あすか俳句会

あすか俳句会

野木桃花主宰の楽しい俳句会

あすかの会 4四月 (兼題 春惜しむ 集) 

                   会 長    大本 尚

                    ゲスト参加 武良竜彦講師 

 

※推奨句は推敲後も含む

野木桃花主宰

音もなく離合集散蝌蚪の国   準々高得点句

不夜城のごときビル春惜しむ  武良講師推奨句

生くものの影を大地に帰る鳥  武良講師推奨句

惜春や伏目がちなる裸婦の像  

 

   ※   ※

 

野木主宰特選句 

集合は若葉のあの木同窓会    ひとみ  準高得点句 大本会長・武良講師推奨句

 

武良講師特選句

全集に薄き春塵子供部屋     玲 子  最高得点句 大本会長推奨句

 

  ※

 

最高得点句  

全集に薄き春塵子供部屋     玲 子  武良特選句

 

準高得点句

集合は若葉のあの木同窓会    ひとみ  野木主宰特選句 大本会長・武良講師推奨

それとなく歩幅合わせて春惜しむ 孝 子  野路主宰・大本会長推奨句

 

準々高得点句  

惜春のやはらかき音夜の雨    ひとみ  野木主宰・武良講師推奨句

集魚灯消して帰港す春の暁    悦 子  野木主宰推奨句

 

   ※   ※

 

旅の途は小雨に濡れて春惜しむ   武良講師推奨句

集合はハチ公前の風光る    

ひもすがら海を眺めて春惜しむ 

春惜しみつい口に出る独り言

蟻のごと(すだ)く人人花の下

 

典 子  

「僕です」と集ふ教へ子四月かな  野木主宰推奨句

惜春や吉野を忍静の舞       野木主宰推奨句

あたたかや命名書もある作品展  

駆けつけし子は腰越よ風光る   

命日は四月末日満福寺

 

玲 子

全集に薄き春塵子供部屋      最高得点句 武良特選句

にはたづみ丸く縁取る花の屑    武良講師推奨句

緩急の流れのままに風光る

溢れたる躑躅古刹を染め上げて 

いつ知らず集ふ公園花の昼

 

悦 子

鯥五郎跳ねて泥の目沖遠し     武良講師推奨句

集魚灯消して帰港す春の暁     準高得点句 野木主宰推奨句

夕桜ふりむく媼の薄化粧      野木主宰推奨句

跳び箱に思ひを残し卒業す     武良講師推奨句

待ちに待つ遠流の島の遅桜

 

みどり

野も人も越後なりけり春惜しむ   武良講師推奨句

八方に残雪の山水匂う       大本会長推奨句

かたかごの花集ひゐる納屋の陰 

野仏に隠るるやうに残る雪

 

ひとみ

集合は若葉のあの木同窓会     準高得点句 野木主宰特選句 大本会長・武良講師推奨句

惜春のやはらかき音夜の雨     準々高得点句 野木主宰・武良講師推奨句

母生れし近江の湖や春惜しむ    武良講師推奨句

棚一杯全集の書肆日の永し   

ぶらんこは二つ三人目の男の子 

 

孝 子

それとなく歩幅合わせて春惜しむ  野木主宰・大本会長推奨句

夜桜や妖達の集ふ声        大本会長推奨句

譲り受く湯指ぬきゆるく花ミモザ  武良講師推奨句

竜神のごとき木肌や松の芯   

花を愛で枝ぶりを誉め旅三日 

 

◎ 通信参加 ◎

 

市 子

川音に身をのす岸辺春惜しむ    武良講師推奨句

ひとり来て古木のもとに春惜しむ 

春惜しむ鳥語に耳を傾けつ    

糸通す針に集中春燈下

根の強き春草を摘み集めむ

 

かづひろ

水音を集めては鳴く河鹿かな    武良講師推奨句

日に二本列車来る駅春惜しむ 

友忍ぶ心ひたすら春惜しむ  

数を生み大きさ集め石鹸玉  

野遊びのコースを結ぶ二社一寺

 

き よ

集落は天空の里木の芽時      武良講師推奨句

音読の中也の詩集春惜しむ     武良講師推奨句

春の日や藻草艶やか潮溜      武良講師推奨句

囀りや昔をかたる四人組

ママの撮るスーツ姿のランドセル 

 

 ○ ゲスト参加 

 

竜 彦

溺れたき哀しみもある穀雨かな  野木主宰推奨句

狂へない時計は哀し目借時

苗代時廃れしままの労働歌

花唄ふ貴賤問はずの万葉集

惜春の河岸の我が歩速からず

 

 

 

 

 

 

    あすか塾 84

                          

《野木メソッド》による鑑賞・批評   

「ドッキリ(感性)」=感動の中心

「ハッキリ(知性)」=独自の視点

「スッキリ(悟性)」=普遍的な感慨へ

  

