小沢首相になれば事態はどう変わるか(1)~(6) 政治専門筋に徹底的に聞いてみた
(日刊ゲンダイ2010/8/27)
小沢が勝つ 菅短命3カ月の見方
9月14日の代表選までに何が起こり、その後どうなるか
◆小沢出馬を歓迎するこれだけの声と評価
「勝てない戦いはしない」――。そう言われてきた小沢一郎前幹事長が代表選に出馬宣言した。鳩山前首相の全面支援を取り付け、「勝てる」と踏んだのである。実際、党内の議員勢力や党員・サポーターの獲得数を見ても小沢優位の情勢だ。党内では「菅と仙谷は度を越した小沢排除がアダになって、逆に3カ月で排除される」の声も出始めた。大マスコミは予想通り、小沢批判キャンペーンを始めたが、それを承知の上で出馬を決断した小沢はずっと高いレベルの政治を考えている。小沢首相が実現すれば、民主党政治は原点に戻り、この国は今度こそ劇的に変わりそうだ。
「小沢出馬表明」を聞いて、民主党ウオッチャーである評論家の塩田潮氏がギョッとすることを言った。菅首相の解散による代表選潰しだ。
「代表選告示日直前の今月30日か31日、菅首相は負けると分かったら、突然、挙党態勢を言い出して小沢氏を抱き込むかもしれない。それがダメだったら、衆院を解散するかもしれませんよ。あの人は、総理になるために政治家をやってきた人。1秒でも1分でも総理を長く続けたい。代表選で負けて政治生命が終わることを考えれば、何でもやってきます。代表選で負けたあとでも、総辞職せずに総理に居座り、民主党から不信任案を出されたら、自民党と組んで解散・総選挙に突き進むことも考えられるのです」
いやはや、この2カ月、何の仕事もしないのに、権力亡者に成り下がった菅首相。小沢が「菅ではもうダメだ」「このままでは日本が危ない」と代表選出馬を表明したのは大正解だ。
元大使で評論家の天木直人氏も言う。
「小沢氏の決断は大歓迎ですよ。大事なのは、過去がどうしたこうしたよりも、この国のために何をやってくれるか。菅首相はアメリカ従属、官僚従属に走り、何もできない。小沢氏はそこに我慢ならず出馬を決意した。拍手を送りたいですよ」
「政治とカネ」の問題だけを強調して小沢を叩く大マスコミは、「巷の声は小沢出馬に厳しい」と流している。マイクを向けられれば、まじめな日本人は優等生的な反応をするものだが、本音はたぶん違う。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)がこう言う。
「何か大きく雰囲気が変わった気がします。このまま菅政権を続けさせても、何もいいことはなさそうだと、庶民はやり切れない気持ちになっていた。それが小沢氏の出馬で、何か変わるのではないかと希望、期待が持てるようになった。閉塞感を打ち破れる力を小沢氏は持っているからです。昨年、政権交代が起きたときと同じで、ワクワクした気持ちになってきた。それが庶民の偽らざる本音だと思いますよ」
無能無策の菅政治で八方ふさがりになった日本。そこに風穴を開けられる腕力と政治能力を持った男は、永田町を見渡しても残念ながら小沢一郎しかいない。それだけは間違いないのだ。
(2)仙谷、枝野、前原、岡田たちの反小沢勢力の運命
小沢首相が誕生したら、「反小沢」一派の仙谷官房長官(写真右)や枝野幹事長(写真左)たちはどうするのか、どうなるのか。
仙谷由人、枝野幸男、前原誠司、岡田克也……。民主党内でガチガチの「反小沢議員」は、実際には10人程度にすぎない。これまでデカイ顔をしてこられたが、小沢内閣になったら、パージされるのは間違いない。
「小沢さんが絶対に許さないのは、外相の岡田克也と渡部恒三の2人です。岡田は『起訴される可能性のある方が代表、首相になることには違和感を感じている』と、わざわざ会見で発言した。あの発言には小沢周辺も『日本は推定無罪なのに、最初から罪人扱いするのか』『政治活動の自由を妨害するのか』とカンカンです。渡部老人にもハラワタが煮えくり返っている。やり方が汚いのは、本当は『衆院議長にしてくれなかった』という個人的な逆恨みが動機なのに、中立の第三者を装って『たったひとりが諸悪の元凶。その人がいなくなれば挙党一致できる』とメディアで悪口を言いまくっていることです。一体どこの党の人間なんだと小沢さんが怒るのも当然です」(民主党事情通)
