●“操られ”っぱなしの記者とニッポン人悲劇の関係(6) http://bit.ly/8hmdUS


薬害エイズ問題や薬害肝炎など、これまで数多くのウソをついてきた官僚たち。彼らの情報に対し、なぜ記者はダマされ続けてきたのだろうか。その理由について、ジャーナリストの上杉隆氏とノンフィクションライターの窪田順生氏が語り合った。


■いまの日本は“1億総洗脳化状態”

窪田 記者クラブに詰めている記者にとって、この世で信頼できる情報というのは役人が「話した言葉」や「ペーパー」だけ。だから彼らにとって、記者クラブはあった方が便利なんですよね。

上杉 役人が言ったことが「正しい」という前提に立っていることが、オカシイ。なぜ役人が言っていることは常に正しいと思い込んでいるのだろうか。

 記者であれば自分なりに分析して、記事を書くのが仕事。なのに役人からの情報になると、100%正しいと思い込むのはどうかと。通信社の記者であればいいかもしれませんが……。

 役人が出した情報でも、あとになってウソがバレたというケースはたくさんあります。例えば年金であったり、薬害肝炎、薬害エイズなど――。そういう役人のウソに乗っかって、ずっとウソを報じてしまう。そしてさらにそのあとになって役人のウソがバレると、役人を攻撃する。記者クラブの記者というのは常識の範囲では理解できない人たちですね。

 仮に、官僚がウソをついているのを分かっていてあえてそのように報じているのなら、たいしたタマかもしれません。でも 役人のウソが分かっていないとしたらただの愚鈍。

 いずれにしろ、記者クラブの人たちは役人に洗脳されているんですよ。そして怖いことは、新聞やテレビといったメディアは正しくて、雑誌はダメと思い込んでいる国民も同じです。なのでいまの日本は“1億総洗脳化状態”に陥り、国民全員がおかしくなっているといってもいいでしょう。

窪田 僕も記者クラブで仕事をしていたとき、1つくらいはいいところを見つけようとしたんです。しかしないんですよ。

上杉 記者クラブ制度は、役人や政治家のためには良い制度なんです。しかし国民のためにいいことがあるかといえば……ゼロですね。

窪田 あと取材をしたくないという記者にとって、記者クラブはとても居心地のよいシステム。例えば記者クラブでボーッとしていても、誰からも批判されない。席にいれば広報の人がリリースを持ってきて、それを見て書く。昼になれば県の食堂でメシを食って、そして関係部署を回って……といった感じ。とても楽なので、記者の方から記者クラブを変えようとする動きが出るはずもない。

上杉 主要メディアで働くすべての記者は記者クラブでの経験があります。なので記者クラブがなくなればどうなるか、ということが想像できないと思いますね。

 実は答えは簡単で、取材に行けばいいだけのこと(笑)。外にでれば楽しい仕事が待っているのに、なぜ自ら妨害しているのか、理解できないですね。


■洗脳されている記者たち

窪田 またメディアを就職先に選ぶ、学生側にも問題があるのかもしれません。就職活動の際に、第一志望が三菱東京UFJ銀行、第二志望が朝日新聞、第三志望が電通といったような人が、新聞社に就職してもいきなり「取材しろ!」と言われても難しいかも。いきなり夜討ち・朝駆けをすれば「こんな大変な仕事はできません」という人も多いのではないでしょうか。

 例えば朝日新聞の新人記者は東京大学を卒業し、「学生時代には囲碁部で主将やってました」といったタイプが多かった。ある新卒の記者からこのようなことを言われました。「窪田さんは桶川ストーカー事件※を取材していたんですよね。鳥越俊太郎さんのスクープはすごかったですよね」と。

※桶川ストーカー事件:1999年、埼玉県のJR桶川駅前で、大学2年生の猪野詩織さん(当時21歳)が刺殺された。詩織さんは事件発生の半年ほど前から、元交際相手の男にストーカー行為を受けていた。だが相談した上尾署はまともに取り合わず、同署は告訴調書を被害届に改ざん。告訴の取り下げを求められた約1カ月後に事件が起きた。

上杉 鳥越さんじゃないから(笑)。

窪田 その新人記者に「鳥越さんではなく、フォーカスの清水記者のスクープだから。君……『フォーカス』っていう雑誌、知らない?」って聞いたところ「僕はそういう類の雑誌は読まないですから。僕は鳥越さんの本を読んで、ジャーナリストになりたいと思ったんです」と言っていましたね。

