奈良県の市街地は大阪・京都と近接した県の北西部に集中し、県の大半は今も古代の自然の神々が宿り息づくような豊かな自然が広がります。近年に生まれた品種のソメイヨシノも、この地ではなぜか神秘的な美しさをまとっているよう。奈良の桜は例年4月上旬に見頃を迎えます。
今回は奈良の桜の名所から穴場まで、例年の見頃時期と桜まつりの情報とともに選りすぐりの10スポットを紹介します。花見や旅行のプランに活用してください。
1.桜の下でくつろぐ鹿に遭遇【奈良公園】
奈良公園といえばシカ。桜の下で遊ぶ姿に癒されます
東大寺の盧舎那(るしゃな)大仏像や春日大社、興福寺などの歴史的文化遺産が隣接し、若草山のふもとに広がる「奈良公園」。約1,300頭もの野生のニホンジカが有名で、国内でも有数の観光地の一つです。総面積511ヘクタールもの広大な敷地の多くは山林が占めますが、平坦部だけでも約1,700本の桜が植えられ、「桜の名所100選」にも選出されています。
小ぶりで上品なナラノココノエザクラ
特徴的なのは約800本の八重桜!早咲きのヒガンザクラ、ヤマザクラも多く、奈良市の市章となっているナラノヤエザクラや、ナラノココノエザクラ(奈良九重桜)など、奈良県固有の品種を見ることができます。ナラノココノエザクラは若草山麓(茶山園地)に密集していて、一帯は満開直後には花びらのじゅうたんとなり、知る人ぞ知る名所です。また園の一角にある、「奈良春日野国際フォーラム甍~I・RA・KA~」の浅葱色の珍しい桜、ギョイコウザクラ(御衣黄桜)も必見です。
現在のような公園の形になったのは1881年以降のこと
鷺池(さぎいけ)にある「浮見堂」周辺も見どころの一つ。桜が池をピンク色に染める様は大変風情があり、デートスポットにもなっています。例年ライトアップされて、夜はさらに幻想的な雰囲気に包まれます。
【例年の見頃】3月下旬~4月下旬
2.名奉行ゆかりの桜並木【佐保川河川敷】
万葉集に詠われる佐保川
大和川水系の支流の一つ佐保川は、奈良市を流れ、大和郡山市付近で秋篠川と合流して大和川に流れ込みます。
万葉集にも佐保川を詠った歌が多く織り込まれています。太古の昔から愛された佐保川の両岸には、延べ5キロメートルに及ぶ桜並木が、途切れることなく続いている、奈良県でも有数の桜の名所です。
満開時は花が川面をピンクに染め上げます
この桜並木は、一説では幕末の奈良奉行・川路聖謨(かわじとしあきら)が奈良の町中の景観整備を行った際に植えられたものが始まりと言われています。ソメイヨシノは桜の中では寿命が短いため、何度も代替わりはしていますが、中には170年間残っているとされる老木も数本あり、「川路桜」として地元の人々が大切に保全しています。特に目印はありませんが一目でそれとわかるそう。訪れた際は探してみるのも楽しそうです。
地元の人が大切に育ててきた桜並木は、一見の価値あり
近鉄奈良駅から近い川路桜周辺を巡る人が最も多く、「桜祭り」では、桜のライトアップや灯篭流しなどが行われ、一段と賑わいを見せます。
3.天守台から「御殿桜」を望む【郡山城跡公園】
天守台展望施設から城跡を囲むように咲く桜を一望できます
大和郡山市は奈良市の南西部に隣接する城下町。大和郡山城は平安末期(12世紀後半頃)の陣屋をもとに、中世、明智光秀や藤堂高虎(とうどうたかとら)がたずさわり築城されたと伝わります。「続日本100名城」「日本さくら名所100選」に選定されており、現在は「大和郡山城跡公園」として整備されています。
石垣と桜の見事なコラボレーション
豊臣秀吉の実弟・豊臣秀長が郡山城主となった際、郡山城を大きく拡張し、石垣に墓石や石仏を「転用石」として用いました。この荒々しい野面(のづら)積み石垣は現在もそのまま残り、石仏の顔が逆さに露出した石垣は「さかさ地蔵」として観光名所になっています。
