この小説はドラマ「SUPER RICH」の二次創作です。
EDテーマ 優里 「ベテルギウス」
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Scene-14
ドラマのあらすじは こちら
「もう一つのスーパーリッチⅡ」の目次は こちら
「もう一つのスーパーリッチ」の目次は こちら
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―― 気になること。
東海林の言葉を確かめるように繰り返しながら、衛は目の前に開かれたノートパソコンに目を向けた。
そこにはスリースターブックスの株価に関するデータが映し出されている。
「これって・・・・・・」
困惑と共に大きく目を見開く衛の背後で、同じように画面を凝視していた宮村がつぶやいた。
「我が社の株が買い占められていますね」
「ああ、そうなんだ。特にこの2週間、勢いが増してる」
相槌を打つ東海林に衛は矢継ぎ早に問いかけた。
「相手は法人? それとも個人?」
「それが・・・・・・M‘sコーポレーションっていうベンチャーみたいなんですけど」
「M‘sコーポレーション?」
実際に聞いたことのない名だが、一般的によくありそうな社名でもある。
それは裏を返せば会社の名前にそれほど思い入れがないことのあらわれだ。
「宮村君、知ってる?」
「いえ、初めて聞きます」
顔を見合わせて戸惑う二人に東海林が言葉を添えた。
「現時点で昨年企業したばかりのIT系の会社だということはわかったんですが、業務内容も曖昧だし企業買収のためのダミーの可能性もあります」
東海林の推測に衛は大きくうなずいた。
スリースターブックスは上場したばかりで規模も小さい。
だから株価もそれほど高くはないのだが創業年の浅い企業が買いに走っているということは、何らかの背景があると見た方がいいだろう。
「とにかく、もう少し監視していきます」
「うん、頼むね」
衛は力強くうなずいた。
普段はお調子者の印象が強い東海林だが、こと仕事に関しては信頼できる人間だ。
東海林が去ると、宮村が衛の考えを補足するようにつぶやいた。
「規模の小さい会社なら背後に資金提供している大企業が存在しているかもしれませんね」
「うん・・・・・・」
宮村の言葉を聞きながら衛は思い出していた。
以前、大手IT企業のMEDIA社からTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられたことがあった。
この件の主導権を握っていたのは衛のかつての上司だった取締役の島谷聡美だ。
あの時は皆で力を合わせてなんとかしのぎはしたものの、今回もそんな事態になってしまうかもしれない。
なにより、株を買い占めている相手方の正体がわからないことに不安がつのる。
「宮村君も、なんかあったらよろしく頼むね」
「もちろんです。お任せください」
互いに笑みを浮かべて目を合わせる。
あの大きな試練を皆で乗り越えた。
その経験が信頼関係を深め、社内の絆を強くすることにつながったのだ。
信じ合える仲間がいる。
そのことが何よりの心の支えだ。
「M&A(合併と買収)?」
「ああ、まだはっきりしたわけじゃないけど、会社の株が徐々に買い占められてる。だから今後はその可能性もあるかもしれない」
優の作った夕食を食べながら、宮村は眉をしかめた。
いつもなら、仕事で何か嫌なことがあっても優の料理を口にした途端、それまでのことを忘れたかのように笑顔になってくれるのに、余程深刻な事態なのだろうか。
「大丈夫なの?」
上目づかいで心配そうに問いかける優に、宮村は軽く首を横に振った。
「今はまだ何とも言えない。だから優も何か気になることがあったらいつでも言ってくれ」
「うん、わかった」
互いにうなずくと、話を変えるように宮村が笑顔で尋ねた。
「それで、最近はどう? 大学は」
「ああ、うん、この前サークルに顔出したよ。みんな気さくでいい人ばっかりだった。来週、俺の歓迎会開いてくれるって」
優が入ったテニスサークルの部室は、何棟もの校舎や6階建ての図書館、体育館や研究棟が立ち並ぶ広大なキャンパスの中にある部室センターの3階にあった。
