昔住んでた所で、よく見かけたクロベエ



近くで飼われていていつも自由に外出していた



ハチワレ猫で、たぶん男の子



人を見ても近づいて来ることはなく



その周辺を仕切っていたのか、時々他の猫とケンカしている声が聞こえていたんだよね



隠れて様子を見ていると、いつも勝負には勝っていたから



あの猫はボスに違いない!


私は確信していた


気迫も凄くてカッコ良かったの



クロベエというのは私が勝手につけた名前で


本当の名前は知らない



どう見ても男の子だと思うけど


ある時突然ピンク色の首輪を付けてたりしたのは可笑しかった



そんな無敵な感じのクロベエ


窮地に立たされていた事があった




私は外出しようと、クロベエの家の近くを自転車で走っていたのだけど


車2台が動けずにいる... 


何?何? どうしたの? 

よくよく見ると


T字路の辺りほぼ真ん中に、固まっている猫がいる!


左に曲がろうとする車と、私と同じ方向から来ていた車の間



私の進行方向、斜め前で丸くなってたクロベエ



私は自転車を停めて



「はい、行きなっ」



声をかけて



自分の前を横切って渡るように促してみたの



すると彼は一瞬、間を置いて



「ンニャッ」 スタタタタタタ... 



って、無事に私の前を通過して行った



良かった良かった




私は胸を撫で下ろしたんだけど... ? ん?


あれ? 今、お礼言った?




さすがはボス


礼儀正しいわ!と一人感激




咄嗟の判断だったけど


言葉が通じてうれしかったんだ




それから私は、ますます彼のファンになってね



見かけると人目もはばからず手を振って



「クロベー!」 ってアピールして



クロベエは相変わらずクールな対応だったけど



目が合うだけで、その日一日良いことがありそうな予感がしてた



学生時代の恋愛みたいに





ある夏の日の夕方



仕事から帰って来た私



暮らしていた集合住宅の階段下の植え込みに



クロベエが!!



遠目で見えて、近づいても逃げないじゃない



完全に目が合ってるのに



謎のファンの居場所を突きとめた!とでも思ったかしら?



あれー? クロベエ珍しいね、こんな所にいるなんて...  


どうしたの?



声に出して言ってみる



彼は特に逃げるでもなく、すり寄って来る訳でもなく



ただ草の中でくつろいでいた、目を細めて



「アハハハ」



私も夕日に当たりそんなクロベエを眺めてた、目を細めて



どうして、ここに居るんだろうって不思議に思いながら


じゃあ、私、そろそろ中に入るよ



夕飯の支度があったから、早々に家に入った私



帰宅後



そうだ、写真撮ろう!って思い立ち



デジカメを持って再び外に出てみたけれど



もう、いなかった



そこにクロベエがいて、ゴロゴロまったりしてたのが幻だったかのよう




遅かったね... 







それからというもの



しばらくしたらパッタリ見なくなったクロベエ



私も外出時には注意深く周辺を見たり



彼のお家の辺りに行くと、出入りしてないかなぁ... って



探してみたんだけど



なぜだか気配すら感じられなくて



もしかしたら、虹の橋を渡ったかもしれない



そう思った



病気か、事故か、寿命かは分からないけど



何と言っても犬や猫は早いから... 



あの時家に来たのは



いつかのお礼? それともお別れ? だった?



それなら、もっとゆっくり遊べば良かった



あんなに接近する事なんてなかったし



最初で最後だったんだなぁ



家にはペットがいなかったから、いつも相当癒されてたんだよ




そんなちょっぴり切ない



クロベエの思い出








                 終わり


※ 写真はクロベエとはちがうハチワレさん


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