※画像はPixabayさんからお借りしています。
この小説は
映画「チェリまほThe Movie」の二次創作です。
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「結婚式にご招待」⑤
~ 大切なあなたへ ~
OPテーマ DEEP SQUAD 「Gimme Gimme」
EDテーマ omoinotake 「心音」
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小説の<目次>は こちら
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新大阪に向かう新幹線の車内で、窓の外を流れていく景色を見るともなしに見つめながら黒沢は心の中で溜息を吐いた。
今日、二人のことを浦部が課長の加藤に伝えることになっている。
※ 課長のお名前が分かりませんでしたので
この役を演じられた俳優の加藤大騎さんの
お名前を参考にさせて頂きました。
だが人任せにせずやはり自分たちの口から言うべきだっただろうか。
「任せとけ!」
浦部は笑ってそう言ってくれたがやはり心配だ。
日頃、浦部は課長の言葉に絶対服従の態度を取っているからだ。
ふと、黒沢の頭に数年前の光景が浮かんだ。
「課長、確か提出は来週のはずじゃあ?」
自分に非がないことを確認するように問いかける浦部に、加藤は悪びれることもなく平然と言葉を返した。
「明日、朝には必要なんだ。頼んだよ」
言葉は柔らかいものの、その口ぶりには否と言うことを決して認めない威圧感があった。
「わ、わかりました!」
不本意な思いをぎこちない笑顔で隠すと、浦部はファイルを受け取った。
そのまま自分の席には戻らず、安達の隣に腰を下ろす。
少し離れた席から事の顛末を見守っていた黒沢には二人がどんな会話を交わしているのか聞こえなかった。
だが夜、外回りからオフィスに戻ると、心配していた通り照明が消えたフロアで安達の席のあたりだけ明かりがついていた。
「まだ残ってたの?」
背後から声をかけたとき、振り向いた安達が驚いたように目をパチパチと瞬かせる。
その困惑した顔が愛おしくて、半ば無理やり仕事を手伝った。
あの時、それまでずっと立ち止まっていた自分が勇気を出して一歩踏み出すことができた。
そう考えれば課長のむちゃぶりが、自分たちの距離を縮める最良のきっかけになったのかもしれない。
―― 安達、いい匂いする。
口にはしていないのに、怯えたように背を丸めていた安達。
今にして思えば自分の心の声を、エロい妄想も含めて全部聞かれていたのだ。
黒沢は照れ臭さで湧き上がる思い出し笑いを、隣に座る同僚に気づかれないようポーカーフェイスの下に隠した。
―――――――――――――――
「課長、少しお時間よろしいでしょうか。昼食の前にお話したいことがあるのですが」
「ん? なんだ?」
昼休憩を取ろうと席を立った加藤は、いかにも訝しげに問いかけた。
そこにいたのは浦部だけでなくその背後に神妙な顔をした藤崎と六角が控えていたからだ。
「あの、出来れば会議室のほうでお願いしたいのですが」
周囲の人間には聞かせたくない。
もし反対されたら、大阪出張で3日間ほど留守にする黒沢はともかく、安達が公然と非難されるかもしれない。
だから安達には少し時間のかかる「おつかい」を頼んである。
「なんだ、えらく仰々しいんだな」
10人程度で使用する小会議室で加藤が奥に、その正面に浦部、その両隣に藤崎と六角が座った。
「で? なんだ、話って」
昼休みという時間帯を選ぶのは明らかに仕事の話ではないだろう。
最近はセクハラだのパワハラだの、コンプライアンス違反だの、中には些細なことで告げ口に近いことを言ってくる者もいる。
仕事帰りに飲みに誘うのでさえ、強要だのプライベートの時間だのと言われて声をかけづらい。
昨日までは大丈夫だったことが今日は「〇〇ハラ」と言われるご時世だ。
―― まったく、面倒な時代になったもんだ。
諦めにも似た気持ちで問いかける加藤に浦部は緊張気味に話を切りだした。
「実は安達と黒沢のことなんですが・・・・・・」
そう言ったきり、浦部は黙り込んでしまった。
さすがに男同士の二人が結婚するとは言いづらい。
しばらく沈黙が続いた後、しびれを切らした六角が身を乗り出した。
「お二人が結婚するんです!」
「はあ? 結婚?」
予想通りの反応を見せる加藤の顔色に浦部が慌てて言い訳する。
「や、その・・・・・・最近ではそれほど珍しいことでもありませんし、いや、まあ我が社ではレアケースと言えなくもないんですが ・・・・・・」
加藤は大きく息を吐いて腕組みすると、渋い顔つきで目を伏せ黙り込んだ。
