、ここでひるんだら、「腰砕け」と非難されることを恐れる菅・岡田執行部は、何が何でも離党勧告まで突き進む可能性もある。
仙谷官房長官は最近、周囲にこんなことを言っている。
「どうせ小沢は起訴されるんだ。そうしたら、離党するしかない。石川もそうしたじゃないか」
石川とは小沢の秘書だった石川知裕衆院議員のことだ。政治資金規正法違反で逮捕、起訴され、離党勧告前に離党した。時の幹事長は小沢だ。起訴→離党のルールは小沢が決めたものじゃないか、という理屈だが、この暴論には呆れてしまう。逮捕・起訴された石川と、検察審査会が「裁判で白黒つけなさい」と議決し、起訴される小沢とでは、まるで状況が違うのである。
それなのに離党勧告を強行すればどうなるか。
「小沢さんの夢は2大政党制の定着です。そのために民主党を育てた。やっと政権交代したのに、党分裂を誘うようなことを執行部が求めればどうするか。本気の闘いになりますよ。両院議員総会を要求され、執行部の総退陣を突きつけられると思います。小沢問題より問責決議案を出されている仙谷官房長官や馬淵国交相の処遇をどうするのか。これじゃあ、通常国会を乗り切れないという批判も出る。大混乱の中、菅首相の退陣論が吹き荒れると思います」(民主党関係者)
岡田幹事長はすでに署名が集まりつつある両院議員総会要求に対し、「論破してやる」と息巻いているらしいが、恐ろしいKYだ。党内の空気がまるでわかっちゃいないのだ。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「小沢氏の問題では党内にさまざまな意見があります。小沢さんに味方する人もいれば批判的な人もいる。しかし、菅首相では駄目だという認識は、党内のほとんどの人が共有しているのではないですか。代表選で菅氏を支持した民主党の国会議員が『間違いだった』と言い出している。旧民社党のグループも『申し訳なかった』と小沢氏に頭を下げています。
解散を極度に恐れる議員が消極的に菅首相を支持しているだけで、多くの議員は離れている。菅首相の求心力は現時点でもほとんどありません。小沢問題で党内がこじれれば、それが限りなくゼロに近づいていくことになります」
それでも菅は小沢に直談判し、「政倫審で説明せよ」「できないなら離党せよ」と迫れるのか。やれるものならやってみろ、だ。その瞬間、菅はアウト。政権基盤は音を立てて崩れ、退陣へのカウントダウンが始まることになる。
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