 野木桃花主宰 4月号「石蓴汁」から

 

小流れの小石ころころ水温む

 雪解水、雪解川、雪解風、雪解雫、雪解野という仲春の季語が示すように、北風にかわって吹く東からの風は雪解をうながし、大きい河川も、この句のような「小流れ」も水量を増します。川底の小さな石たちがその勢いで動き出すのも「水温む」春の景ですね。

夕食はあなた好みの石蓴汁(あおさじる)

 石蓴は三春の季語で、水深一~二メートルほどの海中に、岩や杭、海藻等に付着して成長します。巾の広い楕円形で、大小無数の穴が空いています。汁物にすると味が染みて、潮の香が立ち昇ります。和やかな景が浮かびますね。

春耕や有機石灰まく朝

「春耕」は三春の季語「耕し」の子季語ですね。「有機石灰」はカキ殻やホタテの貝殻、卵の殻などの生物由来の資源を原料とした自然に近い優しい石灰で、土の酸性を中和する効き方がとても穏やかで、土壌バランスを崩したりするリスクが低い石灰です。自宅のミニ菜園か、専業農家の方の景でしょうか。

 

○ 「あすか」4月号「あすかの会」会員作品から

 

長芋の髭ピチピチと火に縮む    宮坂市子

 長芋を調理する前段階で火にかざして「髯」を取り除く作業をしている景ですが、都会人は処理済のものをスーパーで購入して使いますから、この「もののリアリティ」は詠めませんね。地に足のついた暮らしが見えます。

 

庭中の光を集め冬木の芽     村田ひとみ

 冬木の芽、その黄緑色の明るさに、春の到来を感じているのですね。それを「庭中の光を集め」という心の凝縮感で表現したのが独特ですね。

 

池小春大鯉作る水笑窪     山尾かづひろ

 大きな鯉のゆったりとした動作で周辺の水が動き、水面に窪みができたという景ですが、それを「水笑窪」としたのが独創的で、作者だけの小さな春の発見ですね。

 

身籠りし嫁御に捌く寒の鯉     大木典子

 寒の水で洗った鯉を「嫁御」の出産に向けた滋養として捌いているのですね。「嫁御」という古風な表見で、昔の男衆(おとこし)の仕事ような雰囲気が伝わります。夫か父か親戚の伯父様か。大家族の中の景が浮かびます。

 

主なき庭に蝋梅香の盛り      大本 尚

 無人の廃屋に、植えられたままの蝋梅が、健気に花を咲かせているのですね。その「香の盛り」に無常を感じている、深みのある表現ですね。

 

語るがに向きそれぞれの水仙花   金井玲子

「語るがに」の 「がに」は、古語の接続助詞+副助詞的用法から成立した表現で、意味は「~するように」「~するかのように」 にですね。俳句的な短詩的省略語法に向いている表現で、また味わいもありますね。水仙の花の向きのバラバラな様に、まるで子供たちが、てんでにおしゃべりしているような景を思い浮かべている表現で味わいがありますね。

 

凍空や雲間の星の抜け出せり    金子きよ

 実景としては雲間から星が見えただけですが、「抜け出せり」と表現すると作者の気持ちが乗りますね。雲に捕らわれていた状態からの解放感が伝わります。

 

ふたつとふあたたかきことば鴛鴦夫婦  近藤悦子

 作者の孤独感が背景にあることを感受させる表現ですね。そう鑑賞するのは、やや「読み過ぎ」になるかもしれませんが、「ふたつ」というペアで居ることの「あたたかさ」への想いが伝わります。

 

西行の花追ふごとく師友逝く    紺野英子

 これは歌人、西行の旅を踏まえた表現ですね。死出での旅とは見做さず、「花を追ふ」旅に立ったのだと、美しく表現しました。故人に対する敬意も籠った表現ですね。

 

雪催コラムの隅に恋一首     鴫原さき子

 さき子さんは秀句の投稿が多いので選句に悩みます。「湖をいちまいにするこの寒さ」「冬木立脱ぐもののなき姿かな」「トルソーとなりし老い木に返り花」。悩んだ結果、掲句を選びました。雪が降り出しそうな暗い空の下、沈みがちになる気持ちを、ほっと温めてくれる、小さなコラム記事の恋の短歌。選ばれたことばに一分の隙もなく、柔らかな心がそっと添えられている表現。お見事。

 