上杉 鳥越さんはジャーナリストでもなく、コメンテーターだから(笑)。

窪田 一般企業に入った方がいい学生を、新聞社に入れるようなシステムを作り上げたことが問題なのでしょうね。

上杉 そういう学生が記者になれば、役人もコントロールしやすいはず。優等生はあまり疑うことを知らないわけだから。例えば自分の先輩である東大卒の人が、「ウソの情報なんて流すはずがない」といった感じで信じ込んでしまう。

 しかし私のように性格の悪い人間だと、役所からペーパーをもらっても「こいつウソをつきやがって」と、まず疑ってかかりますから。

窪田 記者も役人と飲みに行くことがありますが、役人は記者を操ろう・操ろうと考えています。しかしチカラのない記者は「オレをだますはずはない」と思い込んでいて、その場で情報をもらって、そのまま記事に書いてしまう。自分がスピン(情報操作)されていることに、気づいていないのでしょうね。

上杉 キャリアだけではなく、ノンキャリの役人でも同じですよ。いい大学を卒業した記者に「やっぱり記者さんは優秀ですよね。かないませんよ」などといいながら、腹の中では「バーカ」と思っている(笑)。

窪田 自分の息子と同じような年齢の記者に、ヘコヘコするわけがない。普通に考えれば分かるはずなのに、当たり前のことを疑おうとしない。

上杉 役人の言っていることは信じているんだけど、ジャーナリストであれば逆の立場にいる人の声も聞かなければならない。殺人事件があれば警察が発表したことを書くのはいいが、被害者への取材も欠かしてはいけない。これは世界中のジャーナリズムの原則ですが、日本だけがしなくてもいい。

窪田 警察の広報担当者が「被害者はこんなことを言っている」といったことを発表すれば、新聞記者はそれをそのまま書いてしまう。なので事実の部分は、取材しなくてもいいわけなんですよね。

上杉 そもそも取材のスタート時点からして間違っています。役人はウソつかない、官僚はウソつかない、警察はウソつかない――といった感じで記者は洗脳されてしまっていますね。



●なぜ朝日新聞の記者は、高い給料をもらう“権利”があるのか?(7) http://bit.ly/6LfTqI


ノンフィクションライターの窪田氏は30歳のときに朝日新聞に就職し、まず給与の高さに驚いたという。そして会社の人に「なぜ朝日新聞の給与は高いのですか?」と聞いたところ、意外な答えが返ってきた。それは……?


■役人は一枚も二枚も上手

窪田 なぜ記者クラブは大きな問題なのに、取り上げる人が少ないのでしょうか? だから記者クラブ問題を追いかける上杉さんが、「なんで固執しているんだろう。変わっている人だなあ」といった感じで見られてしまう(笑)。

上杉 本当にそうですね。もうこの問題を追いかけてから、10年が経ちました。今回も記者クラブを開放しない方向が明らかになったとき、鳩山由紀夫さんにメールしたんですよ。あんまりしつこいのもなんだから、絵文字を付けて。「みんな悲しむとともに怒ってますよ……(涙)(;;)」といった感じで。結局、記者クラブの問題も役人にひっくり返されたんですよ。平野博文官房長官なんか、一瞬で党の議員は洗脳されてしまいましたね。

窪田 役人は一枚も二枚も上手ですね。

上杉 いま、日本から海外メディアがいなくなってきています。ワシントンポストは支局を閉鎖し、支局長の家に移転しましたし、ニューヨーク・タイムズも僕がいた7年前には13人いたのに、いまはわずか1.5人。海外メディアはいま、韓国や中国の方に移っていっています。実はこうした現象は、記者クラブと大きく関係していると思う。

窪田 日本にいたって、仕事にならないですから。

上杉 なので海外メディアは通信社に頼っていますよね。基本的には記者クラブに入れるメディアに任せ、なにか大きな事件などがあれば飛んでくるといった感じ。

窪田 仕事ができないんだから、当然ですよ。記者クラブ問題といっても、多くの人は小さな問題と考えがち。「しょせんはちっちゃなクラブでしょう?」といった感じ(笑)。

土肥(編集部) 今後、記者クラブの問題って、どのようになっていくのでしょうか?

