原作もドラマも二人はお互いの名字で呼び合っていますが、今回はより恋人同士らしく名前呼びで照れラブラブ口笛

 

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「僕の名前を呼んで」

 

OPテーマ omoinotake 「産声

EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love

 

ドラマのあらすじは こちら

小説の<目次>は こちら

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晴天に輝く早朝の太陽の光が室内を明るく照らし出している。

 

小さなテーブルに二人で向かい合って朝食を食べていると、安達はなんとなく違和感を覚えた。

 

いつもなら安達の作った形の崩れた目玉焼きやみそ汁を恥ずかしくなるほど大袈裟に褒めてくれる黒沢が、今朝は「いただきます」を言ったきり黙ったままだ。

 

それにいつもと違ってその表情もなんだか不機嫌な気がする。

 

「黒沢、どうしたの?」

 

「別に、なんでもないよ」

 

「なんでもないってことないだろ。なんか機嫌悪いし ・・・・・・」

 

問い詰めるような安達に、箸を持っていた手を止めると黒沢が確かめるように問いかけた。

 

「じゃあ、正直に言っていい?」

 

「いいよ」

 

そう返事をしながらも、安達は小さく身構えた。

 

何を言われるのか不安だ。

 

いつもとは違う黒沢の強張った表情からも、決していい話ではないだろう。

 

「俺たち、ちゃんと付き合ってどのぐらい?」

 

――  ちゃんと。

 

それはクリスマスイブ、アントンビルの屋上でプロポーズをしてくれたときのことを意味している。

 

「えっと、もうすぐ3ヶ月・・・・・・かな」

 

「だよね」

 

最近では互いの部屋に泊まることも多い。

 

昨夜も安達の部屋の狭いシングルベッドに身を寄せ合って眠った。

 

「おはよう、清」

「おはよ、黒沢」

 

ついさっき、そう朝の挨拶を交わしたばかりだ。

 

だが黒沢は少し恨めしそうな目を安達に向けた。

 

「清はいつまでたっても呼んでくれないよね、俺の名前」

 

「それは・・・・・・」

 

安達は言葉を失い、うつむいた。

 

 

 

あの夜、二人で誰かが上げた花火を見たあと、言われたことを思い出す。

 

「これからは『清』って呼んでもいい?」

 

「う・・・・・・うん」

 

承諾の返事をしたものの、黒沢から呼び捨てにされると思うとなんだかこそばゆい。

 

一方の黒沢はいかにも嬉しそうに満面の笑顔を見せる。

 

「じゃあ・・・・・・清」

 

「お、おう」

 

照れ臭くてそれ以上何も言えなかった。

 

絶好のタイミングを逃してしまったのだ。

 

あの時、

 

―― 優一。

 

たった一言を素直に返せばよかった。

 

 

 

あれから3か月、未だに「黒沢」としか呼べていない。

 

自分でもなぜだかわからないのだが、勇気が出ないのだ。

 

茶碗と箸を持ったまま黙り込む安達に、黒沢はわずかになじるような口調で言葉を続けた。

 

「別にいいけど、なんかちょっと・・・・・・寂しいな」

 

「・・・・・・ごめん」

 

気まずい沈黙が流れたが、下を向く安達の肩越しにある時計に気づくと黒沢が声を上げた。

 

「あ、もう時間だ。急がなきゃ」

 

気持ちを切り替えるような言葉の最後は、いつもの優しい微笑みだ。

 

 

―――――――――――――――

 

 

昼休み。

 

一人で少し遅めの昼食をとる安達は、弁当箱を開くと両肩を揺らしフゥーと息を吐いた。

 

午前中、データ処理に追われてバタバタと忙しく、やっと休憩が取れた。

 

だが深い溜め息は仕事の疲ればかりではない。

 

「安達くんどうしたの? なんか元気ないけど」

 

「藤崎さん・・・・・・」

 

背後から声を掛けられた安達は、不意を突かれ困惑したような目で顔を上げた。

 

「もしかして黒沢くんのこと?」

 

自分の気持ちをズバリ言い当てられたことにうろたえるように、安達は声を裏返らせて聞き返した。

 

「な、なんでわかるの?」

 

「だって、午前中、黒沢くんのことチラチラ見てたし」

 

何もかもお見通しと言いたげに藤崎はくすくすと軽やかに笑った。

 

安達は小さく息を吐くと照れ臭そうに頭を掻いた。

 

やはり藤崎にはわかってしまう。

 

そして自分たちのことを一番よくわかってくれている彼女には本心を隠す必要もない。

 

「実は・・・・・・」

 

 

 

安達の話を聞き終えると、藤崎は穏やかな表情でうなずいた。

 

「そっか」

 

恋人の名前を呼ぶ。

 

そんな些細なことを真剣に悩んでいる安達。

 

それをばかばかしいと笑う人もいるだろう。

 

だがその生真面目さがいかにも安達らしい。

 

納得したように藤崎は柔らかく微笑んだ。

 