忘れ潮やさしき嘘の二つ三つ   高橋みどり

「忘れ潮」は晩春の季語、潮干潟の子季語の一つですね。旧暦三月(新暦四月)初め頃の大潮に、潮が大きく引いた遠浅の海岸のことで、「潮」自身を指すことばではありません。潮干狩りに大勢の人々が繰り出す干潟ですが、湾岸の埋め立てなどで大きく失われました。東京湾最奥部の三番瀬(千葉県)など残された数少ない干潟の保全活動が進められています。この句はそんな自然の喪失感が呼びこまれているような「やさしき嘘の二つ三つ」という表現で、自分の屈折する思いを表現しているようですね。

 

いつまでも残る言葉や除夜の鐘   水村礼子

心にいつまでも残る言葉には二種類があります。思い出して心がほんわりと温かくなる言葉と、胸の奥に刺のように刺さったまま、思い出すたびに心を痛める言葉です。この句はそのどちらでしょうか。次のように鑑賞できますね。下五の季語「除夜の鐘」でその煩悩を払っているのだから……と。

 

寒月や弱いままでは駄目ですか   笹原孝子

 競争社会で常識とされている勝ち組優先の風潮の下、強くあれと奨励するようなことに異を唱えているのですね。文語的な固い表現だと刺立ってしまうところを、この句はどこか惚けたユーモラスな口語的な表現で訴えました。しみじみ心に響きます。

 

 

あすかの会 三月(兼題 東風 結) 会長・大本 尚

                  ゲスト参加 武良竜彦講師   ※推奨句は推敲後も含む

 

野木桃花主宰

花を追ひ結句に迷ふひとり旅    武良講師推奨句・準高得点句

蝶生まれ印を結びぬ阿弥陀仏    武良講師推奨句・準々高得点句

北斎忌八方睨みの天井画      武良講師推奨句

読みさしの「石牟礼道子」東風荒し 武良講師推奨句

桜東風夫の晩年満ちゆけり     武良講師推奨句

 

   ※   ※

 

野木主宰特選句 

雲雀東風限界集落縫ふやうに   玲子  武良講師推奨句

      

武良講師特選句

書きこんで一書膨らむ木の芽風  悦子  野木主宰推奨句

 

  ※

 

最高得点句  

雲雀東風限界集落縫ふやうに   玲子  野木主宰特選句・武良講師推奨句

 

準高得点句   

書きこんで一書膨らむ木の芽風  悦子  武良講師特選句・野木主宰推奨句

草原の起伏ゆるやか雲雀東風   孝子  野木主宰・武良講師推奨句

結び目をほどけば春のはじまりぬ みどり 武良講師推奨句

鳥雲にあてもなく来て象をみる  みどり 大本会長・武良講師推奨句 

道場の結界なせり落ち椿     玲子  野木主宰・大本会長推奨句

 

準々高得点句  

結び目の収まらぬまま春ショール ひとみ 大本会長推奨句

「結婚はパパ」と言うてしやぼん玉 ひとみ

豊かさに疲れの見えて春銀座   悦子  武良講師推奨句

東風吹く壺の碑奈良を向く    典子  野木主宰推奨句

縦結び直す手ほどき入学期    市子  大本会長推奨句

春風のやうな和菓子でもてなされ 英子

涅槃西風指紋の薄き指の腹    孝子

   

   ※   ※

 

春祭鯔背に結ぶ帯きりり      武良講師推奨句

夕東風やゆつたりと行くコンテナ船

春兆す休日のコインランドリー

東風わたる大奥跡の大広場

蕗味噌の苦味またよし握り飯

 

典 子

東風吹く壺の碑奈良を向く    野木主宰推奨句・準々高得点句 

卒業子声変はりして背伸びして  武良講師推奨句

桜東風結の絆は今もなほ

宙返る異次元の舞春の空

手に負へぬ仕事は孫に揚げ雀

 

玲 子

雲雀東風限界集落縫ふやうに   野木主宰特選句・武良講師推奨句・最高得点句

道場の結界なせり落ち椿     野木主宰・大本会長推奨句

結論はさてと囲みぬ花見酒

遠景にふと有る帆影日永かな

風渡るゴム風船を売るワゴン

 

悦 子

書きこんで一書膨らむ木の芽風  武良講師特選句・野木主宰推奨句・準高得点句 

豊かさに疲れの見えて春銀座   武良講師推奨句・準々高得点句   

後戻りしたき人生麦を踏む    大本会長推奨句

強東風や小舟の二つせめぎ合ひ

囀や晴れていきそな三合目

 

みどり

結び目をほどけば春のはじまりぬ 武良講師推奨句・準高得点句 

鳥雲にあてもなく来て象をみる  大本会長・武良講師推奨句・準高得点句

夕東風や渚にかすか貝の声    武良講師推奨句

水晶の悠久の色犀星忌      武良講師推奨句

東風吹かば手持無沙汰の木のベンチ

 

