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神様じゃねーよ

          ~ 清居ver ~ (1)

 

平良一成ひら かずなり(22歳)アシスタントカメラマン

清居きよい そう(22歳)新人俳優 

              高校時代の同級生の平良と同棲中

 

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朝、カーテンの隙間から刺すきらめきの眩しさに目覚めると、かたわらに天使が眠っている。

 

昔の詩人が「恋慕の眼鏡をかけるとその人は天使に見える」と言った。

 

学生時代、教科書か何かに載っていたその言葉を思い出し、清居はフッと笑みを漏らした。

 

安らかな寝息を立てている自分だけの天使エンジェルは、赤の他人の客観的な目で見ると挙動がおかしい「不審くん」らしい。

 

そしてこの天使はどんな時でも従順で決して逆らうことはない。

 

もし「死ね」と命じたら迷うことなく実行するだろう。

 

だがそんな盲目的な愛を捧げてくれる天使は夜になると豹変する。

 

ベッドの中では別人のように雄の本能をむき出しにして、何度も、何度も ・・・・・・。

 

「平良のくせに・・・・・・」

 

昨夜のことを思い出すだけで頬が熱くなる。

 

誰かにイニシアチブ(主導権)を取られるなんて、学生時代の自分が聞いたらどんな顔をするだろう。

 

その時、口元を半開きにした無邪気な寝顔がかすかに身じろぎした。

 

紅潮した顔を見られたくなくて、清居は慌てて目を閉じ眠っているふりをした。

 

少しして目を覚ました平良が清居の頬にそっと右手を当てる。

 

そして・・・・・・。

 

「・・・・・・綺麗だ」

 

それは毎朝、「おはよう」の前に小さくつぶやかれる言葉だ。

 

平良のキーワードはいつも決まっている。

 

―― 綺麗だ。奇跡だ。可愛い。

 

この三つのうちのいずれかをローテーションのように繰り返す。

 

いいかげん飽き飽きして他の言葉を聞きたいと思う反面、もし言われなければ少し寂しい気もする。

 

「ったく、お前は語彙力ねえな」

 

まぶたを開けて上目遣いでつぶやくと、

 

「う、うわっ!」

 

いかにも驚いたように目を見開いた天使が、大きくのけ反るようにしてベッドから転げ落ちた。

 

 

―――――――――――――――

 

 

「写真集の話、本当に良かったねぇ」

 

事務所で打ち合わせの最中、チーフマネージャーの言葉に清居は笑顔でうなずいた。

 

「はい、ありがとうございます。頑張ります」

 

デビューしてまだ数年の自分が写真集を出せるのは確かにありがたいことだ。

 

初めての写真集がこれほど早く実現するとは予想もしなかった。

 

しかもあの野口大海に撮ってもらえるなんて夢のようだ。

 

これまでに何度かグラビアを撮ってもらったことはあるが、時間と手間のかかる写真集を引き受けてもらえるとは思ってもいなかった。

 

だが、まだドラマや映画の端役ばかりで代表作すらない自分が果たして結果を出せるだろうか。

 

もし販売部数が振るわなければ、野口の輝かしいキャリアにも傷をつけることになる。

 

そして少し気が重い理由はもう一つある。

 

実は平良に写真集のことを言い出しかねているのだ。

 

仕事だから仕方がないとは言え、平良を落胆させ傷つけてしまうのではないだろうか。

 

いや、たぶん平良は喜んでくれる。

 

それもこれ以上ない程、大袈裟に。

 

そして夕食には豪華な料理が並び、テーブルの中央には清居の好きなエビコロが山のように積まれているだろう。

 

けれど盛り上がれば盛り上がるほど、それは平良の心と反比例している気がする。

 

これまでずっと、お互いの初めてを分け合ってきた。

 

恋人と手をつなぐことも、キスも、その先も・・・・・・。

 

だから自分にとって初の写真集は平良に撮ってもらいたかった。

 

憂いを笑顔の下に隠す清居の前で、チーフマネージャーがにこやかに話を続ける。

 

「・・・・・・それで、野口さんが何か新しい企画、考えてるらしいよ」

 