郡山城跡の城内には水濠を囲むようにして桜の樹が約800本植えられており、「御殿桜(ごてんざくら)」と呼ばれ、濠の水面に落ちた花びらの「花いかだ」も有名。桜の開花にあわせて「大和郡山お城まつり」が開かれ、鎧兜を身につけて市内を練り歩く時代行列も見られます。
夜はボンボリの灯りに照らされた幻想的な桜が楽しめます
【例年の見頃】3月下旬~4月上旬
4.数々の桜名所ランキングに入選する桜の名所【高田千本桜】
両岸南北2.5キロメートルにわたって続く見事な桜のトンネル
専立寺(せんりゅうじ)の門前町として発展した大和高田市の町中を流れる高田川畔の桜は、市民ボランティアの手によって1948年に植樹されたのがはじまりです。「高田千本桜」として今や奈良県を代表する桜の名所となりました。およそ2.5キロメートルに渡り、約1,200本ものソメイヨシノ、ヤマザクラを中心に、彼岸桜、糸桜、八重桜などが咲き誇ります。
電車と桜のコラボレーションも人気
アクセスも比較的よく、川沿いの大中公園を中心に高田川のゆるやかな川堤を両側から彩る桜の様子は美しく、多くの人で賑わう人気の高い桜スポットです。樹齢70年の年輪を重ねた桜は枝ぶりも見事。夕闇とともに灯されるぼんぼりも名物の一つ。幻想的な灯りに照らされた夜桜を一目見ようと訪れる人が絶えません。
桜の数と桜並木の長さが圧倒的!枝ぶりも見事
【例年の見頃】3月下旬~4月上旬
5.まるで絵葉書のような光景!巨大古墳を彩る桜【石舞台古墳】
6世紀の築造。巨石30個を積み上げて造られた石室古墳
石舞台古墳は、高市郡明日香村にある、古墳時代後期から末期頃(7世紀頃)の方墳遺跡です。盛り土が崩れ落ちて巨大な横穴式石室がむき出しになった上面がまるで舞台のようなことから、石舞台と呼ばれます。石室の長さは19.1メートル、玄室(棺を納める部屋)は高さ約4.7メートル、幅約3.5メートル、奥行き約7.6メートル、石の総重量は推定2,300トンという巨大さ。
菜の花と桜のコラボレーションも見どころの一つ
この石舞台古墳も現在は公園として整備されています。石舞台を取り囲むように約60本のソメイヨシノが咲きそろう頃、ライトアップ(例年3月下旬~4月下旬)され、古代史の舞台・明日香村の夜に幻想的に浮かび上がります。
菜の花と桜のコラボレーションも見どころの一つ
この石舞台古墳も現在は公園として整備されています。石舞台を取り囲むように約60本のソメイヨシノが咲きそろう頃、ライトアップ(例年3月下旬~4月下旬)され、古代史の舞台・明日香村の夜に幻想的に浮かび上がります。
6.心癒される花の御寺【豊山神楽院長谷寺】
本堂の舞台から眺める、境内の桜はまさに絶景!
奈良と伊勢をつなぐ初瀬街道(はせかいどう)に程近い初瀬山の中腹に鎮座する「豊山神楽院長谷寺(ぶさんかぐらいんはせでら)」。こんもりと豊かな山林に包まれた長谷寺、そして初瀬山は古くは穢れをはらう「禊払いの地」としても知られています。686年発祥といわれ、『枕草子』『源氏物語』『今昔物語』にも登場する名刹です。
399段の登廊から見上げる桜の美しさは格別
荘厳厳粛でありながらどこか愛らしく、心癒される御寺は、石楠花や牡丹、蓮など、数多くの花が四季を通じて咲き零れるさまから、「花の御寺」の異称もあります。どの季節にも美しい長谷寺ですが、桜の季節もまた格別。境内には約1,000本のソメイヨシノ、ヤマザクラ、ヤエザクラなどが咲き乱れ、ことにシダレザクラの名木が見事です。
花の御寺として愛される奈良の名所
【例年の見頃】3月下旬~4月中旬
7.樹齢300年を超える2本の古木【大野寺のコイトシダレザクラ】
全国でも珍しい樹齢約300年のコイトシダレザクラは必見
宇陀市を流れる宇陀川沿い、女人禁制の高野山=真言宗にあって、女性の入山を許した寺院として名高い室生寺(むろうじ)の末寺・大野寺。山門をくぐってすぐのところに、全国的にも大変珍しい樹齢約300年のコイトシダレザクラの古木が2本そびえています。また華麗なベニシダレザクラが10本、境内を彩ります。