心配そうに見守っていた藤崎が援護射撃のように言葉を添えた。
「二人は本当に純粋に愛し合っていて、お互いのために頑張っています。だから仕事にもいい影響があるんじゃないでしょうか」
「そうですよ。黒沢さんだって安達さんだって、お互いがいるから仕事に邁進できてると思います!」
意気込む六角とは対照的に浦部は重い空気をとりなすように、ぎこちない笑顔を作った。
「と、とにかく我々は仕事仲間として、二人の前途を温かく見守ってやりたいというか ・・・・・・」
しばらく目を閉じて考え込んでいた加藤がやがて目を開けた。
「で?」
威圧的な口調に三人がすくみあがる。
やはり反対されるのだろうか。
息をのんで不安げに見つめる三人に順番に目を合わせると、強張った表情のまま加藤は吐き捨てるように問いかけた。
「俺は何をすればいいんだ? スピーチか? それとも仲人か?」
「え?」
思いがけない言葉に三人はキョトンとして互いに顔を見合わせたが、やがて六角が口を開いた。
「あ、あの・・・・・・」
いかにも信じがたいと言いたげな顔つきの六角に加藤は平然と言葉を返した。
「なんだ?」
「その、どちらかが移動とか出向とか、そういうの無いですよね?」
確認するように問いかける六角に加藤は冷静に言葉を続けた。
「それはわからん。お前たちにだってその可能性はある。だが男同士で結婚したからと言って、それだけで無理に配置転換なんかせんよ」
言葉の終わりに加藤は、やっと笑顔になった。
「いずれにしろ、今度二人でうちに挨拶に来いと言っておけ」
つられて浦部たち三人の顔にも安堵の笑顔があふれた。
「はい!」
―――――――――――――――
遅い昼食をとるため会議室を出ると、六角が弾んだ声でスマホを取り出した。
「俺、黒沢さんに連絡します。きっと心配してると思うんで」
「じゃあ、私は安達君に」
二人を残して加藤と浦部が歩き出すと、浦部は笑みを浮かべつつも未だ信じがたい口ぶりで言った。
「でも、まさか課長が二人のことを認めて下さるとは・・・・・・」
「ははは、俺だってただの朴念仁じゃない。二人が真剣に将来のことも考えて付き合ってるなら、野暮は言わんさ」
「はい」
安堵と共にうなずきながら、浦部は昔のことを思い出していた。
6年前、今は妻となっている由美との間を取り持ってくれたのが加藤だ。
30歳になっても未だ誰とも付き合ったことのない浦部を心配して、取引先を始め、ありとあらゆるところに声をかけてくれていたのだ。
その中で浦部が担当している大手雑貨店の受付をしている由美を上司を介して紹介してくれた。
もちろんその会社に度々足を運んでいる浦部は由美とは顔見知りで、その美しい笑顔に心惹かれてはいたのだが、少し勝ち気そうな雰囲気に尻込みしてなかなか声をかけられずにいた。
加藤はそのことに気づいてくれていたのだ。
そして実は当時の浦部は触れた人の心が読めた。
浦部が安達に話した都市伝説は本当だったのだ。
由美と付き合うようになって、その手に、その肩に触れるたび、由美が実は純粋で優しい心の持ち主であるとわかった。
3年付き合ってプロポーズした時、由美は輝くような笑顔で「はい」と答えてくれた。
今ではもったいないほど幸せな毎日だ。
だから浦部にとって加藤はいわば恩人でもある。
決して逆らえないのはそのせいもあった。
「でもまあ、黒沢はともかく安達に恋人ができて本当によかったな」
「はい、実は僕もずっと心配してました。30過ぎても一人だったし ・・・・・・」
互いにうなずきながら顔を見合わせて笑うと、ふと気づいたように加藤が立ち止まった。
「ああ、ところで浦部、知ってるか?」
「はい?」
加藤は背の高い浦部を見上げるとニヤリと笑った。
「30歳まで童貞だと、魔法使いになっちまうんだぞ」
「えっ? か、課長?」
意味ありげな笑みを浮かべたまま歩き出す加藤の背に問いかけた時、背後から笑顔の藤崎と六角が駆け寄ってきた。
おしまい
作者より
最後までお読み頂きありがとうございました。
拙い作品に「いいね」を押して下さった皆様、ありがとうございます。
文才も語彙力もセンスもない私には、本当に「書く原動力」になっています。
ラストに関しては色々と試行錯誤したのですが、
以前、
「『これを見るとチェリまほTHE MOVIEをもっと見たくなるらしい』 PART 2」
のインタビューで浦部役の鈴之助さんが
「『 昔、浦部が実は魔法使いだったんじゃないか 』と考えて下さるファンの方がいて ・・・・・・」
とお話しをされていて、もしそうだったら優しさの連鎖が生まれているようでとても素敵だなと思い、急遽取り入れました。
ここまでの長文をお読み頂いて本当にありがとうございました。
藤沢飛鳥