※カクテルの画像は「photo AC」様よりお借りしています。

 

本日、7月4日は町田啓太さんのお誕生日ですね。

おめでとうございますバースデーケーキ

お祝いの気持ちを込めて、昨年に引き続き「チェリまほ」と「にしぼし」のコラボストーリーを書きました。
 

赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン

 

「As you like」④

 

【第四夜】 

   ブルーハワイ

 

「チェリまほ」

OPテーマ omoinotake 「産声

EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love

 

「西荻窪三ツ星洋酒堂」

OPテーマ  I don't like Mondays「entertainer

 

「チェリまほ」の公式HPは こちら

「西荻窪三ツ星洋酒堂」の公式HPは こちら

小説の<目次>は こちら

 

赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン~~赤ワイン

 

梅雨のじめじめした季節が過ぎ、7月に入ると暑さはいっそう厳しさを増した。

 

熱を帯びた空気は夕方になっても一向におさまる気配がない。

 

外回りからオフィスに戻った黒沢はネクタイを緩めると大きく息を吐いた。

 

エアコンで程よく調節された涼しさに火照った身体が癒される。

 

そしてそれ以上に心を癒してくれるのは・・・・・・。

 

「お疲れ。もう帰れる?」

 

笑顔で声を掛けてきた安達に黒沢も微笑んだ。

 

愛らしい天使の顔を見ただけで一日の疲れなど吹き飛んでしまう。

 

「うん、すぐに報告書まとめるから、少し待っててくれる?」

 

「おう」

 

 

―――――――――――――――
 

 

19時を少し回った頃、二人並んで会社の外に出るとビル群の隙間に見える西の空にはまだほんのりと茜色が残っていた。

 

いつものように黒沢の右側を歩きながら安達が尋ねた。

 

「今日さ、飲みに行かない?」

 

「うん、いいよ、どこに?」

 

「西荻窪なんだけど」

 

「西荻?」

 

それは意外な場所だった。

 

そして実は黒沢もいつかその場所に安達を連れていきたいと思っていた。

 

初めて入ってすっかり気に入ってしまった洒落たBarがあるのだ。

 

 

―――――――――――――――

 

「ここ?」

 

入り口の横に木製のベンチが置かれたやや古びたBar。

 

こじんまりした外観に反して、やけに大きな看板に書かれている店の名は「洋酒堂」。

 

オレンジ色の間接照明に照らし出されたその名を見つめ確かめるように問いかける黒沢に、安達はニッコリとうなずいた。

 

「うん、前に偶然入ってさ、すごくいい店なんだ」

 

「そうなんだ」

 

アンティークなドアノブの付いた濃い茶色の扉を開け、安達が先に黒沢が後に続いて中に入ると、あと少しで20時になる店内は以前来た時とは違いそれなりに混雑していた。

 

「いらっしゃいませ」

 

カウンターの中から、濃いグレーのネクタイに濃紺のベストを身に着けたバーテンダーの雨宮が張りのある声で迎えてくれた。

 

「安達様。ようこそ」

 

ここに来たのは半年以上前だが、雨宮の表情にはまるで常連を招き入れるかのような親しみがあった。

 

「それと・・・・・・」

 

安達の背後に立っていた黒沢に雨宮が目を向けると、黒沢は口元で人差し指を立て「シッ」と合図した。

 

心得たようにうなずき雨宮は無言で微笑んだ。

 

そんな二人のアイコンタクトには気づかず、安達が無邪気に言葉を返す。

 

「こんばんは、今日は二人で来ました」

 

「ありがとうございます。では、こちらにどうぞ」

 

カウンターから出てきた雨宮が賑わうフロアの奥の席へと二人を案内する。

 

ダークブラウンのパーテーションで仕切られ半個室のようになったテーブル席には「御予約席」のプレートが置かれ、店内の喧騒から切り離されて落ち着いた空気が漂っていた。

 

「最初の一杯は俺が頼んでもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

黒沢は素直にうなずいた。

 

珍しく安達がリードしてくれている。

 

今日は7月3日、黒沢の31歳の誕生日だ。

 