上杉 記者クラブは栄え、本体のメディアの力は弱まっていくのではないでしょうか。正直、僕はもう日本では孤立して干されているんですよ。相手にしてくれるのはBusiness Media 誠さんくらいで(笑)。

窪田 ハハハ。

上杉 でも海外に取材に行けば仲間がたくさんいる。逆に日本の記者たちが同じところに集まって孤立している。

窪田 取材団みたいな感じですね。


■朝日新聞に就職して、一番驚いたこと

土肥 窪田さんは雑誌記者から朝日新聞に移られたわけですけど、朝日新聞に入って一番驚いたことは何ですか?

窪田 僕は朝日新聞に30歳で入社したのですが、最初に給与の説明がありました。提示された金額を見て「ものすごくたくさんもらえるんだ」と思ったのですが、しばらくして労働組合の人からこのようなことを言われました。「我々の給与は安すぎる!」と。これを聞いて、僕は「この人たちは頭がおかしいな」と思いましたね(笑)。

 給料以外にもガソリン代や住宅手当などもたくさんもらっていて、非常にいい生活を送ることができるんですよ。でも労働組合の人は「ケシカラン」というわけなんです。

 で、上司に相談したところ、このように言われました。「なぜ我々が、高収入なのか考えてごらん。我々は権力を監視しないといけない。権力を監視している人間は、いろいろな誘惑に乗らないように、ある程度の生活保障が必要なんだ」と。

 ということは給料の安い雑誌記者は、権力に迎合するということですかね、と聞いてみた。すると「そうとはいわないけど、我々は朝日新聞の記者。なのでそれ相応の報酬をもらわなければいけない。自分はもらいすぎだと思っていない」などと言ってました。

 かといってその人は高慢でもなんでもない。ごく普通の優しい人。だからよけいに「やっぱりちょっと朝日の人は違うな……」と思ってしまった(笑)。

上杉 同じ日本人でもビックリするのに、海外メディアからすれば理解不能でしょうね。

窪田 海外メディアで働いている人の収入は、日本と比べてかなり低い。年棒制で1年契約といった形が多いのですが、それでもなぜメディアで働くかというと、お金のことよりもまず自分が追いかけているテーマを取材することに重きを置いているから。

 だから朝日新聞で1000万円もらわないと不正をする、といった考え方は特殊だなあと思いましたね。でも考えてみれば政治家も政党助成金をもらっていますが、これは「政治家が不正をしないように」という意味で税金が投入されているのかもしれません。なので朝日新聞の給料が高いことも、お役人的な発想から生まれているのかもしれませんね。

上杉 お金があっても悪いことをする奴はいるし、お金がなくても悪いことをしない人はいっぱいいる。こんな単純なことが分からないのかなあ……朝日新聞の人たちは。

 日本の新聞記者……というとムカツクので新聞社員は、出世すると経営者側になるわけじゃないですか。朝日新聞の社長や役員、部長になることが、自分の人生の頂点。でも海外メディアの記者は違っていて、どこの新聞社にいるのかは関係なくて、最終的にはフリーになり、自分の本を出すなどして、ジャーナリストとして世間に認められることが頂点なんですよ。

 日本の新聞社員と海外メディアの記者との間では明確にゴールが違っているので、そもそも話がかみ合わない。日本の新聞社員の頂点は社長かもしれないが、海外の記者の頂点は社内では編集主幹やコラムニスト、それよりもフリーランスの方が上。なので海外では「ニューヨーク・タイムズで働いているからすごいですね」なんて思いもしない。けど日本では「朝日新聞で働いているんですか。すごいですねえ」といった価値観になってしまう。



●朝日新聞の世論調査を批判したら、本社に呼ばれて怒られた(8) http://bit.ly/4Mj1st


大手新聞社やテレビ局が行っている世論調査に対し、どのようなイメージを抱いているだろうか。ノンフィクションライターの窪田氏は「メディアの世論調査は、調査ではなくイカサマだ」と指摘する。その理由は……?


■日本の記者クラブを世界遺産に

『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(著・窪田順生氏、講談社プラスアルファ新書)

上杉 記者クラブがあるというのは「非常に珍しいことである」ということを知っている人は少ない。韓国では盧武鉉(ノムヒョン)政権が崩壊し、記者クラブはなくなりました。いま日本以外で記者クラブがあるのは、ジンバブエくらい。

窪田 つまり独裁政権のような国で、記者クラブが残っているんですね(笑)。

上杉 またジンバブエの場合、日本の記者クラブ制度を真似して、作り上げたと聞いています。それほど世界的にも珍しいのです。そこで思い切って、日本は記者クラブを世界遺産に登録申請してみてはどうだろうか?