ひとみ 

結び目の収まらぬまま春ショール  大本会長推奨句・準々高得点句

「結婚はパパ」と言うてしやぼん玉 準々高得点句

漢方薬溶かすぬるま湯春愁

桜東風空港行きのバス定時

夕東風やあの角まての届け物

 

孝 子 

草原の起伏ゆるやか雲雀東風   野木主宰・武良講師推奨句・準高得点句

涅槃西風指紋の薄き指の腹    準々高得点句

ネクタイの結び目固く入社式   大本会長推奨句

一瞬にして妻の座を卒業す

たんぽぽの丈の短かやぽぽとぽぽ

 

◎ 通信参加 ◎

 

市 子

縦結び直す手ほどき入学期    大本会長推奨句・準々高得点句

迷ひ人捜す放送東風乱す 

万葉歌碑指でなぞれば桜東風

柳東風金銀鯉の群れ跳ねる

結び解き北窓開ければ農夫の眼

 

かづひろ 

東風吹きて旅籠いとまなき伊賀路 武良講師推奨句

水口を今に祀りて桜東風     武良講師推奨句 

新樹盛り上げて天皇陵の結

帝陵の濠の堤を東風わたる

崇神陵一巡したる梅香結

  

英 子

病院を出てちすくむ桜東風    野木主宰推奨句

春風のやうな和菓子でもてなされ

初蝶を見しと手帳に書き込んで

日本中総立つ三月十一日

梅の花主忘るな天満宮

 

き よ

鐘七打慰霊の声明桜東風     武良講師推奨句

うららかや昨日の傘干す核家族  武良講師推奨句

強東風に鳶流さるる由比が浜

結束のマーチングバンド卒業す

廃校の自転車置場桜東風

 

○ ゲスト参加 

竜 彦

竜天に昇る大河を置き去りに   準々高得点句

水滔滔東風の大河の岸戦ぐ    大本会長推奨句

啓蟄や焦土匂ひの摩天楼

生れたての三月小枝に声を揚ぐ

根暗性結果恐怖症春一番

 

 

 

あすか塾 83

 

 野木桃花主宰 3月号「青き踏む」から

  散髪をすませし夫と青き踏む

 ご夫妻の仲睦まじさを感じる句ですね。さっぱりとした清涼感がありますね。

 

  青白き星の配列寒四郎

 たぶんオリオン座の星の連なりがくっきりと夜空に浮かんで見えたのでしょう。下五の「寒四郎」は晩冬の季語「寒の内」の子季語、「寒中」「寒」「寒四郎」「寒九」の一つですね。「寒の入(小寒の日)」から立春の前日までをいう季語ですから、冬の星座ですね。

 

  紺青の曜変天目光悦忌

 「曜変天目」は焼き上げる過程で黒釉が変化して斑紋が生じ、星のような大小の斑紋が散らばり、周囲は暈状の青色や青紫色で、玉虫色に光彩が輝き移動します。「器の中に宇宙が見える」とも評されます。「光悦忌」は陰暦二月三日の本阿弥光悦の忌日。光悦は書・陶芸・漆芸・能楽・茶の湯などに精通した「数寄者」で後世の日本文化に影響を与えた人。その取り合わせの句で、日本の民芸における質の高さがうかがえますね。

 

○ 「あすか」3月号「あすかの会」会員作品から

 

雪漕いで家から家へ郵便夫    高橋みどり

 「雪を漕ぐ」という表現にその土地ならではの特色があります。雪国の実情を知らなくても、そのたちはだかるような大量の積雪の中の仕事の大変さが伝わりますね。

 

夜長の灯座せば文机わが砦     宮坂市子

 「座せば」という臨場感の表現と「わが砦」のきっぱりとした言い切りが、作者の心理状態を想像させる表現ですね。

 

つなぐ手で北風切つてゆく二人  村田ひとみ

 兄弟姉妹、あるいは仲の良い友達関係が想像されます。今はもう言わなくなりましたが、子供は風の子という言葉を、久しぶりに思い出した表現でした。

 

凍滝に山の日差の独り言     山尾かづひろ

 「日差」は「凍滝」を見て、なんと呟いているのか、いろいろ想像させる表現ですね。滝が寝ているように見えて、「起きろよ、いつまでも寝てるんじゃないよ」と、想像しました。童話的な温かさを感じますね。

 

屋号にて呼び合ふ村や雪囲     大木典子

 「雪囲」は三冬の季語で、雪深い地方で強い季節風や雪の害を防ぐために、丸太を組んで筵、藁などで家や庭木を守るためにする外囲い。この句はそんな辺境の村のようで、苗字が同じという村などで個別の家を区別するために「屋号」で呼んだようですね。

 

明日あるを信じすつくと枯木立   大本 尚

 「枯木立」といえば、枯れてしまった木立のようなマイナスのイメージが付きまといますが、どっこい、冬を乗り超える姿なのですね。それを「明日あると信じすつくと」と力強く表現した句ですね。

