暗くてただ寒い空間でひたすら楽しそうに笑う声が響きわたる
姿をとらえようと神経を研ぎ澄ます


『わっ!!』


いきなり飛び出て来たような楽しそうなjoker
青い目を細めて伸ばした両手が頬に触れる

冷たい?


「冷た!・・・あれ?」


起き上がると笑いをこらえているのか背中を向けて震えているクラン
それとあきらた感を通り越したようなこの子は誰だろう

あれ、手に氷がたくさん入ったグラス


「俺じゃないよ~この子がねやったんだよ」


振り返ると嬉しそうに笑いながらその子を指さす、クラン
絶対それは無いって気がすると思ったらその子も落ち着いたまま首を振り出した


「いやいや、さっきしろって言ったじゃないですか、クランさん」
「あぁ・・・そう・・・なんとなくわかった」


少しだけどよく寝た気がする、氷のせいで変な夢見たけど


「ほら、食えば」


クランが不機嫌そうに出してくれたのはご丁寧にもサンドイッチ
パン焼くだけでも良かったのに。


「いただきます」
「金はとるから」
「ハイハイ・・・」
「あと今度奢ってね」
「ハイハ・・・って関係ないじゃん」


ノリで返事しかけた、別にいいんだけど


「後ね、ラーユさんにお願いあるんだけどさー」
「今度は何?」
「この子お城に連れてってあげてよ、騎士団のスペード所属のタイゾって言うんだけど知ってる?」


あ、さっきから目の前にいるこの子か、赤いメッシュとか
まさかの騎士団とは想像もつかなかった


「知らないけど、飛ばされたの?この時期に?」
「え?何かあるんですか??」


心配そうに首をかしげるタイゾにクランも不思議そうな顔をする


「スペードか・・・ぶっちゃけ階級の低い下士官とあんま変わんないよ、噂で聞いただけだけど、ダイヤとクローバーなら別格だけどね」
「やっぱり階級あんの?」
「一応ねスペードは元々王様の嫌いな記号でね、確か城内では一番端っこ、何かあった時一番に特攻で出撃させられる所だよ」


実際、今までは何もなかったけど。
どうしよう、タイゾがすごい遠い目をしている
あんま余計な事言わないほうが良かったかな


「あぁ・・・じゃ絶対スペードだ、俺結構マイペースすぎて成績悪かったんで・・・」
「なんか大変なんだね、まぁ死なない程度に頑張りなよタイちゃん」


他人事みたいにタイゾの肩をポンと叩く、まぁ実際他人事なんだろうけど


「まぁどの道君は何があっても騎士団に入りそうだから案内するよ、気は進まないけど」
「何ですか・・・その曰くつきみたいな言い方・・・すごく怖いんですけど」
「いやー・・・僕も正直よくわかってないから・・・ごめんさっきの言葉は忘れて」


クランとタイゾが不思議そうな顔をしてるけど気付かないふりしてサンドイッチを食べることに集中した
なんかまだ頭に血がめぐってない気がする


「ラーユさんがいやーって言う時はだいたい何かあるんだろうけどね・・・・・・いらっしゃいませ」


新しいお客さんが入ってきた、ショーケースの奥へ戻るといつもの調子で会話をしてるクラン、あの接客力はほんと尊敬する
僕も行くか


「行こうか・・・えぇと タイゾ・・・君?」
「あ・・・タイゾでいいですよ、ラーユさん先輩でしょうし」


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「ラーユさんってあそこの店主・・・クランさんと友達なんですか?」


城内付近に入ってからふいに口をあけるタイゾ
そういえば喫茶を出てここに来るまで一言も喋ってなかった


「そんなもんかな・・・」
「ものすごい性格ですね・・・昔から?」


「僕は昔を知らないんだよね、ここの使用人のうさやって子が幼馴染だから、彼女の方が詳しいかもね・・・ただ・・・」


専属の下士官がいる門で敬礼を交わして門の中に入るタイゾも同じように入っていく


「僕はまたクランちゃんの作り笑いしか見たことないね・・・だから正直友達を名乗っていいのかわからない」
「え?あれ・・・作り?」
「此処でいい?そこを真っ直ぐ行ったらスペース所属の部屋があるよ。僕ももう持場に行くから」
「はい、ありがとうございます」


タイゾの後ろ姿を見送ると大きなため息が出てしまう
駄目だな、やっぱりもともに寝てないと調子が出ないのかな
今日の僕は変な事しか言ってない
昨夜の事のせいかな



『怖い怖いでも誰に言えないどーしよう』

「え?」


ふいに何もない所から出てきたみたいに僕の目の前にいる、joker?
あれ?身長おかしくない?


クランほどじゃないけどもう150はある様に見える、服もなんだか立派になってるし
全体が赤色を占めたワンピースみたいな服に大きな黒いリボン


それに声も・・・すこしハスキーになってる、まるでこの短期間で成長したみたいな・・・


『かーわいそう・・・助けてあげようかぁ?』


君のせいだと言いかけて言葉を飲み込む、でもそれすら察したみたいにくすくす笑うjoker
仮面をしてないから笑い顔だけなら無邪気なのに


「あんまりふざけてない方がいいよ・・・僕は君の助けはいらないよ」
『・・・・・・・・・』


口をへの字にすると弾いた様に後ろに一歩下がる
吸い込まれそうな青い瞳を少し細めた

なんだろうすごくこの顔どこかで見たことあるような・・・。


「きみはいったい何なの?きみにあってからおかしな事ばかりおこるよ・・・」
『ジョーカー』
「それは名前・・・」


またしてもお腹を抱えてけたけた笑い出す


「・・・もういいよ」
『じゃあ、オニイサンにだけ良いこと教えてあげる。この世界で王様に好かれないものはみんな死んじゃうんだって』
「何それ」
『だからねあんまり僕に嫌われること言わない方がイイと思うよ?』


思わせぶりに嬉しそうに回転するとその勢いで両手を差し出してくる、思わず夢と被って背後に仰け反るとその姿が滲んで消えた。
思わず何度も瞼を擦ってみたり周りを見渡したりしたけどjokerの姿はもう何処にも無かった