ここに連れてきてくれたのは誕生日を祝ってくれるつもりなのだろう。

 

一生懸命に考えてくれたその気持ちが嬉しい。

 

おしぼりとメニューを持ってきた雨宮に、安達はいかにも準備していた様子で促した。

 

「じゃあ、お願いします」

 

「かしこまりました」

 

しばらくして運ばれてきたのは、鮮やかな青色がいかにも涼しげなカクテルだった。

 

「お待たせいたしました。ブルーハワイでございます」

 

 

それはホワイトラムにブルーキュラソーで色付けし、パイナップルジュースとレモンジュースを合わせたトロピカル・カクテルで、南園ハワイの澄み切った海と空を想わせる。

 

だが黒沢は、安達がこのカクテルを選んだ理由がわからず確かめるように聞き返した。 

 

「ブルーハワイ?」

 

確かに夏のカクテルではあるが、安達がこれを選んだのにはどんなわけがあるのだろう。

 

不思議そうな目を向ける黒沢に安達はあごを上げると小さく胸を張った。

 

「カクテルってそれぞれにカクテル言葉があるんだって」

 

もちろんそのことは自分も知っている。

 

だが黒沢は今初めて知ったかのように少し大げさにうなずいて見せた。

 

「へえ、そうなんだ」

 

安達は雨宮に目を向けると黒沢に聞かせるように問いかけた。

 

「これのカクテル言葉は何ですか?」

 

「はい」

 

安達から電話で予約が入った時に7月3日が恋人の誕生日だと聞いた。

 

この日の誕生日カクテルはいかにも夏らしい「ブルーハワイ」。

 

そしてカクテル言葉は、

 

「『自らの考えを適確に表現できる主役』

 

でございます」

 

雨宮の言葉を聞き、安達は上目づかいで悪戯っぽく笑った。

 

「なんか黒沢にピッタリだよな」

 

「そお?」

 

ハワイの明るく軽やかなイメージとカクテル言葉とのギャップにやや違和感を覚える。

 

だが安達は力強くうなずいた。

 

「うん」

 

予約の電話を入れた時、このカクテル言葉を知った。

 

最初は少し硬い印象を持ったが、黒沢のイメージと重ね合わせてみるとしっくり来た。

 

そう、黒沢は自分の考えや信念を決して曲げない。

 

会社でも自分が正しいと思ったことは先輩や上司に対してもはっきりと言う。

 

そんなところが安達にとって憧れであり、最も尊敬できる一面だ。

 

そして何よりも気に入ったのは最後の「主役」と言う言葉。

 

それは何事も完璧でいつもキラキラと輝いている黒沢に相応しい。

 

互いに見つめ合って乾杯した後、店内のBGMが落ち着いたジャズから軽快なバースデーソングに変わった。

 

そしてロウソクに火をともした小さなバースデーケーキを雨宮が運んできた。

 

気づいた他の客たちも歓声を上げ拍手が沸き起こる。

 

「おめでとう、黒沢」

 

安達の笑顔を背景に苺と生クリームのケーキが黒沢の目の前に置かれる。

 

そこに灯された「31」の形をしたろうそくの炎を吹き消すと黒沢は瞳を潤ませた。

 

「ありがとう」

 

安達にこんな風に祝ってもらえるとは思いもしなかった。

 

嬉しくて嬉しくて他に人がいなければ、今すぐ安達を抱きしめ、声を上げて泣いていたかもしれない。

 

黒沢を見つめながら少し身を乗り出すようにすると安達は小声でささやいた。

 

「こんなとこで、泣くなよ」

 

「うん、でも、すっげえ嬉しい」

 

目元を押さえて涙を堪える黒沢に微笑むと、安達はスーツの内ポケットから青いリボンを掛けた小箱を取り出した。

 

「はい、誕生日プレゼント」

 

「えっ」

 

それは手のひらに乗るほどの小さな四角い箱。

 

黒沢が目を大きく見開いて声を上げる。

 

「これってもしかして・・・・・・」

 

もしかして、もしかしたら、指輪を買ってくれたのだろうか。

 