 

天からの便り両手に散り紅葉    金井玲子

 童謡的な明い響きの表現ですね。小さい子どもたちが、紅葉のような両手を広げて、散る紅葉を掬おうとしているような景が浮かびますね。

 

枯葉積む郵便ポストの独り言    金子きよ

 朱色の衣をまとって街角に佇むポストは、それだけでも何か詩情がありますね。その上に枯葉が降り積っているとなると、なおさらです。何かつぶやいているように感じるのは詩人の心ですね。

 

枯れてなほ天さす小枝臥龍梅    近藤悦子

 「臥龍梅」は龍が這っている姿に似ていることから名づけられた梅の大樹ですね。全国的に有名なのが、

国指定天然記念物で鹿児島県の藤川天神の臥龍梅。山口県柳井市余田の余田臥龍梅。宮城県仙台市若林区古城の朝鮮梅ですね。この句ではそれが年月を経て枯れてしまったようです。その小枝が天を指しているさまにある感慨を覚えたという句ですね。

 

冬草を人踏み人の影過ぎぬ     紺野英子

 「人踏み」「人の影過ぎぬ」と、人の動きの描写で「冬草」のたたずまいを表現して、心に残りますね。

 

散りもせず澄んでゆくなり冬のバラ鴫原さき子

 いつまでもその色彩を保って咲き続けている冬薔薇に、何か決意のような、心澄む詩情を感じとっている表現で、心に残りますね。

 

生国の雑煮談義や県人会      水村礼子

 雑煮は地方、個別の家によって製法や味が違うようですね。この句は同じ県人の集まりで、その共通点と違いの話で盛り上がっているさまが見えますね。

 

土器のかけらがひとつ枯野かな   笹原孝子

 この「土器」の読みは「ドキ」ではなく「かわらけ」で、平安時代末から 江戸時代にかけて製作・使用された素焼きの土器のこと。その中でも特に碗・皿形の小型器種を指す言葉ですね。「共に土器(かわらけ)傾けて」は一緒に酒を酌み交わすという意味です。そんな栄華の時は過ぎ、その場所が枯野となっていて、そこから「土器」が出土したという哀感の漂う表現の句ですね。カ音の頭韻が効いています。

 

     あすかの会 2月 (兼題 一 冴返る )

                    会長・大本 尚

                     ゲスト参加 武良竜彦講師

 

野木桃花主宰

胸内に残る一言冴返る      大本会長推奨句  

教会の鐘の音高し春一番     武良講師推奨句

荒磯の音砕け散る春一番

沓脱に猫が身を寄す春一番

老いもゐる一家総出の種下ろし       

 

 ※

野木主宰特選句 

旅先の空の硬さよ冴え返る    孝 子 

 

武良講師特選句

冴返る帯なかせては結ひ直す   市 子

  ※

 

最高得点句  

冴返る帯なかせては結ひ直す   市 子

 

準高得点句  

旅先の空の硬さよ冴え返る    孝 子          

一等賞白詰草の花冠       ひとみ

 

準々高得点句  

思い出も居場所の一つ老いの春  さき子

春風を詰めこんでいるランドセル さき子

湯の街に捨て湯の煙冴返る     尚

そのことは誰もふれずに冬桜   悦 子

雪掻くや一人歩けるだけの巾   市 子

 

   

 

湯の街に捨て湯の煙冴返る    準々高得点句 野木主宰推奨句

吸って止めて春寒のレントゲン

寒戻る背を丸めて行く漢

また一つ家のなくなり冴返る

巫女の降る神鈴の音冴返る

 

典 子

悪友の訃報春眠奪い取る     野木主宰推奨句

食細き友へ差し入れ蕗の味噌

春一番心の憂さを持って行け

減らず口叩きし友や初音きく

さよならを言わずに又ね冴返る

 

さき子

思い出も居場所の一つ老いの春   準々高得点句 大本会長推奨句

春風を詰めこんでいるランドセル  準々高得点句 武良講師推奨句

薔薇の刺白樺の刺冴返る      武良講師推奨句

春泥を車輪につけて君の来る   

水溜り御玉杓子の日暮かな

 

玲 子

羽ばたきて引鴨の意志水脈を引く 武良講師推奨句

春月や言の葉ひとつ届きをり

立春の木漏れ日空の深きより

庭先へフルートの音や梅二月

我が影の鯉に重なる春の水

 

悦 子

そのことは誰もふれずに冬桜   準々高得点句

冴返る柱に一筋刀疵       野木主宰推奨句

牧師なき畳の教会冴返る

菜の花の黄色まみれや安房の旅

春時雨老いてもありし泣きぼくろ

 

