※画像はPixabayさんからお借りしています。 

 

この小説は

映画「チェリまほThe Movie」の二次創作です。

 

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「結婚式にご招待」④

~ 浦部健吾 様 ~

 

OPテーマ DEEP SQUAD 「Gimme Gimme

EDテーマ omoinotake 「心音

 

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小説の<目次>は こちら

 

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「安達ぃ~」

 

昼休憩を終え、午後の仕事に取り掛かろうとしていた時、背後から聞こえて来た先輩の浦部の声に安達は身をすくめた。

 

浦部が猫なで声を出すときは大抵<よからぬ話>だ。

 

眉をひそめる安達の猜疑心さいぎしんには微塵も気づかず、そのまま浦部は擦り寄るように身体を近づけると肩を抱き寄せ、耳元にささやいた。

 

「俺にさあ、なんか隠してることない?」

 

もしかして黒沢とのことを気づかれただろうか。

 

いずれは話すつもりでいたのだが、やはり藤崎や六角の時のようにすんなりと受け入れてはもらえないだろう。

 

そう思うと浦部には真実を言い出しかねていた。

 

けれど、このまま黙っているわけにもいかない。

 

「や、実は、その・・・・・・お話したいことがあって」

 

「だよなぁ。うん、わかった。じゃあ、今日仕事が終わったら、いつもの店な」

 

一人で納得し一人で予定を決めると、浦部はさっさと自分のデスクに戻っていった。

 

―――――――――――――――

 

その夜、浦部はいつもの居酒屋で、いつもの大部屋やテーブル席ではない個室を予約しておいてくれた。

 

店の前で、安達から連絡を受け慌てて駆け付けた黒沢の姿を見ても、

「お、来たか」

そう一言だけ言うと、特に驚いた様子もなくそのまま部屋へと向かう。

 

黒沢と二人で浦部の正面に座ると強張った表情の安達が恐る恐る口を開いた。

 

「浦部さん、実は俺たち、その・・・・・・」

 

たった一言を言うのが躊躇ためらわれる。

 

だが隠しておくのは嫌だ。

 

自分たちは真剣に愛し合い、結婚も考えている。

 

そのことは誰にも恥じることは無いのだから。

 

安達が言い終わるのを待ちかねたように浦部がその先を続けた。

 

「付き合ってんだろ? で、結婚式も挙げるって?」

 

全てをお見通しと言った口ぶりの浦部に安達と黒沢が戸惑いの表情を浮かべる。

 

そんな二人を見て浦部はニヤリと笑った。

 

「見てりゃわかるよ。お前ら、めちゃめちゃわかりやすいもん。なんかこうピンクのオーラが出てるっつうか」

 

そう、二人の仲がただの同期以上のものであることは前から気づいていた。

 

そして曖昧な疑念が確信に変わったのが今日だ。

 

 

 

昼休み、フロアの片隅でひそひそ話をしているかのような藤崎と六角の姿に気づいた。

 

不審に思いそっと近づいて聞き耳を立てていると、聞こえてきた言葉は「安達」「黒沢」そして「結婚式」だった。

 

 

 

手にしていたジョッキを軽く掲げ、浦部はこれまでに見たことのないような優しい笑顔を浮かべた。

 

「とりあえず、おめでと」

 

再び乾杯するかのようにビールを一口喉に流し込むと、浦部は感慨深げに言葉を続けた。

 

「俺は嬉しいよ、黒沢と付き合うようになってから、安達、すっごく成長したもんな」

 

大人しくて不器用で、けれど今時の若者にしては珍しいほど真面目で誠実な後輩に、実はずっともどかしさを抱えていた。

 

女の子と遊ぶでもなく、ただただ会社と家を往復する毎日。

 

そんな安達にいつからだっただろう、死んだ魚のように色の無かった瞳に輝きが溢れ、仕事に対する取り組みもこれまでとは全く異なる前向きな姿勢が見られた。

 

背を向けていても幸せそうな笑顔が見えるようだ。

 

それは仕事への意欲と言うだけでなく、何かもっと大事なものを秘めているかのようだった。

 

今にして思えばその大事なものは黒沢だったのだ。

 

以前、

 

「お前、彼女できた?」

 