窪田 “無形文化財”みたいな感じで(笑)。

上杉 “負の世界遺産”でもいいですけどね(笑)。

土肥(編集部) メディアに関することで、気になっていることはありますか?

窪田 世論調査ですね。著書『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社プラスアルファ新書)にも書きましたが、新聞の世論調査というのは質問内容によっていかようにも変えることができます。例えば「Aという問題が大問題になっていますけど、どう思いますか?」と聞かれたら、ほとんどの人は「問題があります」と答えてしまう。世論調査をする新聞やテレビが、スピンを仕掛けて世論を作っている――といったことを知らない人は多いのではないでしょうか。

窪田 実はこの本の冒頭で、かつて朝日新聞が一面を使って掲載した世論調査に「情報操作」があったケースを紹介しています。これは朝日新聞のさる編集委員が『新聞批評』という業界誌に発表した論文を引用させていただいた。自分の新聞に対して非常に厳しい目をむけ、「悪しき誘導」と表現していて素晴らしいことだと思って、こういう話を業界紙ではなく新聞の一面で読者に伝えていないのは残念だと書いたんです。

 すると、ご本人から朝日新聞の本社に呼び出され、「私はオピニオン面で評論家の宮崎哲弥氏との対談でこの問題にふれている」とお叱りを受けた。それが朝日新聞の読者800万人に伝わっている事実なのかはさておき、「それは気づきませんでした」と謝りました。それはいいのですが、驚いたのはそこで「朝日新聞の世論調査がインチキだというように読めるじゃないか」と怒られたことです。「私は世論調査を是正するために努力をしたのに、こんな書かれ方をしては台無しだ」と。

上杉 「是正する」ということは、世論調査が正しくないことを認めていることじゃないですか(笑)。

窪田 でも面白いなあと思ったのは記者クラブと同じように、世論調査はメディアにとってアキレス腱のひとつ。自分たちが、世論誘導していることを薄々感じているのです。

上杉 痛いところをつつかれると逆ギレするか、無視するしかない。でも朝日新聞に逆ギレする勇気はないんじゃないでしょうか。

窪田 最近よく「新聞は最も信頼できるメディア」だという世論調査の結果がでていますが、それはこのような質問をしているから。 「2ちゃんねるのような巨大掲示板やブログには誹謗中傷がありますが、新聞についてはどのように思いますか?」――。誰だって「信頼できる」と答えるに決まっているじゃないですか(笑)。

上杉 まさに誘導尋問ですね。

窪田 あまりにも各社の世論調査がヒドイので「日本新聞協会などで質問の基準を作ればいいのではないでしょうか」と聞いたんです。でも「う~ん」といった感じで、お茶を濁していましたね。

上杉 窪田さんが言っていることはまったく正論なんだけど、彼らは絶対に否を認めないですよ。今頃、朝日新聞社内では「窪田が、こんなことを言ってきやがった」などと話しているはず。

窪田 朝日新聞の編集委員の人は報道機関で働いているのだから、文句があるのであれば文字で説明すべき。このように言うと、また「むにゃむにゃむにゃ」といった感じでお茶を濁していましたけど。

上杉 メディアは絶対に争い事や問題を表に出さないですから。裏でなんとか誤魔化そうとします。問題があれば紙面で書けばいいのに、裏で誤魔化そうとするからさらに突っ込まれてしまう。問題があればきちんとそのことについて反論すればいい。それでも相手が何か言ってきたら、さらに反論すればいいだけのこと。そうすることによって、いい意味での緊張関係が生まれるんですよ。


■読売新聞は紙面の中で反論すべき

窪田 最近ではメディアがメディアを訴えるケースがあったりして、これは理解できませんよね。

土肥 押し紙※をめぐって、読売新聞が新潮社を訴えましたよね。

※販売部数を水増ししていると指摘した『週刊新潮』の記事で名誉を傷付けられたとして、読売新聞社は新潮社を相手取り、損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴えを東京地裁に起こした。

窪田 読売新聞には訴える前に「書きなさいよ」といいたいですね。彼らは1000万部の部数を誇っているんだから、書けばいいんですよ。

上杉 メディアとメディアの丁々発止があって、それを読むことによって読者のリテラシーが上がるんですよ。

窪田 押し紙問題について、某大手メーカーが読売新聞を訴えるかもしれない、という情報が流れていた。なのでその大手メーカーをけん制する意味で、読売新聞は新潮社を訴えたのかもしれない。仮にそうだとしても、やはり読売新聞は紙面の中で反論すべきだったと思います。