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「反小沢の急先鋒である仙谷、枝野、前原の3人が、徹底的に干されるのは間違いない。注目は、仙谷長官に唆されて『反小沢』で突っ走った菅首相にどんな態度をとるかです。菅首相は小沢前幹事長に対して『しばらく静かにしていろ』と失礼な言い方をしたが、小沢一郎は正反対のことをすると思う。自分から『挙党態勢が大事だ』と歩み寄り、処遇しようとするのではないか。その時、菅首相が申し出を受けるかどうか、かなり頭を悩ませるはずです」
クビを洗って代表選の日を待つしかない幹部たち。死に物狂いで大マスコミをたきつけるのだろうが、そういう手でしか小沢に勝てないことが無能の証明なのだ。
(3)マニフェスト実現へ予算組み替えが始まる
民主党が大敗した先月の参院選の第一声で、小沢はこう言っていた。
「すぐ消費税増税はせず、ムダを徹底的に省いて財源を捻出するのがわれわれの主張だった」
菅は、「財源がない」を理由に、子ども手当の縮小を決め、財務省のシナリオに乗せられるままに消費税増税を口にした。小沢首相になれば、再び民主党政治は原点に戻り、昨年の衆院選マニフェストの実現に力を注ぐことになる。
もともと民主党マニフェストの一丁目一番地は、国の総予算207兆円の全面組み替えだった。国民生活にとって必要なものは増やし、そうでないものは削る。菅政権が諦めてしまった財源探しに、小沢内閣は本気で取り組むはずだ。
「政策に順位付けができれば、予算の組み替えは可能です。国民を守るために何を優先し、将来の日本のために何に投資するのか。財務省に任せるのではなく、政治主導で政策に優先順位をつければいいだけなのです」(民主党関係者)
そうすれば、自民党政権時代と同じ「一律10%削減シーリング」なんてバカな発想は出てこない。要は、政治力、決断力なのである。ここが小沢は、菅や野田とは数倍違う。
秋に特別会計を対象にした「事業仕分け第3弾」が予定されている。蓮舫大臣のままでは、「セレモニーで終わり」がミエミエだが、小沢は、特別会計の仕組みに詳しいし、財務省のズルさもよく分かっている。特別会計に眠る埋蔵金を掘り出すことだって可能だ。特別会計の下にぶら下がるムダな独立行政法人にあらためてメスを入れ、補助金をバッサバッサと切ってくる。その剛腕は期待できる。
民主党のマニフェストに詳しいジャーナリスト・神保哲生氏が言う。
「鳩山政権も菅政権も、マニフェストがなかなか実現できず、国民は歯がゆい思いをしてきた。小沢総理になれば、経験豊富ですから、万難を排して、マニフェストのかなりの項目を実現できるのではないかという期待感があります。ただ、人気取りだけでなく、その先に、どういう日本をつくるのかというしっかりしたビジョンを示せれば、さらに強力になると思います」
この1年、しぼむばかりだった予算組み替えが最初の政治テーマになる。
(4)小沢嫌いの新聞テレビの周章狼狽
案の定とはいえ、小沢が出馬表明したきのう(26日)の各紙夕刊には呆れた。社会面は、小沢に対する批判の声を並べ立てていた。「カネの問題 説明まだ」「国民のためになるか」「『脱小沢』が最大争点に」と煽る記事もあった。
争点は政策だろう。どの世論調査でも、国民の最大関心事は景気問題、社会福祉だ。消費税や円高対策で争えと注文をつけるなら分かるが、無理やり「小沢イコール悪」のムードを盛り上げ、「小沢首相誕生」を阻止しようと躍起だから、大マスコミには呆れるしかないのだ。
小沢を叩けば日本は良くなるのか。何も改革ができない菅政権のままでいいのか。違うだろう。
だが、考えてみれば、悪意に満ちた新聞テレビ報道は、連中の周章狼狽(ろうばい)の裏返しである。
「世論の支持頼みの菅首相は、最近は大マスコミといい関係を保って、批判記事を減らそうという姑息な姿勢が透けて見える。しかし、小沢さんはそういう愛嬌を振りまくことはない。どんなにバッシングされようが、メディアを取り込もうなんてしないし、記者クラブの既得権益を優遇することもない。すべて合理的にやる。そうなると権力との癒着が続けられなくなるから、大マスコミは小沢政権実現だけは絶対に阻止したいのです」(永田町関係者)