みどり

春の波寄せては返す三拍子    武良講師推奨句

鎌倉の沖にほどける春の潮    武良講師推奨句

鎌倉の人波遠く梅匂ふ

腰越の軒に吊られし若布かな

 

ひとみ 

一等賞白詰草の花冠        準高得点句 野木主宰推奨句

十二神将午の神の目冴返る     大本会長・武良講師推奨句

鴎外の子らへの文やあたたかし   大本会長・武良講師推奨句

果て覗く曜変天目冴返る      大本会長推奨句

白坂の音のなきペン春浅し

 

孝 子 

旅先の空の硬さよ冴え返る     野木特選・準高得点句

大いなる光の束や大河春      野木主宰推奨句

菜の花や幼の背にぬいぐるみ

梅が香も馳走となるや祝膳

民宿の雪解雫やにぎやかし

 

◎ 通信参加 ◎

 

市 子

冴返る帯なかせては結ひ直す    武良特選 最高得点句 野木主宰・大本会長推奨句

雪掻くや一人歩けるだけの巾    準々高得点句 野木主宰推奨句

冴返る睫毛濡るるは己が息

春一番鍬の柄水に浸しをり

湯冷めして口数少な冴返る

 

かづひろ 

散策の根津に千駄木春兆す    武良講師推奨句

一水に架けし石橋冴返る

一郭の古き家並に薺売る

夕刊のはみ出すポスト冴返る

 

英 子

雪間より光となりて雀発つ   

初音かなもう一こゑを待ちをれば 大本会長推奨句

庭へだて雛の見へる離れ庵

庭石の温みにいこふ春の蝶

冴返る私の生まれし福島よ

 

き よ

パンジーが主役みちばた花壇かな 武良講師推奨句

冴返る頬にふれたるイヤリング

一群の鳥絣模様に春の朝

一段の歴史踏みしめ古都の春

淡雪や先ず庭隅の草に積む

 

○ ゲスト参加 

 

竜 彦

神々の御座す野山や冴返る

 立春や重ねし大愚この小愚

春霞水うごき出す分水嶺

老いの春旅の畢りの青の見ゆ

中道の右は芝焼く急斜面

      

      
        あすか塾 82     2026年2月号

                          

《野木メソッド》による鑑賞・批評   

「ドッキリ(感性)」=感動の中心

「ハッキリ(知性)」=独自の視点

「スッキリ(悟性)」=普遍的な感慨へ

    

◎ 野木桃花主宰 2月号「春のことぶれ」から 

 

  長老の道中双六旅の途次

 「道中双六」は江戸時代の日本の伝統的なすごろくゲームで、「振り出し」の江戸日本橋を出発し、東海道の宿場を巡って京都の三条大橋を目指すゲームですね。実際の旅の様子がルールとして採用されており、各地の名所や名物も描かれています。この句の「道中すごろく」は「長老」の人生の「途次」の比喩として表現されていると解しました。愉快ですね。

 

  古刹へと道先案内寒椿

 二通りの読みが可能な表現ですね。作者がだれかを古刹に案内している景と、道なりに咲いている寒椿が並木状になっていて、まるで椿に道案内されているようだ、という比喩的な表現ですね。後者に解しました。

  日差しにも春のことぶれ東海道

「ことぶれ」という古語的な表現に味わいがありますね。元々この言葉は物事を世間に広く告げ知らせることを指します。特に「鹿島の事触れ」という言葉が有名で、鹿島明神の神託を告げに諸国を回った神官の行動を指し、その年の吉凶を触れ歩くことを意味しました。この句は明るさを増してゆく日差に「吉」兆を感じ取っているという表現ですね。

 

○ 「あすか」2月号「あすかの会」会員作品から

 

遠景は富士近景は冬の海     高橋みどり

 神奈川県在住の俳人でなければ詠めない、特権を生かした表現ですね。それを遠近の景の対比として描いて、味わいがありますね。

 

未来ある少年の目やお盆玉     宮坂市子

「お盆玉」の風習が生まれたのは江戸時代で、商家に奉公していた子どもがお盆に実家に帰省するとき、「お盆小遣い」として衣服や履物などの物品を渡されたのが起源ですね。これが「現金」になったのは昭和初期とされています。最近では、お年玉のようにしてお盆玉用のポチ袋に入れて子どもに渡されるようになりました。この句は目を輝かせてそれをもらう少年に未来を感じているのですね。

 

ジャズライヴ出でて落葉を踏むリズム    村田ひとみ

 ジャズの街といえば横浜を想起しますが、限定する必要はないですね。景の表現に「落葉を踏む」としたことで、ジャズの余韻を季節感の中に開放した趣が出て、味わい深くなりましたね。

 