【例年の見頃】4月上旬
8.戦国武将ゆかりの一本桜【本郷の又兵衛桜】
国内でも有数の威風堂々な一本桜、又兵衛桜
宇陀市大宇陀区本郷の一本桜の巨木、「又兵衛桜」。石垣の中央に、周囲の木々や花々を従えた王様のように堂々と枝を広げた姿はまさに絵のようで、全国の一本桜の中でも特に有名なものの一つでしょう。
樹種はエドヒガンザクラで、樹齢は約300年、樹高13メートル、幹周り3メートルという堂々たるもの。大阪夏の陣で活躍した戦国武将・後藤又兵衛の屋敷跡にあると伝わることから、又兵衛桜と呼ばれています。
国内でも有数の威風堂々な一本桜、又兵衛桜
宇陀市大宇陀区本郷の一本桜の巨木、「又兵衛桜」。石垣の中央に、周囲の木々や花々を従えた王様のように堂々と枝を広げた姿はまさに絵のようで、全国の一本桜の中でも特に有名なものの一つでしょう。
樹種はエドヒガンザクラで、樹齢は約300年、樹高13メートル、幹周り3メートルという堂々たるもの。大阪夏の陣で活躍した戦国武将・後藤又兵衛の屋敷跡にあると伝わることから、又兵衛桜と呼ばれています。
見事な枝ぶり。桃の花とのコラボレーションも見どころ
この場所は、又兵衛がひっそりと暮らした場所だとする言い伝えもあります。又兵衛の生きていた時代から考えると300年では足りないので、後世に生え出たものにはなりますが、華麗でありながら勇壮なたたずまいは、伝説の戦国武将を連想させてくれます。
一本で多くの人を魅了する又兵衛桜
【例年の見頃】4月上旬~4月中旬
9.世界遺産の山を染める「一目千本」の山桜【吉野山・下千本】
200種3万本の奇跡の絶景
吉野山の桜は「一目千本」といわれ、人が眺めた光景の全面に千本の桜が咲いている、とたとえられます。余りに規模が大きすぎるため、吉野山の桜を一箇所でくくることはできず、ふもと、中腹、頂上付近、さらに山上ヶ岳(さんじょうがたけ)にいたる奥地、の4箇所に分けて下千本・中千本・上千本・奥千本と呼ばれています。
桜は、標高の低い下千本から順に開花します
吉野山では、4月上旬から末にかけて、最も標高の低い下千本から開花していきます。下千本では、七曲り坂や下千本展望所から一目千本の光景が望め、人気の高い花見スポットとなっています。また夜はライトアップされた幻想的な光景を眺めることができます。下千本は、吉野山の中でも昔から最も桜が多い場所として知られています。
吉野山ロープウェイ吉野山駅から歩いて行ける下千本
【例年の見頃】4月上旬
10.奇跡の絶景!日本屈指の桜の名所【吉野山・中千本】
さまざまな色合いの桜に染められた吉野山。一度は見たい絶景
日本国中、素晴らしい桜の名所は数多ありますが、その中からたった一つをあえて選ぶとするなら、吉野山の山桜をおいてないでしょう。吉野山全体にはシロヤマザクラを中心に約200種、3万本もの桜が密集し、桜の季節にはふもとの谷から尾根へと開花が波のごとく広がり、その様子は魔法を見るような圧倒的な美しさです。
ユネスコ世界遺文化遺産に登録された修剣道の総本山「金峯山寺」を眼下に見下ろす
なぜ、吉野山にはこれほど桜が多いのでしょうか。
修験道の開祖・役小角(えんのおづぬ)は、金峰山(かねのみたけ)へと分け入り、千日の厳しい苦行の末に金剛蔵王権現(こんごうざおうごんげん)の姿と教義を感得し、これを桜の樹に刻み付けたとされ、のちのその桜が御神木となりました。
この伝説から、修験者や山岳信仰の信者たちがこぞって吉野の山に桜を植え続けたために、桜が増え広がったといいます。日本人の自然信仰の心が生んだ奇跡の絶景、と言っても過言ではないでしょう。中千本では、尾根筋一帯が流れる滝のようになる景観が随一といわれます。
吉野山を桜が埋め尽くす絶景が望めます
【例年の見頃】4月中旬