自分たちの都合、損得だけで、民主党代表選、次の首相選びを意図的にネジ曲げる。言論機関がやることなのか。
小沢に近い議員が言った。
「昨年の西松事件以降、小沢さんはずっと大マスコミの標的にされ、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられてきた。これから代表選の間、いろいろな古い話まで引っ張り出して、小沢のダーティーなイメージづくりを必死にやるでしょうね」
小沢はそれを乗り越えるしかないが、新聞テレビ報道には、こういう裏があることを、国民は肝に銘じておいた方がいい。
(5)官僚支配を復活させた霞が関も刷新される
小沢出馬に慌てているのは、霞が関の官僚たちも一緒だ。
操りやすい菅首相、何でも聞いてくれる仙谷官房長官、ヒヨッコ同然の大臣たちを相手に、せっかく官僚支配を復活させたのに、小沢政権になれば、再び力関係がひっくり返る。それが分かっているのだ。
小沢といえば、昨年の幹事長時代、宮内庁長官をどやしつけたことがあった。天皇と中国副主席の会談にからんで、ブツブツ言った羽毛田長官に「一役人が内閣の方針に文句があるなら、辞表を出してから言え」とやった一件だ。子供時代から一度も怒られた経験のない宮内庁長官は震え上がったと、今でも霞が関の“伝説”になっている。
小沢は事務次官会議廃止、内閣法制局長官の答弁禁止、天下り禁止なども主導してきた。公約の「政治主導」のためにはどんな偉い官僚にも容赦ない。だから元厚生事務次官だった宮内庁長官を平然と罵倒できる。こんな度胸のある政治家はいない。
ある官僚がこぼした。
「霞が関が一番嫌いな政治家は間違いなく小沢。手ごわいし、官僚の手の内を知り尽くしている。人事にも介入してくる。検察とだって闘おうとしている。幹事長時代はあまり内閣のことに口出ししなかったが、首相になったら、ガツーンとやって、『政治主導復活』を印象づけるでしょう。霞が関は戦々恐々ですよ」
菅首相は、元社保庁長官とか元ロシア課長などいわくつきの官僚まで復権させて、霞が関にコビを売っているが、小沢は違う。従わない官僚はバッサリやる。
埋蔵金を隠す一方で、「景
埋蔵金を隠す一方で、「景気対策をやる財源はない」なんてホザいている財務官僚や無策の日銀幹部のクビが飛ばされる日が来るだろうから、待ち遠しい。
(6)本当の政権交代がようやく実現
「小沢一郎の最終戦争」などの著作が多い作家の大下英治氏が言う。
「小沢さんは賢明な選択をした。今回、出馬を諦めたら、仙谷官房長官に干し上げられ、求心力を失い、政治家・小沢一郎は終わったかもしれない。出馬することで、万が一、代表選に負けても、力を持ち続けられる。次が狙える。でも、民主党のオーナーである鳩山さんの全面協力を取り付けたことで旧民社党や旧社会党系のグループも支持に回るから、代表選は小沢さんが勝つでしょう。党員・サポーター票も小沢優勢です。小沢総理が誕生したら、いよいよ自民党との最終戦争と、最後の“ご奉公”が始まるのです」
小沢は、消費税と普天間を代表選の争点にすると言っている。つまり増税路線でなく、「国民生活が第一」の路線に戻すことと、米国との対等な付き合いを目指すことを掲げるというのだ。これも菅には痛い。
◆権力抗争ではなく路線闘争
「こじれた普天間問題を短期間で片付けるのは無理。大事なことは沖縄県民の声をアメリカに伝えること。小沢氏はそれはやるでしょう。消費税増税や辺野古移転受け入れで分かるように、菅政権は支配する側の論理に立ち、自民党政治と変わらなくなった。対して小沢氏は、支配される側の声を汲み取ろうとしている。今度の代表選はそういう意味で、単なる昔からの権力抗争でなく、初の路線闘争になった。これは素晴らしいことです」(天木直人氏=前出)
もともと昨年の政権交代で、多くの国民が期待したのはそういうことだった。旧勢力の総攻撃による鳩山・小沢辞任で急ブレーキがかかり、菅政権の日和見政治で時計の針は逆戻りを始めていたが、小沢政権が実現すれば、本当の政権交代がいよいよ実現するのだ。大新聞テレビや官僚、自民党が一番嫌がる新政権こそが、庶民にとっては本物なのである。