いかにも幸せそうなオーラに包まれている安達にそう問いかけた時、安達は答えをはぐらかした。

 

その相手が黒沢かもしれないと気づいたのはその日から数か月経った頃だった。

 

「一人の人間として立派になったっつうか。とにかく成長した。うん」

 

「ありがとうございます」

 

安達は自分でも気づかないうちに目を潤ませながら礼を述べた。

 

何だかんだ言っても自分のことをよく見てくれている。

 

やはり浦部は得難い先輩だ。

 

けれど次の瞬間、安達の顔にわずかな影が差した。

 

「でも・・・・・・」

 

「どした?」

 

「俺達のことが会社にわかったら、やっぱ配置転換とかありますよね?」

 

配置転換だけで済むだろうか。

 

最悪の場合どちらかが子会社に出向させられるなど、明らかに距離を取らされるかもしれない。

 

不安げな安達の問いかけに浦部の顔にも困惑の色があらわれる。

 

ジェンダーレスという言葉が世間的に認知されても、日本の企業の中で男同士のカップルはまだまだ異質だ。

 

自分だって安達や黒沢の人となりを知っているからこそ祝福できるが、よく知らない相手であれば奇異な印象を持っただろう。

 

浦部は考え込むように息を吐くと、悩ましげに眉間にしわを寄せた。

 

「まあ、これまでに例がなかったから俺には何とも言えないけど・・・・・・」

 

是とも非ともすぐには答えられない。

 

けれど二人を応援したい、その気持ちだけは確かだ。

 

「でも、お前たちの事は俺から課長に言っとくよ。結婚式のこともな。ちゃんとした挨拶はその後に二人で行ったらいい」

 

浦部の言葉はありがたいが、迷惑を掛けたくはない。

 

安達は思わず首を横に振った。

 

「けど、それじゃ浦部さんに迷惑が・・・・・・」

 

自分たちのことで浦部まで変な目で見られることになったら・・・・・・。

 

恐縮する安達を励ますように浦部は豪快に笑った。

 

「あはは、今さらなに遠慮してんだよ。俺とお前の仲だろ」

 

日頃から保守的な考えを持つ課長のことだ。

 

いきなり二人から話せば、受け止めきれずに気が動転するのがオチだ。

 

だからまずは第三者が客観的に伝えたほうがいい。

 

あくまでもごく自然に、当たり前のことだと言わんばかりに。

 

浦部のそんな目論見を黒沢はとっさに理解した。

 

そして安達に目を向けると浦部に同調するようにうなずいた。

 

「うん、俺もそのほうがいいと思う。浦部さん、よろしくお願いします」

 

真剣な黒沢の顔つきに応えるように浦部も深くうなずいた。

 

「わかった、まかせとけ。もし課長が何か言ってきたら、こう言ってやるよ」

 

浦部は堂々と胸を張り、軽くあごを上げた。

 

さらに少し斜めに構えたその姿はいかにも自信に溢れたトップ営業マンとしての黒沢を真似しているかのようだ。

 

 

「何か問題でも?」

 

 

惚けた浦部の顔つきが可笑しくて、安達と黒沢も思わず笑い声を上げた。

 

「ふふ・・・・・・」

「あはは・・・・・・」

 

部屋の中に三人の明るい笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ

 

 

 

 

 

作者より

 

ここまでお読み頂きありがとうございます。

この作品は映画「チェリまほThe Movie」に感動し、熱い気持ちのままほとんど思いつきで充分な推敲もせず書き連ねた駄文です。

なので今読み返してみるとお恥ずかしい限りですが、根気強く最後まで読んで下さった方々には心から感謝感謝です。

特に「いいね」を押して下さった皆さん、いつも本当に励みになってます。

毎回皆さんのお顔(アイコン)を思い浮かべながら書いてます(笑)

 

当初はここで終わるつもりだったのですが、実は今日、もう一人大事な人物を忘れていることに気が付きました。

それは安達と黒沢の運命を決定づけるきっかけとなった「あの方」です。

もちろん結婚式にも出席されているので招待状をお送りしなければなりませんよね(笑)

 

ただ、本当に気が付いたのが今日なので、まだ全く白紙の状態です。

今週末に頑張って書きますので、よろしければ週明けにお立ち寄り頂けると幸いです。

 

藤沢飛鳥