「早く下の名前で呼んで欲しいって言う黒沢くんの気持ちもわかるけど、安達くんのペースでいいんじゃないかな。黒沢くんだって無理にってわけじゃないと思う」

 

藤崎の言う通りだ。

 

そして、安達の気持ちを大事にしてくれる黒沢のためにも ・・・・・・。

 

だが、いざとなるとなかなか勇気が出ない。

 

「うん、でも、どんな顔して言えばいいのかわからないんだ」

 

悩ましげな顔を見せる安達に、藤崎はひらめいたように明るく声を上げた。

 

「だったら、練習してみたら?」

 

「練習?」

 

「そう、鏡の前で」

 

 

―――――――――――――――

 

 

「おはよう、優一」「優一、おやすみ」

 

その夜、安達は帰宅すると着替えることも忘れて洗面台の鏡の前に立った。

 

様々な場面を想像しながら鏡の中の自分に呼びかける。

 

けれど・・・・・・。

 

「あー、なんか不自然なんだよなぁ。わざとらしいっていうか」

 

口元をゆがませて首をかしげる。

 

簡単なことなのに、なぜ上手くできないのだろう。

 

だが諦めるわけにはいかない。

 

今日こそ黒沢に喜んでもらいたい。

 

「よし、もう一回」

 

気を取り直した安達が再び鏡に向かって笑顔を作ったその時、家の前に黒沢の姿があった。

 

取引先から直帰し、少し遅れて帰ってきた黒沢が扉の前に立つと、部屋の中から声が聞こえてきた。

 

―― あれ? 誰か来てるのか?

 

耳をそばだてて中の様子を伺う。

 

聞こえてくるのは確かに安達の声だが、人と話している様子はない。

 

不審に思い、できるだけ音がしないようにそっと鍵を差し入れ、静かに扉を開ける。

 

洗面所の入り口で身を隠すように顔だけ少し傾けて中を覗くと、安達が一人、鏡に向かって何かをぶつぶつとつぶやいている。

 

「ただいま、優一」「優一、おかえり」

 

言葉の最後でにっこりと笑ってみせた後、すぐに安達はがっかりしたように肩を落とし溜め息を吐いた。

 

「やっぱ、なんか違うんだよな」

 

首をひねりながら、それでも同じことを繰り返す。

 

―― え、もしかして練習してるの? 

        まさか、俺のために?

 

黒沢は心の中で驚きの声を上げた。

 

だがそんな黒沢の気配には気づかず、安達はひとつ深呼吸をすると、真剣な顔つきで鏡の中の自分を見つめた。

 

 

「いつもありがとう、優一」

 

 

精一杯の心を込めて大好きな人の名を呼ぶ。

 

こんな些細な事まで一生懸命になってくれる安達の気持ちが嬉しくて目から思わず涙があふれる。

 

「グスッ」

 

「え?」

 

突然聞こえてきた涙声に、安達が驚いて振り返る。

 

黒沢がいるとは思いもしなかった。

 

「黒沢、いつ帰ってきたの?」

 

「ん、さっき」

 

その大きな目と高い鼻先が赤みを帯びている。

 

「もしかして、見てた?」

 

「ごめん」

 

「もう、なんだよ。恥ずかしいじゃん」

 

「ごめん、ホントにごめんね。でも、言い出せなくて」

 

安達の邪魔をしてしまった。

 

酷く悪いことでもしたかのように黒沢が必死で謝る。

 

それは叱られた子供がしゅんとしているかのようだ。

 

全部見られていたなら仕方がない。

 

覚悟を決めた安達は黒沢の正面に立った。

 

そして・・・・・・。

 

 

「大好きだよ、優一」

 

 

「えっ」

 

そのまま口をポカンと開けて黒沢は硬直した。

 

それはこれまで安達から滅多に聞けなかった言葉だ。

 

―― ちょっ、ちょっと待って、

       名前呼びだけじゃなくて、愛の告白?

       そんなこと言われたら

       心の準備が追いつかないんだけど。

 

黙ったまま自分を見つめている黒沢の前で、安達は照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「やっぱ、変だよね」

 

「ううん、ちっとも変じゃないよ!」

 

大きく首を横に振った黒沢が、思わず両手を伸ばし安達を強く抱きしめる。

 

「ゆ、優一、苦しいよ」

 

そう訴えても今夜の黒沢は許してくれない。

 

「ほら、夕飯の準備もしなきゃ」

 

背中に手を回し、促すようにポンポンと肩のあたりを叩いても、黒沢の両腕の力は緩まない。

 

この腕を解きたくない。

 

今すぐにでも可愛い安達の全てが欲しい。

 

この声、身体、匂い、全てが宝物だ。

 

「うん、でも、その前に・・・・・・」

 

少ししてゆっくり身体を離すと、その目をまっすぐに見つめながらいたずらっぽい口調で黒沢は問いかけた。

 

 

「先に清のこと、食べちゃってもいい?」

 

 

 

 

 

💖おしまい💖