※タイトルの写真は「photo AC」様よりお借りしています。
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「カウントダウンが始まる前に」
OPテーマ omoinotake 「産声」
EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love」
ドラマのあらすじは こちら
小説の<目次>は こちら
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2020年、大みそか。
朝、安達は少し早めに起きて部屋の掃除に取り掛かった。
年末だからというだけではない。
今日から黒沢が泊まりに来るのだ。
いつもなら実家に帰って大掃除を手伝ったり、母と義妹がおせち料理を作る間、姪っ子たちの面倒を見たりしているところだが、今年は年末年始を黒沢と二人で過ごす約束をした。
―― 夜は二人でカウントダウンだろ。
その後、一緒に初詣に行って
帰りは甘酒飲もうか。
お汁粉とか食べるのもいいな。
それから・・・・・・。
そうだ、初日の出はどこで見よう。
読みかけのコミックを本棚に戻しながら、楽しい計画が次から次に思い浮かぶ。
こんなに幸せな日が来るなんて、去年までの自分は想像すら出来なかった。
クリスマスイブの夜にビルの屋上でプロポーズされてから1週間。
その間、家でも会社でも時間の大半を黒沢と一緒に過ごしている。
もちろん仕事中はイチャイチャできないのだが、それでも時々視線を感じて振り返ると、そこにはいつも黒沢の優しい微笑みと熱い視線があった。
さらに黒沢は周囲の人間にはわからないように気をつけながら、ウィンクしてくることもある。
愛されるということの幸せとほんの少しの照れ臭さ。
知らず知らずのうちに赤くなった安達の頬に気づいた先輩の浦部から、
「安達、どした? 顔赤いぞ、熱でもあるんじゃないか」
そう心配されることもしばしばだ。
―― 黒沢のウインク、
マジでカッコよかったな。
太陽が西に傾きかけた頃、思い出し笑いをしながら掃除機をかけ終えると、
ピンポーン!
インターホンの軽やかな呼び出し音が鳴り、ドアを開けると12月の冷たい外気がドッと室内に流れ込んできた。
そして目の前に笑顔の黒沢が大きなスーツケースを携えて立っている。
「どうしたの、それ・・・・・・?」
正月の三が日をこの部屋で過ごす約束をしているのだが、それにしても海外旅行にでも行くのかと思うような大きな荷物だ。
3日分の着替えがフルコーディネートで入っているのだろうか。
まあ確かに安達のパジャマでは黒沢には短すぎるのだが。
安達の問いかけに軽く笑っただけで答えを言わないまま、黒沢が白い息を吐きながら問いかける。
「入ってもいい?」
「あ・・・ああ、もちろん」
そのまま台所に向かうと、黒沢はスーツケースを開け始めた。
中から出てきたのは・・・・・・。
「ジャーン! 見て」
「え? 何これ」
「『家庭で出来る麺打セット』だよ」
「はあ?」
驚いて目を見開く安達の前に次々と中身が並べられる。
そこには、のし板、めん棒、こね鉢、めん切り庖丁、コマ板、「麺打ち入門」と書かれたDVDまである。
予想外の出来事にぽかんと口を開けてたたずむ安達に黒沢が微笑んだ。
「年越しそば、作ってあげる」
「や、作るって、麺から?」
―― まさか手打ち?
そんな本格的?
