林遣都さん大島優子さん、おめでとうございます💐

朝から嬉しいニュースを聞いて、今ブログはお休み中なんですが、思わず小説を1本書いてしまいました(笑)

おっさんずラブ小説「君に会えて・・・」の番外編です。

藤沢飛鳥

☆~~~☆~~~☆~~~☆~~~☆

番外編

小さな天使と大きな天使

このブログのトップページは こちら

第1話から最新話の<目次>は こちら

☆~~~☆~~~☆~~~☆~~~☆

 

前日の大雨に洗われて青空も空気も気持ちよく澄み切っていた。

 

玄関の扉を開け、眩しげに見上げた牧は、両手にたくさんのシンガポール土産が入った紙袋を持ったまま大きく深呼吸すると、後ろを振り返った。

 

「創一、大丈夫? 忘れ物ない?」

 

「おう、完璧!」

 

あごを上げて胸を張る春田の足元を見ると牧は肩を落として溜息ためいきいた。

 

―― やっぱりね。

 

もう慣れたと言わんばかりに眉をしかめると牧は落ち着いた声で言った。

 

「創一、靴下バラバラ」

 

「あ、やべ!」

 

慌てて2階へと駆け上がっていく春田を目で追いながら牧は首をかしげた。

 

靴下はいつも一足分を離れないようにキチンと織り込んでセットしてある。

 

なのに春田は時々、今日のように違う靴下を履いてしまうのだ。

 

以前から春田には左足だけ靴下を脱いでしまう癖があった。

 

だから酔っぱらって帰ってきた時には左の靴下だけが廊下に落ちていることがある。

 

酷い時には玄関で脱いだ革靴に靴下が入っているときもある。

 

なんとかこの悪癖を改善しなければ。

 

照れ臭そうな顔で階段を下りてきた春田の左足を確認しながら牧は心の中でうなずいた。

 

 

 

 

 

「みんな喜んでくれるといいな」

 

「うん」

 

春田の言葉に並んで歩いている牧も笑顔で返事をした。

 

シンガポールから帰国して一週間。

 

今日は週末を利用して牧の実家に二人で挨拶がてらお土産を持っていくことになったのだ。

 

母と妹には定番のTWGの紅茶にマカロン、マーライオンが可愛くデザインされたお揃いのTシャツ、父にはタイガービール。

 

そして家族全員分のシンガポール独特のカラフルな柄のマグカップ・・・・・・。

 

家族の顔を思い浮かべながら実家の扉を開けると、なんだかいつもと空気が違う。

 

それに・・・・・・。

 

「ンギャー!ンギャー!」

 

「は?」

「え?」

 

弾けるようなけたたましい泣き声に二人は顔を見合わせると、同時に言葉を吐いた。

 

「赤ちゃん?」「赤ちゃん?」

 

その時、廊下の突き当りにある台所から母が顔を出した。

 

「ああ、お帰りなさい」

 

笑顔のその手には哺乳瓶が握られている。

 

「ほら、あがってあがって」

 

事態を飲み込めずポカンとした二人が促されるまま居間に入ると、胡坐をかいた父の膝の上に、ピンク色のロンパースにくるまれバラ色の頬をした赤ちゃんが横たわっていた。

 

その傍らには顔をのぞき込むようにして妹のそらが座っている。

 

激しく泣き続ける子をあやしながら、それでも父はいつもの頑固なしかめ面とは打って変わってとろけるような笑顔を見せていた。

 

立ち尽くす牧と春田の姿に気づいたそらが声を上げた。

 

「あ、お兄ちゃん、お帰りなさい」

 

「ただいま、どうしたの? この子」

 

牧の問いかけにやっと顔を上げた父は笑顔のまま答えた。

 

「それがな、お隣さん、昨日親戚にご不幸があったらしくてな、急遽預かったんだ」

 

そこに、母がミルクの入った哺乳瓶を持ってやってきた。

 

父から赤ちゃんを受け取り膝に抱くと、慣れた手つきでミルクを飲ませ始める。

 

しばらくしてお腹が一杯になると、赤ちゃんはにっこりと愛らしい笑顔を見せた。

 

「かっわいい~」

 

思わず身を乗り出したのは春田だ。

 

「ねえ、ホントに赤ちゃんて可愛いわよね」

 

皆でうなずきながら、それでも牧だけはその顔にわずかな曇りが浮かんでいた。

 

 

 

久しぶりの母の手料理で夕食を終え土産話も盛り上がった後、帰途に就く頃には春田はすっかり赤ちゃんになついていた。

 

赤ちゃんがなついたのではない。

 

春田の方がなついているのだ。

 

いつまでも名残惜しそうに赤ちゃんの傍を離れようとしない春田に、牧は呆れぎみに声を掛けた。

 

「創一、そろそろ帰るよ、明日仕事だろ」

 

そう、営業所勤務の春田は本社勤務の牧と違って土日が休みではない。

 

明日も住宅展示場での仕事があるはずだ。

 

今日は牧のために休みを取ってくれたのだ。

 

「あ・・・・・・うん、そうだな」

 

家族皆で玄関先まで見送りに来てくれたものの、春田の視線はずっと赤ちゃんに注がれている。

 

「じゃあね、バイバイ」

 

最後まで手を振る春田に、牧の母は優しく微笑んだ。

 

「創一君、この子を持って帰りそうな勢いね」

 

もし息子たちの間に子供がいたら、春田はきっと子煩悩な父親になったに違いない。

 

そうすると息子の凌太はやはり母親役だろうか。

 

現実味のない幸せな夢想を思い描く。

 

 

 

 

 

夜の10時を回った住宅街は人通りもまばらだ。

 

駅から家までの道を並んで歩きながら春田が上機嫌で同じ話を繰り返す

 

「マジ可愛かったよなぁ、やっぱ赤ちゃんて、めちゃめちゃ癒されるよな。小さな天使っつーか」

 

春田を見つめると、牧は立ち止まり静かに口を開いた。

 

「・・・・・・あのさ」

 

「ん?」

 

「創一は、やっぱ赤ちゃん欲しい?」

 

男同士の自分達にとってそれは永遠に叶えることのできない望みだ。

 

こんなことを聞いても春田は返事に困るだろう。

 

バカなことを聞いてしまったと牧は思った。

 

だが春田から帰ってきた答えは意外なものだった。

 

「や、別に要らね」

 

「え?」

 

予想とは異なる返事に戸惑いの表情を浮かべる牧に、春田は真剣みを帯びた顔つきで言葉を続けた。

 

「だってさ、俺には・・・・・・」

 

言いながら牧に向き直ると、春田はいきなり牧の身体を抱き上げた。

 

「ちょ! 何すんだよ!」

 

深夜、人通りがほとんどないとはいえ、ここは外だ。

 

当惑するように手足をじたばたさせる牧に春田は平然とした顔つきで言葉を続けた。

 

「俺には、もういるからさ」

 

「はあ?」

 

相変わらずチワワみたいに大きな黒目を見開いて首をかしげる牧に、春田はニヤリと笑った。

 

 

 

「ここに、大きな天使が」

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ

 

 

~~~~~~~~~~

 

作者より

 

「君に会えて・・・」<第二章>に続きます。

大島優子さんのご懐妊のお祝いに<アメンバー様限定>を解除しました。

「おっさんずラブ」をご存じでない方にもご理解いただける内容です。

拙い作品ですがお読み頂けると幸いです。