「新しい企画・・・・・・ですか?」

 

いったい何だろう。

 

天才写真家と評される野口のことだ、きっと自分たちには予想もつかないアイデアに違いない。

 

清居の心に少しの不安と期待が入り混じったその時、

 

「清居君、決まったよ! 決まった!」

 

現場マネージャーが血相を変えて飛び込んできた。

 

「なに? どうしたの?」

 

「だから、決まったんですよ、BLドラマの主演が!」

 

BLドラマと言えば近頃では若手俳優の登竜門だ。

 

ここで成功すれば知名度も上がり、その後の仕事も増える。

 

何より固定ファンが付くのも心強い。

 

そしてドラマがきっかけでブレイクする例も多い。

 

これは清居にとって大きなチャンスだ。

 

「で、どんな話?」

 

「ええーっと、資料によると・・・・・『亡くなった恋人にそっくりの男が現れ、最初は衝突するもののしだいにお互いが惹かれ合っていく純愛の物語』だって」

 

「相手役は?」

 

「それが・・・・・・」

 

マネージャーの顔にわずかに影が浮かぶ。

 

「何? なんか都合悪いの?」

 

少し言い淀むように間を開けて言葉が続けられる。

 

霧島 航きりしま わたるなんです」

 

「霧島 航って、桐谷恵介の事務所のアイドルだよな?」

 

チーフマネージャーの問いかけに皆が表情を曇らせる。

 

桐谷恵介と事務所の先輩の安奈は以前、熱愛が報じられたことがある。

 

「まあ、安奈と桐谷恵介の件は一応、手打ちってことで話はついてますし・・・・・・」

 

「けどあの後の件で、向こうの事務所はこっちのことを快く思ってないよな」

 

人気女優の安奈と同じく人気アイドルの桐谷恵介の熱愛報道。

 

そこから世間の目を逸らさせるために、安奈と清居が付き合っていると捏造された記事が出たこともある。

 

そして安奈と桐谷は誤解を解くために二人で交際宣言をしたのだ。

 

おかげで清居に対するバッシングは無くなったが、桐谷のファンクラブの会員数が激減したと聞いている。

 

「まあ、そうですけど、今回は事務所が一緒ってだけの話で、向こうも新人アイドルを、今ブレイクし始めてる清居君と組ませて売り出そうって目論見じゃないですかね」

 

「どう? 清居君、もしやりにくかったら相手役変えてもらっても・・・・・・」

 

チーフマネージャーの問いかけに清居は小さく首を横に振った。

 

「いや、別に、構いません。相手が誰であろうと、俺は俺の芝居をするだけですから」

 

 

―――――――――――――――

 

 

帰りの車の中で、清居は窓の外を流れていく夜の景色を眺めながら、深い溜息を吐いた。

 

事務所ではああ言ったものの、やはり不安が残る。

 

写真集のことではない。

 

自分が黙っていたとしても、それはいずれ野口の口から平良に伝えられるだろう。

 

心配なのはBLドラマのことだ。

 

事務所同士の関係のことなどどうでもいい。

 

そんなことより相手役は男、そしてストーリーは純愛物語。

 

もしかしたらキスシーンもあるかもしれない。

 

それを観たら、平良が落ち込むのではないか。

 

ラブシーンは初めてだ。

 

清居が出ている作品はそれがドラマの脇役であれCMであれ、時間が許す限り繰り返してかかさず見ている平良に耐えられるだろうか。

 

けれど、悪く考えても仕方がない。

 

これは自分の俳優人生にとって大きなターニングポイントになるかもしれないのだ。

 

―― 清居くんのやってる役、

         やりたいって人いっぱいいるよ。

         集中して。

 

以前、安奈に言われた言葉を思い出す。

 

明かりのついていない玄関の扉を開け、室内に入ると、清居は強く拳を握りしめてなずいた。

 

「うん、そうだよな!」

 

 

 

何もかも、隠さず平良に伝えよう。

 

清居がそう決意した時、ガラガラと玄関の引き戸を開ける音が響いた。

 

 

 

 

 

~ to be continued