※ネタバレあり
『イニシェリン島の精霊』
マーティン・マクドナー監督
男二人の関係にズレが生じた。
「残りの人生、これからの時間は自分の為に使う」
一切の関係を断ち切る宣言をしたコルム(ブレンダン・グリーソン)の顔には、積年の思いが表れていた。
一方のパードリック(コリン・ファレル)は寝耳に水。何がどうしたんだと事態の収拾に奔走しはじめる。
そしてこの騒動を見守っていたのがパードリックの妹シボーン(ケリー・コンドン)
きちんとした人だった。
教養ある彼女は後に、プライバシーの欠片もない島の生活に見切りをつけ本土へ渡るのだか、この彼女の存在がコルムとパードリックの戦いの抑止力になっていたのだと改めて思う。
ひとりは主義・主張を唱え、またひとりは寛容と許容を乞う。
二人の間に"お互い様"の気持ちが存在していたら、パードリックからの反撃の火蓋を切られることはなかったのではないか。
いや、"お互い様"の限界だったのかな。
男たちの戦いは、本土で行われている戦争の縮図に思えてならない。
掲げる主義・主張、それは取り下げたら沽券に関わることなのだろうか。
海を二人で眺めるラスト。
振り向いたパードリックの顔は、もう下がり眉の彼ではなかった。
胸に一物ある要注意人物のように見え、島の戦いが彼の思考にどれほどの影響を与えてしまったのか。
小さな世界で生きていく二人。
先行きが気になる。