言問の団子箸を運ばれ都鳥   山尾かづひろ

 言問団子(ことといだんご)は、隅田川に架かる桜橋の、向島側の橋詰にある和菓子店の店名、およびそこで販売される団子の商品名ですね。植木師の外山佐吉が江戸時代末期に創業。「言問」の名は在原野業平の和歌「名にし負はばいざ言問はん都鳥我が思ふ人はありやなしやと」(『古今和歌集』)にちなむもので、この歌の舞台が隅田川沿いと目されていることによります。この店が有名になったことで一帯の別称ともなり、現在は桜橋の下流に下流に架か言問橋等にその名が見られます。この句はそんな歴史的なことを踏まえた表現で、味わいがありますね。

 

海の風欲しいままなり大根干す   大木典子

 典子さんがお住まいの三浦半島は大根の名産地でもあり、季節になると三浦海岸に大根干しの棚が盛大に並ぶ景が出現します。壮大な景です。この句はそれを「海の風欲しいままなり」とダイナミックに表現されました。上五を「海風を」としないで、丁寧な言い方で「海の風」としたのがいいですね。

 

冬の日を飲み込む凪の日本海    大本 尚

 冬の日本海が凪ぐ瞬間があるのでしょうか。荒波のイメージが強いので想像できませんが、鏡面のようになった海面への落暉の景は、さぞ美しいでしょうね。

 

濃く淡く島重なりぬ冬鴎      金井玲子

 陸側が眺望する海の、近景から遠景への濃淡のグラデーションで、島影を表現して立体感がありますね。その中を冬鴎が自在に飛び交っている景が浮かびます。

 

吾亦紅我が採血の色に似る     金子きよ

 「吾亦紅」の花の色を「採血の色」で表現した俳句は初めて読みました。確かに暗紅紫色で血の色に似ていますね。花弁のない可憐な花が集合したような形ですね。採血しているあの短いような長いようなひととき、この連想で和んだでしょうね。

 

庚申講らふそく消せぬ夜長かな   近藤悦子

 「庚申講」は庚申(かのえさる・十干の候、庚は陽の金、十二支の申も陽の金)の夜に神仏を祀り、皆で料理を持ち寄り徹夜をする行事ですね。この行事は、人間の頭、腹、足には三尸(さんし)の虫が棲んでおり、庚申の日には体内から抜け出して天に昇り、天帝にその人の悪事を報告するという教えに基づいています。だから寝ないで火を灯し続けて見張っているのですね。この行事は、経済上の互助や親睦を目的とするものもあります。この句ではその風習が現在進行形で、歴史を感じますねる

 

呼ぶこゑの人にはあらず笹子鳴く  紺野英子

 「笹子鳴く」はウグイスの幼鳥が冬に発する地鳴きのことですね。冬の間「チャッ、チャッ」というような鳴き声を出し、春になると雄だけが「ホーホケキョ」と鳴くようになります。この句では、それを最初は人が呼んでいるような気がしたが、よく聞くとウグイスの鳴き声だった、という感慨の表現ですね。

 

落葉して夢見る木々となりにけり  鴫原さき子

 落葉した冬木立は確かに眠りについたような風情ですね。それを「夢見る」と詩的に表現したのがいいですね。

 

細長き露地裏の秋けんけんぱ    水村礼子

 下町にはまだそんな景が残っているのでしょうか。昭和の風景のようで、郷愁を誘いますね。

 

着ぶくれて長蛇の列の人となる   笹原孝子

 長時間、冬の吹き曝しの中で立ち尽くすことになることを覚悟で、その列に加わっている様が浮かびます。冬ならではの景ですね。

 

 

 

 あすかの会 1月 (兼題 寒 庭)  会長・大本 尚

                           ゲスト参加 武良竜彦講師

 

野木桃花主宰

生家いま枯庭となり祖父母亡し  大本会長推奨句

青白き星の配列寒四郎      武良講師推奨句

 

色のなき中庭ほつと青木の実

大寒の青き扉や秘密機知

青さ増す梅の初花吹かれをり

 

 ※

 

野木主宰特選句 

湖をいちまいにするこの寒さ   さき子

 

武良講師特選句

○○○○○ ○○○○○○○ ○○○○○   ひとみ 

 ※ ご本人の希望により、俳句大会応募作とするため、非公開

 

  

 

最高得点句  

湖をいちまいにするこの寒さ   さき子

トルソーとなりし老い木返り花  さき子

○○○○○ ○○○○○○○ ○○○○○   ひとみ 

 ※ ご本人の希望により、俳句大会応募作とするため、非公開

黙礼の袴の少女寒稽古      悦 子 

 

