※画像はPixabayさんからお借りしています。 

 

この小説は

映画「チェリまほThe Movie」の二次創作です。

 

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「結婚式にご招待」③

~ 藤崎 希 様 ~

 

OPテーマ DEEP SQUAD 「Gimme Gimme

EDテーマ omoinotake 「心音

 

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「うーん、どうしよっかな・・・・・・」

 

今日は休日。

 

いつもなら朝食の後、午前中はまったりしながら午後から買い物に行こうか、それとも近くの公園を散歩しようか、色々と楽しい計画を立てるところだ。

 

なのに今朝は黒沢が朝からずっとスマホを見つめて難しい顔をしている。

 

もし仕事のことなら邪魔をしてはいけない、そう思ってそっとしておいた安達だが、やはり心配になって声を掛けた。

 

「どうしたの?」

 

尋ねる安達に黒沢がやっと顔を上げた。

 

「うん、今度、藤崎さんに結婚式の話をする時、どの店がいいかなって思って」

 

二人が付き合っていることは、いつの間にか藤崎に気づかれていた。

 

そして特に黒沢は安達のことで何かある度に、藤崎に相談していた。

 

その度に藤崎は、それがどんなに些細なことであっても親身になって考えてくれた。

 

彼女は聡明で物事の本質をよく見ている。

 

だからこそ上辺だけの生半可な店に連れていくことはしたくない。

 

銀座か代官山の高級寿司店か、それとも青山で人気のフレンチレストランにしようか、未だに場所すら決めかねていた。

 

「そっか、俺はそういうのよくわかんねえけど、どこに決めても黒沢が一生懸命に考えたトコなら、藤崎さんは気に入ってくれるんじゃないかな」

 

愛らしい笑顔を見せる安達の言葉は一瞬で黒沢の心を軽くしてくれた。

 

高級店でも有名店でもなく、これまで二人のことを見守ってくれた藤崎に感謝の気持ちを込めて選べばいい。

 

そしてその思いを藤崎はちゃんと受け止めてくれる女性だ。

 

そう言われている気がした。

 

「うん、そうだね」

 

 

―――――――――――――――

 

 

散々迷って、黒沢が決めたのは神楽坂の路地裏にある知る人ぞ知る老舗の懐石料理の店だった。

 

そこは閑静な住宅街の中の一軒家で、二階にある三部屋しかない個室をキャンセル待ちで何とか予約できた。

 

 

 

「このお椀、おいしい」

 

それはくず粉でとろみをつけた海老しんじょの椀物が出された時だった。

 

じっくり味わいながら目を輝かせる藤崎に安達が言葉を添えた。

 

「藤崎さんが言うと、本気でうまそうに聞こえるね」

 

「だって本当においしいんだもん。お出汁が上品な味でなんかホッとする」

 

「や、なんていうか平仮名の<おいしい>じゃなくて、漢字の<美味>って感じ」

 

安達の隣で黒沢もうなずいた。

 

「ああ、わかるな、そう言うの」

 

藤崎の人の心を和ませる柔らかくて暖かな雰囲気は、きっと心の美しさから来ているのだ。

 

「そお?」

 

はにかんだ笑みを浮かべた藤崎はそのまま箸をおくと、二人を真っ直ぐに見つめた。

 

「ところで、今日は何の話?」

 

「うん、実は・・・・・・」

 

 

 

黒沢の話は予想していた通りだ。

 

二人の結婚式。

 

きっとそれは様々なものを乗り越えてやっとたどり着いた場所だろう。

 

そしてこれからも二人寄り添って生きていくという覚悟の場でもある。

 

そんな二人を心から祝福したい。

 

「そっか、おめでとうございます」

 

「ありがと」

「ありがとう」

 

幸せそうに微笑んで、ピタリと息を合わせて言葉を返す安達と黒沢の顔を藤崎は交互に見つめた。

 

「いいなぁ。私も恋したくなっちゃった」

 

これまでずっと二人のことを見てきた。

 

自分は元々、いわゆる「腐女子」ではない。

 

そして「恋愛」にも積極的ではなかった。

 

だがいつ頃からか、遠巻きに安達を見つめる黒沢の切ない表情が気になり始めた。

 

そしてそんな黒沢と距離を縮めるたびに、安達が少しずつ卵の殻を破って外の世界に飛び出そうとするヒナのように、人として成長していくのが感じられた。

 

誰かを好きになることの素晴らしさも、そして厳しさも二人に教えられた気がする。

 

「藤崎さんならきっと素敵な恋ができると思う」

 

必死な顔つきで励まそうとする安達に藤崎はにっこりと笑った。

 

人を思いやることが出来るのは心に余裕があるからだ。

 

そして黒沢から深く愛されていることで安達にその余裕が生まれているのだろう。

 

「ありがと。でも、まずは相手を見つけなきゃね」

 

「相手かあ・・・・・・案外、近くにいるかも」

 

ニヤリと笑った黒沢が隣にいる安達に同意を求めるように目配せした。

 

「な、安達」

 

「え?」

 

一瞬、戸惑いの表情を見せた安達は、けれどすぐに黒沢の真意に気づいてうなずいた。

 

「ああ、そうかも」

 

最近、後輩の六角が仕事にかこつけて何かと藤崎にまとわりついているのを知っている。

 

それは飼い主を慕う子犬のようでなんとも微笑ましい。

 

言葉にしなくても互いの気持ちがわかったかのように二人で目を合わせて微笑むと、藤崎だけがキョトンとした顔をした。

 

 

―――――――――――――――

 

「藤崎さん、今日飲みに行きません?」

 

数日後、終業時刻の少し前、顧客アンケートの資料を届けに来た六角の誘いに藤崎は笑顔で快諾した。

 

藤崎は事前に聞いていたらしく、安達と黒沢の結婚式については話がスムーズに運んだ。

 

「じゃあ、二次会の件は私もお手伝いするから何でも言ってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

笑顔で言葉を返した六角だったが、次の瞬間その顔に少し影のある憂いの色が浮かんだ。

 

「どうしたの? 何かあった?」

 

問いかける藤崎を正面から見つめると、六角は一度深く息を吐き、そして真顔で口を開いた。

 

「藤崎さん、これからも俺の相談に乗って貰えませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

軽く返事をする藤崎に反比例するかのように、六角の声がいっそう真剣みを帯びた。

 

「ずっと、お願いしたいです」

 

「はいはい、先輩として色々アドバイスしてあげるよ」

 

「や、先輩としてじゃなくて」

 

「え?」

 

真意を測りかねて藤崎が怪訝けげんな目を向けると、六角はその先を言い淀むように言葉を詰まらせた。

 

「その・・・・・・」

 

もしかしたら藤崎には迷惑かもしれない。

 

だが自分の心の中で日に日に大きくなる思いを隠し続けることはできなかった。

 

「恋人として」

 

「恋人?」

 

真剣な瞳で見つめている六角にどう返事をしよう。

 

今、心に浮かぶのは「YES」でも「NO」でもない。

 

けれど純粋に自分を慕ってくれる六角を、ただの後輩以上に可愛いと思うのも事実だ。

 

藤崎は口元に手を当てると考え込んだ。

 

今度は自分が黒沢と安達に相談することになりそうだ。

 

 

 

 

 

ドキドキおしまいドキドキ