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「君は友達」② 安達&湊

 

OPテーマ omoinotake 「産声

EDテーマ DEEP SQUAD 「Good Love Your Love

 

ドラマのあらすじは こちら

小説の<目次>は こちら

 

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「俺、ヤなんですよね、ああいうの」

 

「え? なにが?」

 

湊から相談事があると連絡をもらって、仕事帰りに秋葉原の駅前で待ち合わせをした。

 

そして二人並んで近くの居酒屋に向かって歩いている時のことだった。

 

不思議そうに尋ねる安達に隣を歩いていた湊がガラス玉のように艶やかな瞳で目配せする。

 

「ほら、あれ」

 

日の暮れた繁華街はサラリーマンや学生たちの群れに交じって、客引きのやや強引な声が響き渡る。

 

湊の視線の先に4.5人の女子高生たちの姿があった。

 

赤やネイビーのチェックのミニスカートにピンクやオレンジ色のリボン。

 

原宿の竹下通りあたりで売られている、いわゆる<なんちゃって制服>というヤツだろう。

 

ツインテールやパーマを施した明るい茶髪に目元を強調した派手めのメイクが、若さから清潔感を奪っている。

 

そして彼女たちは一様に安達と湊に興味ありげな目を向け、

 

「カワイイよねぇ、あの二人」

「うん、特に金髪のほう」

「あーわかるぅ♡」

 

肩を寄せ合いハートマークが混じった、かまびすしいささやきが聞こえてきた。

 

「カワイイとかって、男に向かって言うことじゃないですよ」

 

軽く頬を膨らませた湊が吐き捨てる。

 

それはまるで男としてまだ子供だと、半人前なのだと言われているような気がする。

 

これまでも度々耳にしてきたその言葉を、少し前なら気に掛けることもなく無視できたのだが、最近はそのひとことがやけにイライラする。

 

憤慨の顔色を浮かべる湊の一方で、安達はいかにも他人事と言いたげに冷静に言葉を返した。

 

「うん、まあ、そうだけど、湊君は確かに可愛いよ。特に柘植にとっては」

 

それは外見だけでなく中身のことだ。

 

湊は感受性が豊かで、意地っ張りなところもあるが根は純粋で素直なのだと親友の柘植から嫌と言うほど聞かされている。

 

あの堅物の柘植が湊の話をする時だけは思い切り頬を緩ませ、目を細めて声を上ずらせながら、延々と「いかに俺の天使が可愛いか」について気恥ずかしくなるほどの惚気話をするのだ。

 

そんな親友の様子が微笑ましい。

 

 

―――――――――――――――

 

 

湊が気軽な店がいいと言うので安達も時々行く学生のグループも多い大衆酒場を選んだ。

 

通されたBOX席に座りドリンクと料理の注文を終えると、かすかに湊が目を伏せながら思いを吐き出すように言った。

 

「この前、柘植さんにプロポーズされました」

 

「え、そうなんだ。おめでとう」

 

いつかはそうなるだろうと思っていたが、予想より早かった。

 

親友の柘植が幸せになるのは自分にとって何よりも嬉しいことだ。

 

安達は身を乗り出すようにして笑顔を見せた。

 

「よかったぁ。柘植ってさ、俺と同じで不器用で話下手で、それにちょっと変わったやつだけど、中身は誠実でホントいいやつなんだ。だからこれからも ・・・・・・」

 

―― これからも末永くよろしく。

 

将来を誓い合う二人を応援する言葉。

 

それを言い終わる前に、湊は浮かない顔で首を横に振った。

 

「湊君?」

 

怪訝な表情で名を呼ぶと、湊は強張った顔つきのまま目を上げた。

 

「俺、断るつもりです」

 

「ええ? どうして?」

 

安達の問いかけには答えず、湊は黙り込んでしまった。

 

二人とも言葉を失いしばらく重い沈黙が流れた後、ふと気づいたように安達が声を上げた。

 

「あ、そっか、そうだよね、湊君はまだ若いし」

 

考えてみれば自分も柘植も30代だが、湊はまだ20代前半、「結婚」と言う言葉は重い年頃かもしれない。

 

自分だってその年でこんな話があったら嬉しいよりも戸惑いの方が先だっただろう。

 

だが湊はすぐに大きく首を横に振った。

 

「違います。若いとか、そんなんじゃなくて」

 