それは二人が深い絆で結ばれ、一生を共にするという愛の証だ。

 

そんな妄想が頭をよぎる。

 

大きな期待に胸を膨らませる黒沢に、安達は慌てて言葉を添えた。

 

「あ、違うよ、タイピン。ネクタイピンだって!」

 

「え、ああ、そう・・・・・・なんだ」

 

その顔に拍子抜けしたような失望感がにじむ。

 

「なんかごめん、何にしたらいいかわかんなくてさ。結構時間かけて選んだんだけど ・・・・・・」

 

申し訳なさそうに安達が詫びる。

 

そうだ、安達が自分のために一生懸命選んでくれたのだ。

 

それだけで最高のプレゼントだ。

 

そう思いなおすと黒沢はにっこりと笑った。

 

「ううん、俺こそごめん。めちゃめちゃ嬉しいよ。ありがとう。大事にするね」

 

その言葉にホッと安堵してうなずきながら、安達は少し照れくさそうに人差し指で鼻の頭を掻いた。

 

「その・・・・・・黒沢が考えてたのは、いつか二人で買いに行こうよ」

 

安達が自分の甘い夢を、胸が高鳴るような熱い思いをちゃんと受け止めてくれた。

 

それだけで心が充分満たされる。

 

「うん、そうだね。あ、これ開けていい?」

 

「おう」

 

 

―――――――――――――――
 

 

希少な缶詰を使った一品の料理とカクテルで心地よく酔った帰り道。

 

明かりの消えた商店街を駅に向かって歩きながら、黒沢がふと尋ねた。

 

「でも安達、あんないい店、よく知ってたね」

 

「うん、まだ2回目なんだけど、お前と一緒に来たくてさ」

 

「そっか」

 

実は黒沢も同じことを考えていたのだが、安達に先を越された。

 

けれど、それでよかった。

 

安達が連れてきてくれたことでこんなにも幸せな誕生日を迎えられたのだから。

 

心の中で一人納得する黒沢に安達が確かめるように問いかけた。

 

「黒沢はあの店に来たことあるんだよな?」

 

「え? あ・・・・・・いや」

 

「ホントのこと言っていいよ」

 

まさか安達にバレているとは思いもしなかった。

 

それにバーテンダーの雨宮は、自分のことを初めての客のように接してくれた。

 

なのにどうして・・・・・・。

 

狼狽するように声を裏返らせながら黒沢が聞き返す。

 

「なんでわかったの?」

 

「だって・・・・・・」

 

黒沢が初めてでないことはすぐにわかった。

 

二人で店に入った時、挨拶しようとした雨宮を制するように、背後に立っていた黒沢が口元に人差し指を立てて「シッ」と合図する姿が、壁に掛けられた数枚のパブミラーに映っていたのだ。

 

「そうなんだ・・・・・・ごめん、嘘ついて」

 

「何言ってんだよ。俺に気を使ってくれたんだろ?」

 

「うん、まあ・・・・・・」

 

こんな風に、黒沢はいつも優しく気遣ってくれる。

 

傍にいてくれるだけで胸が熱くなるほど幸せだ。

 

そして、あらためて思う、黒沢といつまでもずっとずっと一緒にいたい。

 

「ありがと、これからもよろしくな」

 

「うん、こちらこそ」

 

深くうなずきその場で立ち止まった黒沢が、あたりに人がいないのを見計らいそっと安達を抱き寄せる。

 

「ちょっ、ダメだって。外だぞ」

 

「じゃあ、こっちきて」

 

突然のことに取り乱し強く拒む安達の手を引いて、ビルの陰に二人で身を隠す。

 

安達の身体を優しく壁に押しあてると、その耳元に甘い口調でささやく。

 

「もう一つ、誕生日プレゼント貰っていい?」

 

キラキラと輝いてじっと見つめるその瞳に射すくめられる。

 

有無を言わせないその輝きに逆らうことなどできない。

 

「しょうがねーな」

 

観念したように肩をすくめると、安達は唇を近づけながら吐息と共にささやいた。

 

 

 

「誕生日おめでとう、黒沢」






💖おしまい💖