上杉 メディアは社会の問題に目を向けて報じる義務があるわけだから、自分たちの問題もきちんと報道すべきですよね。自分の身にふりかかる問題に関して、まるでなかったような扱いにしていれば、やがて読者からの信頼も失われていくでしょうね。

 海外メディアの場合、自分たちのスキャンダルでも平気で書く。日本人の感覚からすると、それは自爆行為かもしれないが、でもその方がジャーナリズムとして健全な姿勢だと思いますよ。

窪田 日本的な……「まあまあまあ」で解決してしまうんでしょうね。それでも文句を言う奴に対しては「お前は世間のことが、分かってねえなあ」といった感じで、批判されてしまう(笑)。

 例えば『噂の眞相』の内容に対して、さまざまな意見がありました。「絶対に認めない」といった声もありましたが、それでも『噂の眞相』のような雑誌があることで、一定の潤滑油になったのではないでしょうか。政治家や企業のエライさんが不倫してどうのこうのとか、どこそこの企業は労働組合と給料のことでもめているとか、メディアのことを批判したりとか。ただそうした記事があることで、メディア自身が我が身を振り返ることができたのではないでしょうか。


●朝日新聞の支局には、こんな雑誌が置いてあった(9)  http://bit.ly/8Sd2xG


海外の新聞では当たり前のように他の新聞を批判しているが、なぜ日本の新聞は他社の記事を批判しないのだろうか。また他社のスクープに対しても、“黙殺”するケースが多い。こうした日本の新聞社の“慣習”について、上杉氏が指摘した。


■この業界にしがみつくフリーライター

上杉 海外メディアの場合、例えばワシントンポストがニューヨーク・タイムズを批判する。それに対しニューヨーク・タイムズがワシントンポストに反論する。メディア同士が普通にかんかんがくがくと議論していますよね。

 でも日本の場合、朝日新聞で読売新聞を批判する記事は一切掲載されない。と同時に、読売新聞のスクープも載せない。例えば読売新聞がスクープをとれば、ほかの新聞は敬意を評して「読売新聞のスクープはこうだ。だけど○○新聞が取材したところによるとこうだ」と書けばいい。こうしたことを海外のメディアは、当たり前のようにやっていて、敬意を評しながらも批判も忘れません。しかし日本のメディアは批判されると、どうしていいのか分からないので大混乱に陥ってしまう。そういう意味で、非常に弱い組織なのかもしれません。

窪田 攻撃に対し、恐ろしく弱い体質ですよね。

土肥(編集部) メディアというのはそもそも攻撃することが商売ですよね。その一方、なぜ攻撃されることに対し、そのほどの弱さを見せるのでしょうか。

上杉 やはり彼らはエリートなんですよ。小さいころからあまり批判された経験がないので、ちょっと批判されるとどうしたらいいのか分からない。

窪田 もともと新聞や雑誌というのは、格調高いものではなかったはず。部数が少なかった時代はもっと下品だったが、読者が増えることによって自主規制が強くなっていったのではないでしょうか。創刊当時は面白い記事や企画が多かったのに、いつの間にか“官報”のようなものになっていますよね(笑)。

上杉 メディアを批判することは本当に難しい。例えばライターがどこかの雑誌を批判する記事を書いたりすると、批判された出版社は「あの記者を消せ!」「一切使うな。徹底的に干せ!」となりがち。そうなれば、そのライターは終わってしまう。ちなみに僕の場合は消されてもいいように、ゴルフ取材を続けています(笑)。これまでも週末はゴルフ取材だったのですが、最近では金・土・日曜日というように平日にもゴルフ場に出かけています。最終的には政治取材の永田町が週に1日だけ、あとは全部ゴルフ場にいるということになるかもしれませんね(笑)。

 多くのフリーライターは「この職業を奪われると、もう終わりだ」と感じています。窪田さんや僕に共通していることは、いろんな仕事をしてきたこと。だから、いつこの仕事を辞めてもいいや、と思っていませんか?