準高得点句  

家風とふ寒の鯉濃祝膳      市 子

窓の灯や家それぞれの大晦日   玲 子

遺蹟めく電話ボックス寒雀    き よ

大寒や麹の声聞く父祖の甕    悦 子

庭中の光を集め冬木の芽     ひとみ

松明のいつもの場所に同じ人   礼 子 

雪催コラムの隅に恋一首     さき子

 

準々高得点句  

子が嬰を抱かせてもらう庭小春  かづひろ

身籠りし嫁に寒鯉捌く叔父    典 子

寒月や弱いままでは駄目ですか  孝 子

手袋の脱ぎ置かれたる無愛想   さき子

降り積る雪や無音の石の庭    市 子

不機嫌なパソコン宥め悴めり    尚

意外にもかはゆき声や雪女    ひとみ

寒椿耐へよと白さ際立てり    ひとみ

人恋ふや又ひととせのはじめから 竜 彦

 

 

   

 

不機嫌なパソコン宥め悴めり   準々高得点句

山眠るアーバンベアも共にねよ  武良講師推奨句

庭の木の天辺をとる寒の鵙

あふれゆく人波にゐてただ寒し

有明の月白白と寒の空

 

典 子

身籠りし嫁に寒鯉捌く叔父    準々高得点句 大本会長・武良講師推奨句

神社墓所おのおの参るお元日

三河万歳天守の見ゆる前庭に

過る影バサリと黒く寒鴉

校庭の集合写真冬青空

 

玲 子

窓の灯や家それぞれの大晦日   準高得点句 野木主宰・大本会長推奨句

名木を見上げ眩しき注連飾

初明り庭の葉先の一雫

雪催ひ川に流るる湯宿の灯

愛犬の眠る木のもと寒雀

 

悦 子

黙礼の袴の少女寒稽古      最高得点句 大本会長・武良講師推奨句  

大寒や麹の声聞く父祖の甕    準高得点句 武良講師推奨句

余白残す古日記あり棚の奥

神馬の目映りしものみな淑気満つ

淑気満つ玉砂利ゆるり進みをり

 

さき子

湖をいちまいにするこの寒さ   最高得点句 野木主宰特選句 

トルソーとなりし老い木返り花  最高得点句 大本会長・武良講師推奨句 

雪催コラムの隅に恋一首     準高得点句 武良講師推奨句 

手袋の脱ぎ置かれたる無愛想   準々高得点句

山茶花の散り敷くのみの庭となる

 

ひとみ 

庭中の光を集め冬木の芽     準高得点句 野木主宰・武良講師推奨句

○○○○○ ○○○○○○○ ○○○○○  最高得点句 武良講師特選句  

  ※ ご本人の希望により、俳句大会応募作とするため、非公開

外にもかはゆき声や雪女    準々高得点句 野木主宰推奨句

寒椿耐へよと白さ際立てり    準々高得点句

ひるがへす草書の筆や筆始

 

礼 子

松明のいつもの場所に同じ人   準高得点句 

どれほどを走り朽野声を吐く

いつまでも棘立つことば除夜の鐘

多分震えている庭の花に霜

寒の雨母の味付け恋しき日

 

孝 子 

寒月や弱いままでは駄目ですか  準々高得点句 大本会長推奨句 

庭石の間によもや冬すみれ

冬銀河己れの迷子となる人と

ご褒美はお子様ランチ初稽古

人が好き人が嫌ひの雪女

 

◎ 通信参加 ◎

 

市 子

家風とふ寒の鯉濃祝膳      準高得点句 大本会長・武良講師推奨句

降り積る雪や無音の石の庭    準々高得点句 野木主宰推奨句 

夜を通し瑠璃戸打つ音寒波くる

「寒いね」と応へて震えくる日暮れ

庭の華雪吊りの縄あそびをり

 

 

かづひろ 

子が嬰を抱かせてもらう庭小春  準々高得点句 

急坂の都電の記憶寒四郎    

透析の終りゆすらる寒鴉

幽霊坂風吹き上げて寒九郎

 

英 子

一年の帳を開く初御空      野木主宰推奨句

本箱に眠る文豪御慶述ぶ     武良講師推奨句

苔庭の石灯籠に雪の花

寒いちごに干菓子も添へて誕生日

茶を点てて花びら餅に祖を憶ふ

 

き よ

遺蹟めく電話ボックス寒雀    準高得点句 野木主宰・武良講師推奨句

避寒宿西伊豆雲見の半五郎

銘石の清澄公園実万両

書初の手本は母の字よりどころ

源流の森の笹鳴き婚決まる

 

○ ゲスト参加 

 

竜 彦

人恋ふや又ひととせのはじめから 準々高得点句

新年や教への庭に大樹古り    大本会長推奨句 

あらたまの歳の力は陽と寒に

初空の富士山頂を薔薇色に

あらたまの年や潮干の山忍ぶ