「歓迎会、気軽に参加してくださいね。みんななんだかんだ理由をつけてただ飲みたいだけなんだから」
大学入学と同時にこのサークルに入った梓は、社交的な性格と年上であることからか、すっかりサークル内の中心的な存在になっているようだ。
隣にいた3年生で部長の三浦が梓に同意するように笑った。
「さすが梓さん、よくわかってる」
社会人から大学に入った自分達より年下なのに、三浦は気さくに梓のことを下の名前で呼ぶ。
ここはテニスサークルの形をとってはいるものの、どちらかと言えばテニスよりも遊び仲間と言った感じらしい。
会社にいる時とはまた違ういかにも大学生らしい平穏で伸びやかな雰囲気。
以前宮村が言ったように、こういう経験も悪くないと優は思った。
数日後、コンパの帰りに優は梓を送っていくことになった。
梓の住むマンションの最寄り駅を降り、人通りの少なくなった住宅街を並んで歩いていると、酔いのせいで頬を少し赤らめた梓が世間話の続きのような何気ない口調で問いかけた。
「春野さん、最近はどうですか? 彼氏さんとは」
「え?」
「あ、余計なこと聞いちゃった。ごめんなさい」
梓は肩をすくめると、両手を合わせて謝るような仕草を見せた。
「や、でも、どうして?」
予備校時代に皆の前で「恋人」の話を少ししたことはあるが、相手のことを男性とも女性とも言っていない。
なのになぜわかったのだろう。
戸惑う優に梓は当然知っているとでも言いたげに、軽くあごを上げて笑った。
「ふふ、合格発表の時に来てた背の高い方ですよね? すごいイケメンの。見た瞬間、すぐにわかりました」
「そっか・・・・・・」
確かに梓たちと会ったことを優は思い出した。
あの時は会社の先輩だと紹介したのだが、やはりわかってしまうものなのだろうか。
そして知られたからと言って隠すつもりもない。
「とっても素敵な彼氏さんですよね」
そう言うと、梓はその場で立ち止まった。
「でも、私・・・・・・」
顔つきと口調に少し緊張の色をにじませて、梓は優を真っ直ぐに見つめた。
「私、春野さんの<彼女>に立候補していいですか?」
―― 彼女。
その言葉を梓は強調するように少し強い口調で言った。
「え?」
突然の申し出に驚きを隠せない優に、梓は更に言葉を続けた。
「結婚してるわけじゃないし、私にも権利ありますよね?」
優は言葉を失った。
実は自分たちは「結婚」している。
けれどそれはあくまでも自己満足、法的拘束力のないものだ。
どれだけ深く愛し合っていても、世間的に認められた関係ではない。
そう考えると胸の奥がキュッとめ付けられる。
だが現実はどうであっても、宮村を愛する気持ちに一片の揺らぎもない。
「梓ちゃん、ごめんね。俺は・・・・・・」
優の言葉にかぶせるように、梓は少し早口になりながら言葉を続けた。
「わかってます。付き合ってほしいとか、そんなんじゃないんです。ただ、黙ってるのが苦しくて自分に嘘ついてるみたいで嫌だったんです。だからさっき言ったことは気にしないでください」
本心を打ち明けてスッキリしたのだろうか、梓の笑顔にはいつもの明るさが満ちていて、ほんの少しも悲壮感は無かった。
「でも、もし彼氏さんとうまくいかなくなったら、私のことも見てくださいね。それじゃあ、おやすみなさい」
言いたいことだけ言うと、ぺこりと頭を下げて梓が走り去っていく。
彼女は素直でいい子だと思う。
そしてその明るさも正直さも、見た目の可愛らしさも、もし自分が宮村と出会っていなければ、この告白は嬉しかっただろう。
だけど今は・・・・・・。
宮村以外の誰にも心を動かされることは無いのだと、優はあらためて確信していた。
同じ頃、会社の近くにあるBarでリリカは清美と二人で飲んでいた。
以前は零子と飲むことが多かったのだが、零子が東海林と付き合うようになってから自分の方から零子を誘うのは遠慮していた。
入社直後はどちらかと言うと地味で落ち着いた印象だった清美だが、最近は目に見えて綺麗になっている。
そしてその原因は・・・・・・。
「清美ちゃん、つらくないの?」
「え、何がですか?」
「だから、宮村さんと一緒に仕事してて」
~ to be continued