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「君は友達」③ 黒沢&湊
OPテーマ omoinotake 「産声」
EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love」
ドラマのあらすじは こちら
小説の<目次>は こちら
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その日、黒沢は仕事で六本木にあるテレビ局に来ていた。
ドラマの小道具で使用されている文房具は新製品の宣伝も兼ねているのだ。
無事に打ち合わせが終わり会議室を出ようとドアを開けると、そこに見慣れた顔があった。
「あれ? 湊君?」
「黒沢さん。こんにちは」
驚きを伴った笑顔で挨拶した後、湊は一緒にいた数人の仲間たちに声を掛けた。
「ああ、先、帰って」
「おう、じゃあな」
「うん、お疲れ」
互いに軽く手を振る湊に、黒沢が笑顔を向けた。
「奇遇だね、こんな所で会うなんて」
「はい、俺はバックダンサーの仕事で」
「そうなんだ、何の番組?」
「ミュージック☆パラダイスです」
「え、凄いじゃん」
黒沢は思わず声を上げた。
「ミュージック☆パラダイス」と言えば、金曜のゴールデンタイムに放送され、有名なアーティストも多数出演する大人気の音楽番組だ。
だが湊は少しだけ肩をすくめると、やや寂しげな口調で言葉を返した。
「や、たいしたこと無いです、シャドウですから」
「シャドウ?」
ダンス用語なのだろうか。
キョトンとした顔つきの黒沢に湊は、少しだけ早口になりながら答えた。
「セットの一部というか、大勢でアーティストの後ろで踊って、逆光だから顔とかもわかんないし」
バックダンサーの仕事はあくまでもメインのアーティストの引き立て役だ。
それでもアーティストにわずかでも絡んだり、並んで踊る振り付けならば少しは目立つこともあるが、今回の仕事ははるか後方で背景として踊る。
照明が当たることもない影のような存在。
だから「シャドウ」だ。
「そっか、でも、選ばれるのも大変なんでしょ?」
事前に行われたオーディションに参加したのは約300名。
そこから選ばれた20人の中に何とか入れた。
この仕事は、わずかだがギャラも貰える。
プロのダンサーとして食べていく第一歩だ。
そう思えば確かにネガティブなことばかりでもない。
「まあ、そう・・・・・・ですね」
「だったら、やっぱり凄いじゃん」
親友の六角から、先輩の黒沢は社内トップの営業マンだと聞いている。
だからだろうか、力強い言葉とその笑顔に励まされた気がする。
黒沢は人をいい気分にさせるのが上手だ。
「はい」
笑みを浮かべてうなずく湊に黒沢は言葉を続けた。
「よかったら、途中まで一緒に帰らない?」
「はい」
湊が返事をしたその時、黒沢の背後からスタッフの1人が駆け寄ってきた。
「あ、黒沢さん、帰るとこすいません。さっきの発注の件なんですけど、追加していいですか? それと、一部カラーの変更も」
「ああ、はい」
すぐに仕事の顔つきになった黒沢が、顔の前で軽く左手を上げ湊に謝る仕草を見せた。
「湊君、悪い。すぐ終わるから、少しだけ待っててくれる?」
「はい、じゃあ、ロビーで待ってます」
エレベーターホールに向かう廊下を歩きながら、湊は立ち止まると振り返った。
黒沢の周りには、さらに数人のスタッフらしき人間が集まっている。
背の高い黒沢はその中で頭ひとつ分飛び抜けていて、スラリと立つその姿がまるで黒沢が周囲の人間に指図しているかのようだ。
―――――――――――――――
ビルの1階にある広場は、天井に配された透明なガラスの大屋根からたっぷりと午後の日差しが差し込んで眩しいほどに明るい。
二人で地下鉄の入り口に向かって歩いていると、湊がふとつぶやくように言った。
「黒沢さんは凄いですよね」
「ん? 何が?」
問いかける黒沢を湊は尊敬と羨望の目で見上げた。
こうして並んで歩いていてもすれ違う女性の多くが黒沢の美しさに見惚れるように熱いまなざしを向けている。
「だってイケメンで仕事もバリバリこなしてるし、営業成績もトップなんですよね。俺なんて、やっと少しだけギャラ貰えるようになったばっかです」
言葉の最後に湊は寂しげに目を伏せた。
黒沢は湊の人形のように色白で愛らしい顔を見つめた。
ネガティブな表情にふと安達の姿が重なる。
―― 俺なんて
それはかつて安達からもよく聞いた言葉だ。
二人ともこんなに可愛くて周囲の人間から愛されているのに、天使たちは皆、自分に対しては自信がないものなのだろうか。
「柘植さんの話はいつも湊くんのことばっかりだよ。きっと柘植さんは、今の湊君が大好きなんだね」
黒沢の言葉に愛する人の笑顔が思い出される。
そうだ、柘植は何があっても自分のことを認めてくれる。
それが何よりも心の支えだ。
誰かと比べる必要なんてない。
柘植が傍にいてくれれば、それだけで幸せなのだから。
湊の顔から不安の影が消える。
「はい、この前、安達さんにもそう言われました」
「そっか」
互いに顔を見合わせて笑うと、黒沢がふと思いついたように言葉を続けた。
「今度また、うちで<たこパ>しようよ」
「あ、いいですね」
快諾した湊の頭に六角の顔が浮かんだ。
「そうだ、六角も誘っていいですか?」
「六角? あ、ああ・・・・・・いい・・・よ」
ほんの一瞬だけ開いた不自然な<間>を、湊は聞き逃さなかった。
「駄目・・・・・・ですか?」
「や、そんなことは・・・・・・ないけど」
不思議そうな顔を見せる湊に黒沢はこの場を取り繕うことを止めた。
湊は勘が鋭いようだ。
きっと嘘やごまかしはすぐに気づかれてしまうだろう。
「その・・・・・・六角は、ちょっと近いからさ」
「近い?」
「うん、なんかいつも安達のそばにいるっていうか ・・・・・・」
―― そんなこと言わないでくださいよぉ、
俺と安達さんの仲じゃないですかぁ。
オフィスでよく見かける光景だ。
冗談めかした言葉と共に安達に抱きついたり肩を寄せたりして、イラッとするほど馴れ馴れしい。
自分なりに一生懸命仕事をしている六角は後輩としては可愛いのだが、安達には近づいてほしくない。
黒沢の反応は意外だった。
それはあまりにもわかりやすい<やきもち>だ。
完璧な存在に思えた黒沢の思いがけず人間らしい一面。
湊は驚きつつもそんな黒沢を今まで以上に好きになった。
「じゃあ、俺達で包囲網作りません?」
「包囲網?」
「はい、黒沢さんと柘植さんの間に安達さん、反対側の黒沢さんと俺の間に六角。それで俺と黒沢さんで、六角が安達さんに話しかけるのを徹底的に阻止する ・・・・・・なんて、どうですか?」
「あはは、いいね」
素直に声を上げて笑いながら、けれどすぐに気づいたように黒沢は問いかけた。
「でも、それじゃあ湊くんと柘植さんが離れて座ることになっちゃうよ。いいの?」
「大丈夫です。俺達いつも一緒にいるし、柘植さんには俺から話しときます」
少しあごを上げて言うその口調は愛されている自信だろうか。
湊の表情に明るさが戻ったことに黒沢はホッと胸をなでおろした。
「そっか、じゃあ、お願いできる?」
「はい」
いたずらっ子のように目を輝かせる二人はまだ知らない、当日、六角が恋人を連れて来ることを。
そしてその相手は・・・・・・。
💖おしまい💖