『TAR』鑑賞 | 黒沢あすかオフィシャルブログ「Asukamera」Powered by Ameba

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※ネタバレあり



『TAR』

トッド・フィールド監督


ケイト・ブランシェットを堪能。


彼女が演じるリディア・ター。

マエストロとしての威厳は凄まじく、生徒を論破し退室させてしまうシーンは、権威を振りかざす人間のエゴイスティックな心理描写があからさまで目を見張った。



結果、傍若無人な動向が破滅を招き、ベルリンフィルでの偉業は泡と消えるのだが、栄誉という名の冠をかぶり続け、私利私欲に走る判断を正しいとする者の顛末劇は壮観で圧巻。



王座から引き摺り下ろされてもなお、怒りの感情をあらわにし、指揮者にタックルするシーンは唯一荒々しく、生々しい感情表現をしていて私の好きなシーンである。



恩師とのランチシーンが数回差し込まれるが、ターは恩師に、いま見舞われている窮地を相談する。

投げかけられた問いに恩師は「上り詰めるほど身辺には細心の注意を払ってきた」と。



恩師の返しは恐ろしい。



「敵も味方も紙一重で、今日の味方も明日不要になれば蚊帳の外だ。私とお前を一緒にするな」と一蹴しているように聞こえたからだ。



ターが転落してからの展開は早く、原点回帰するシーンも盛り込まれ、エンディングはいきなり何を見せられているのか整理がつかず、きょとん。三男から説明を受け、あゝそういうことっ!とのけぞってしまった。



その姿を落ちぶれたとするのか、音楽の道を捨てなかったとするのか。

咲ける場所で根を下ろし、恥も外聞もかなぐり捨て、新たな場所で挑むことができるターはやはり只者ではなかった。



ケイト・ブランシェットがタクトを振る姿は麗しい。最高の映画でした。