まだ自由でいたいとか、縛られたくないとか、そんな理由ではない。

 

柘植からのプロポーズは心の底から嬉しかった。

 

けれど、今の自分は・・・・・・。

 

「この前、柘植さんが黒沢さんと電話で話してるの聞いたんです」

 

 

―――――――――――――――

 

週末、柘植の部屋に遊びに行った時のことだ。

 

柘植のスマホに出張先の黒沢から電話が入った。

 

最初は安達のお土産を何にしようか、そんな内容のようだった。

 

それがやがて何やら難しい話に・・・・・・

 

「なるほどな。そもそも日本の土産文化ってのは ・・・・・・」

           :

「そう、そう、そうなんだよ。やっぱり黒沢とは話が合うね」

           :

           :

「ああ、それは俺も使ってるが、最近の筆記具の傾向は ・・・・・・」

 

以前は敬語だった口調が、いつの間にか<タメ口>に代わっている。

 

いつからそうなったのか自分は全然知らなかった。

 

そのことがなんだか心に引っ掛かる。

 

それだけでなく何より気になるのが、その内容が<大人の会話>だということだ。

 

自分と二人でいるときの柘植はあんな話はしない。

 

そして柘植が声を立てて笑うたびに胸が苦しくなる。

 

 

―――――――――――――――

 

「俺、大学時代からずっとダンスばっかやってきて、バイトはしてたけどちゃんとした会社で働いたことないし。俺なんか柘植さんに相応しくないんじゃないかなと思って」

 

ずっと黙って話を聞いていた安達は心の中でうなずいた。

 

湊の戸惑いは自分も同じだった。

 

初めて黒沢の気持ちを知った時、何よりも最初に心に浮かんだのは、なぜ自分なのかという問いだ。

 

自分にとっての黒沢、湊にとっての柘植は、

 

  遥か先を行く存在。

  人として自分より何倍も優れた存在。

  何をやっても到底、敵わない存在。

 

その劣等感は同性だからこそ、より一層強く感じてしまうのだ。

 

だが・・・・・・。

 

安達は湊を見つめると穏やかに微笑んだ。

 

「柘植、最近本当に変わったよ。明るくなったし、それだけじゃなくて、なんていうか、世の中とちゃんと向き合おうとしてるって言うか」

 

湊と付き合うようになるまで、柘植の本当の世界は小説の中だけにある気がしていた。

 

現実の世界ではいつも透明の殻に閉じこもって誰とも深く関わろうとしない。

 

愛想笑いをすることも、堂々と正論をぶつけることもどちらも苦手だ。

 

それは自分に自信がなくて、誰かに傷つけられるのも誰かを傷つけるのも嫌だからだ。

 

だからそうなる前に他人とは一定の距離を取る。

 

それが柘植流の人との付き合い方だった。

 

安達と馬が合ったのも、同じ種類の人間だったからかもしれない。

 

けれど、そんな柘植が湊と恋人同士になって安達も驚くほど劇的に変わっていった。

 

「それって湊君のお陰だよね」

 

微笑む安達の言葉が、不安で冷え冷えとしていた湊の心にあたたかく染み込んでいく。

 

自分だって、自信をなくしていたダンスとこれからも向き合っていくと決めることが出来たのは柘植のお陰だ。

 

今は相応しくなくても、ゆっくり時間をかけて釣り合う自分になればいい。

 

安達の笑顔がそう言ってくれている気がした。

 

 

 

「俺、メガネを外した柘植さんの顔が大好きなんです」

 

大切なことを思い出したように湊はにっこりと笑った。

 

「意外とイケメンだからって言うだけじゃなくて、何かぐっと距離が近づいた気がして」

 

湊の言葉を聞きながら安達はふと考えた。

 

そういえば自分は柘植がメガネを外したところはあまり意識して見たことがない。

 

飲みに行った時に、ほんの時たま汗で曇ったメガネを拭くときだけだ。

 

だがそんな時も改めてまじまじとその顔を見つめたことは無い。

 

きっと湊の前ではこの上なく優しい顔をしているのだろう。

 

その緩み切った、けれど幸せそうな顔を想像しながら、安達が深くうなずく。

 

「うん」

 

湊の笑顔に安堵しながら、安達は思った。

 

―― 今夜、黒沢と結婚祝いの相談しなきゃな。






💖おしまい💖