窪田 古巣の朝日新聞から睨まれようが、エライ人とケンカしようが、怖くともなんともない。

上杉 僕もマスコミの世界がダメになれば、また政治家秘書やホテルマンに戻ればいいだけだと思っていますから。それもダメなら、以前やっていたカラオケ屋の店長や居酒屋の店員、そちらの方に戻ってもいいし。

 でも多くの記者たちは、この世界でしがみついていますよね。

窪田 しがみついてしまうということは、結局、組織の方を優先することになるんですよ。きちんと給料をもらう生活に慣れてしまうと、再び出てくることが難しくなります。


■朝日新聞岐阜支局で購読していた雑誌

月刊『第三文明』(2010年1月号)上杉 あと記者クラブに慣れてしまっている人は、記者クラブがない外の世界で何をしていいのか分からない。長年、新聞記者の仕事を続けていると、ほかの職業に就くことが難しいのではないでしょうか。

窪田 「新聞記者って何でも知っている」といったイメージがあるかもしれませんが、実は世の中のことを知らない人は多いですね。

上杉 まず新聞を読まない人が多い。読んでいても、自分が担当する記事だけ。

窪田 朝日新聞の岐阜支局で働いているときに、上司がこのように言ったのです。「若い人があまりにも新聞や本を読んでいない。これからは支局の中に、雑誌コーナーを設けたから『週刊文春』や『週刊新潮』を読んでおくように」と。

上杉 ハハハ。

窪田 そこまでは、まだいいんです。で、実際に雑誌コーナーを見てみたら月刊『第三文明』が置いてあった(笑)。もちろん監視的に定期購読していればいいのですが、『週刊文春』『週刊新潮』と同じ棚に並べ、『第三文明』を読めというのはいかがなものか。『第三文明』の雑誌の内容を分かっていて定期購読していたのか、よく分かりませんでしたね……あの感覚は。

上杉 何も考えていませんよ、きっと。

窪田 朝日新聞に就職したときに、研修がありました。でも記者クラブに関しては、一文字も出てこなかったですね。

上杉 それは「記者クラブという問題はこの世に存在しない」ということになっているから。北朝鮮での「拉致」に等しいかも。

窪田 記者クラブに関する説明はこんな感じでした。「みなさんは記者クラブに行って、そこに幹事社というのがあって……以上で終わり」――。

 記者クラブの意義なり、会社としての考え方なりなどを話してくれるのかと思っていましたが、この問題に関しては完全にスルーでしたね。

上杉 テレビ局や新聞社の幹部から僕のところに連絡があり、このようなことを言ってきました。「記者クラブ問題の、落としどころはどこにあるのか?」と。各社で“上杉問題”が話し合われているということなのですが、僕はこのように答えました。「落としどころはないんですけど」と。

窪田 先ほど上杉さんが言ったとおり、彼らを役人だと思えばいい。もちろん「カチン」とはくるけれども、「まあ役人だからしょうがないか……」と感じられる。もちろん「しょうがないか」と思うことも、いけないのですが。


■ジャーナリストとして強くなるには

上杉 あとこの問題で面白いことは、自分が思ったとおりに相手が右往左往するということ。あっちに逃げたので、こっちをつつくと、こちらの方向に逃げるのではないか――と。このような感じで、彼らはまとまって行動するのです。しかも手にとるように、相手の動きが読めるんですよ。

窪田 NHKにいて、鳩山事務所の秘書をして、ニュヨーク・タイムズで記者をして……上杉さんのような立場であるからこそ、この記者クラブ問題は追及できるのでしょうね。相手からすると、潰すこともできないし、黙殺することもできない。

上杉 そういう意味で言うと、窪田さんも同じですよ。雑誌で記者をして、朝日新聞に入り、PR会社に席を置く……。日本の場合、マスコミから権力側に行く人は多いですが、権力側からマスコミに来る人はほとんどいない。マスコミと権力側……お互いの手の内を知ることで、そこからいい意味での緊張関係が生まれてきますから。

 フリージャーナリストでも権力側の手の内を知っていないために、権力側にコロッと吸い取られてしまう人も多い。権力側に入ってだけでは弱く、そこから出ることによってジャーナリストとして強くなっていくのです。

窪田 これまで名だたるフリージャーナリストが、大手新聞社やテレビ局の中に入ってしまいました。もちろん職業選択の自由なので、その人が選んだ道をどうこういうわけではないのですが、もしいまでも彼らがフリージャーナリストとして活躍していれば、もっと違った世の中になっていたかもしれませんね。(終わり)