毒を盛るのは愛しているから
傷つけてしまうのは大好きだから
だから、どうか僕の傍から離れて行かないで。
独りにしないで。
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「苺食べたいなー苺落ちてないかな?落ちてないよね、うん」
地図を片手にきょろきょろ街並みを見渡す青年。
黒い髪の前髪一部に赤いメッシュを入れていて、よく言えば個性的
悪く言えば奇抜。
「はやめに出てきて良かったかな・・・城は見えてきたけど道わかんないし・・・」
もしかしてこの地図間違ってるのかな?そんな気がするけどざっくりすぎてわからない
ふいに鼻を甘い香りが通り過ぎていく
(近くに喫茶でもあるのかな・・・そうだそこで道を聞こう)
裏通りに入ると猫と薔薇の看板が飾った小さくお洒落な建物が見えてきた
「こんにちは・・・っておぉ・・・苺がいっぱい」
「いらっしゃーい、今苺もの多いよ、お客さん」
出てきたのは小柄で童顔の店主、パテシエっぽい制服に頭には猫のお面
こげ茶の髪に猫みたいな黒目を細めて笑った
「こんなかでお勧めの苺ケーキください、後すいません道教えてください」
「・・・・・・どっちが本題だよ」
「道・・・いややっぱ苺」
食い入るようにショーケースを眺める青年に思わずこけそうになる店主
「まぁいいけど…お勧めねぇ…新規の客には何がいいいかねぇ?」
考える素振りを見せると厨房の方へと消えていく店主
暫くして出てくると 手元には苺を抱えたちいさなクマがのった小さな丸いケーキ
「これは作ったばっかりの試作品だけど・・・食ってみる?」
「・・・むしろ逆にいいのか聞きたいんですけど…」
「駄目ならださねぇよ・・・ん?これが嫌いか?」
マジパンのクマを指定した気がして咄嗟に首を横に振ってしまった
むしろクマとかドツボ過ぎてこの店主さん、心読めるんじゃないかと思った
ちょっとだけ。
クマなんてマスコット的にどこでもありだよね、そう思おう。
「・・・?」
「読心術出来るんじゃないかとか全然思ってないです、マジで」
「・・・あぁ・・・そうか・・・バカなんだねぇ・・・可哀想に」
満面の笑みで頭の近くでくるくる指を回すしぐさをする店主さん
接客業とは思えないくらいストレートな人かも
結局頂くことにした。
(あ・・・美味しい)
「すごく美味しいです」
「うん、知ってる」
何やら紙に簡易的な地図らしきものを描きながら嫌味も無く返事をする店主さん
なにかすごいスタイリッシュなパテシエに出会ってしまった 流石都会は違う。
「というかな・・・城に行くって、何の用だよ?そうそう誰でも入れないだろう?」
「・・・おっぷす・・・いやそれが・・・一応騎士団に正式に入ったばっかりなんで」
「・・・きし・・・だん・・・?」
「一応騎士(ナイト)です」
「・・・・・・・・・・・・」
あれ?何かいけないこと言っただろうか いきなり沈黙しちゃったよ店主さん
「・・・もしもしー店主さん?」
「・・・あ?・・・悪い・・・今寝てたわ・・・何の話だっけ?」
いきなり眠そうに瞼をこすりだすパティシエ
え?そっち?この会話の延長線で寝れるの?
やっぱり都会すごいね、想像外の人がいる
「しっかし馬鹿でも入れるんだね!騎士団!」
聞いてるじゃん・・・しっかり。
あまり否定はしないけど。
そういえば店主さん、何歳なんだろう?此処まで作り上げたとすればそれなりに行ってそうだけど
なんか俺より年下に見えるし
「所属は?」
「はい?」
「だから所属だよ、騎士団って下士官みたいに分けてないの?」
あぁ、そういう意味か一瞬わからなかった、下士官ってそういうのもあるんだ・・・。
「確かスペード所属・・・あっ、スペード所属のタイゾです」
今さらながら名前を付け足してみた。もしかしたらダイヤだったかもしれないけど
きっとこの店主さんは興味ないだろうからいいか
「あっそう、変n・・・ごほっ・・・変わった名前だね」
思いっきり変なって聞こえたんですが、此処は俺傷ついていいとこですか?
そんな事思いつつケーキを口に入れる
やっぱり美味しい
カランと小さな鈴の音がなると新しいお客さんらしき人が入ってきた
なにか制服みたいなのを着てる、もしかしたらお城の人かもしれない
「何だ顔色悪いな、迷惑だから帰れ」
いきなりお客さんに対する態度とは思えない台詞に口に含んだ紅茶を吹き出しかけた
おっぷす・・・危ない危ない。
「いやぁ…クランちゃん聞いてよ、僕寝てないんだよ昨日から・・・すごく大変で・・・甘くないもの食べさせてよ」
「お前口に生クリーム突っ込むぞ・・・」
ケーキ屋さんに来て甘くないもの頼むのもすごいけどこの店主さん本当に口が悪いというか、羨ましいかもしれない。
俺はあんまり言いたいこと言えないかも…めんどくさいだけだけど。
「ちょっと仮眠するから出来たら起こして」
適当に席に座ると顔を伏せてしまう、ある意味すごい
店主さんも何か言いたげに口を動かしてたけど、相手が寝てしまったと確認すると、大きくため息をした
「ご苦労様です・・・」
本心で行ってしまった、怒るかと思ったら、今まで見たことない笑みを作って
「まっ・・・たくだよね・・・悪いけどこいつ見ててくれる?・・・後でこいつに案内させるから」
「りょ・・・了解です・・・」
そう言うと厨房がある中に消えてった
普通に笑うと可愛いと思ってしまった、さっきまで怖かっただけに
いや・・・それほど怖くも無かったかな、まぁいいか。
よっぽど眠かったのか寝息まで聞こえてくる
制服に見えるし髪も生真面目にきっちりと切って整えているし、俺が大分不真面目に思えてきた。
そんな事思ったり思わなかったりしながら最後の一かけらを口にした
美味しい。