信じがたい表情で確認するように尋ねると黒沢は笑顔でうなずいた。
「うん、だから安達は座ってゆっくりしてて」
―― 年越しそば作るよ。
そう言われたのは数日前だ。
てっきり普通にスーパーで買ってきた麺で天ぷらそばでも作ってくれるのかと思っていたのだが、黒沢の考えることはいつも突拍子もない。
家から持ってきたエプロンを身に付け、機嫌よく鼻歌を歌いながら準備をする黒沢の背に、安達は小さく肩をすくめて言葉を掛けた。
「俺、なんか手伝おっか?」
振り向いた黒沢は目を細めたいつもの優しい笑顔で言葉を返した。
「ありがとう、でも俺一人で大丈夫。だから安達はゲームでもして待ってて」
実は安達と付き合うことになってから、いつか二人で年末年始を過ごしたいと思いネットで調べて買いそろえておいたのだ。
―― 届いてすぐに練習しといて
よかったぁ。
全体重をかけて麺をこねていると、いつの間にか額に汗が噴き出してきた。
そば粉と水を混ぜてこねるだけと言っても、しっかりとしたコシを出すためには、なかなか力のいる仕事だ。
首に掛けたタオルで汗を拭いながら、安達の「うんま!」を思い浮かべた黒沢は、背後でゲームに夢中になっている天使に気づかれないように、にんまりと笑った。
「すっげえ!」
やがて出来上がった艶やかで美味しそうな「ざる蕎麦」に安達は目を見張った。
実家では大みそかには毎年あたたかい「天ぷら蕎麦」を食べていたのだが、蕎麦本来の味を楽しむなら、やはり「ざる蕎麦」だろう。
「うんま!」
一口すすると安達は歓喜の声を上げた。
のど越しも風味も老舗のそば屋で売られているものかと思うほど完璧だ。
黒沢の器用さにはいつも驚かされる。
「よかったぁ」
安達の反応にホッと胸をなでおろしながら、黒沢も箸でそばをすくいあげた。
「初めて作ったから、自信なかったんだよね」
「ほんとに? すごいよ、これ」
決してお世辞ではない正直な感想だ。
そしてこの美味しさには黒沢の愛情がこもっている、そう思うと、いっそう幸せな気持ちになる。
「黒沢・・・・・・」
「なに?」
―― いつもありがとう。
正直に感謝の気持ちを伝えたいのに、たった一言が言い出せない。
それだけでは到底足りない気がするからだ。
「どしたの?」
不思議そうな顔で問いかける黒沢に、言葉の代わりに安達の頬を一筋の涙が伝う。
「え? どうしたの?」
「や、何でもない」
うつむいて首を横に振る安達に黒沢が慌てて問いかけた。
「もしかして、わさび辛かった?」
生のわさびをすりおろしたのだ。
予想通り香りもよくて美味しかったのだが安達には少し辛すぎたのだろうか。
もっと気をつけてあげるべきだった。
「ごめんね」
「ううん、違う。美味いよ、すごく」
「じゃあ・・・・・・?」
涙の意味が分からず困惑する黒沢に、顔を上げた安達は嬉しそうに微笑んだ。
「お前が傍にいてくれて、すっげぇ幸せだなと思って」
何の取り柄もない自分を黒沢は愛してくれた。
数え切れないほどたくさんの人間がいるこの世の中で、黒沢は自分を見つけてくれた。
どこかで一つボタンを掛け違えていたら、そして何より自分に魔法の力が無かったら、こんなにあたたかな時間を二人で過ごすことはできなかったかもしれない。
そう思うと、この瞬間が神様のくれた奇跡のように感じる。
「安達・・・・・・」
子犬のように潤んだ瞳が可愛くて、息をすることも忘れてしまいそうだ。
思わずキスしたくなる衝動を黒沢は辛うじて抑えた。
安達とのキスはとにかく最高のシチュエーションを用意しなければならないのだから。
―― やっぱりカウントダウンの後だよな。
世界中が盛り上がってる時に。
うん、そうだ。
だからその時には
安達の隣に座らないと。
この後の黒沢の妄想的な計画には微塵も気づかず、安達は真っ直ぐな瞳で微笑んだ。
「来年も、よろしくな」
「う、うん、こちらこそ」
いつまでもずっとこうして二人で穏やかな年越しを迎えたい、互いの存在に感謝しながら。
そんな安達の純粋な思いが伝わってくる。
「じゃあ、食べちゃおっか」
うながすように微笑むと、黒沢は壁に掛けられた時計にチラリと目を向けた。
「カウントダウンが始まる前に・・・・・・」
おしまい
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作者より
ここまでお読み頂きありがとうございます。
そして特に、拙い作品の数々に「いいね」を押して頂いたりコメントやメッセージを下さった皆さん、本当にありがとうございました。
素人の妄想小説に優しいお気遣いを頂き感謝しています。
皆さんのお陰で、こんな自己満足だけの作品でも読んで下さる方がいると思うと励みになり、休み休みではありますがなんとか書き続けています。
また来年も駄文を連ねていきますが、何卒よろしくお願い致します。
それでは
よいお年を
藤沢飛鳥