この小説はドラマ「SUPER RICH」の二次創作です。

EDテーマ 優里 「ベテルギウス

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Scene-8

ドラマのあらすじは こちら

「もう一つのスーパーリッチⅡ」の目次は こちら

 「もう一つのスーパーリッチ」の目次は こちら

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思いもかけない申し出に宮村が確かめるように問いかけると、衛は軽くうなずいた。

 

「うん、宮村君は私の秘書の仕事もしてくれて、ほんまにようやってくれてるけど、もうひとり女性がいたほうがええと思うんよ」

 

言いながら、衛は少し寂しく笑った。

 

「なんだかんだうても、日本はまだまだ男社会やからね」

 

女性社長の衛の傍ら、秘書として若い男性の宮村がいることを快く思わない経営者も多い。

 

これまでは取引先に合わせて、必要ならば零子に同行してもらっていたが、主に財務を担当している零子にそうそう手を煩わせてばかりもいられない。

 

宮村にしても様々な案件を抱えている。

 

やはり専任の秘書が必要だ。

 

「わかりました」

 

急な提案に戸惑いながらも言いたいことはわかる。

 

それに宮村にとって衛の命令は絶対だ。

 

宮村は先程から神妙な顔つきで衛の隣に佇んでいる安達清美に目をやった。

 

「よろしくお願いします」

 

緊張しているのか強張った笑顔で深く頭を下げた清美は艶やかな黒髪を後ろで束ね、黒のリクルートスーツ姿が新入社員らしく初々しい。

 

だが、秘書として衛に同行するのであればこの格好はあまり望ましくない。

 

どうしたものか考えあぐねていると、衛が宮村の思いを察したように笑った。

 

「まあ、秘書としての立ち居振る舞いは今吉に任すとして、宮村君には業務全般のことをお願いするわ」

 

「かしこまりました」

 

 

 

午後、宮村は零子を伴い、清美の外見を整えに行くことにした。

 

「ちょっと外、出てきます」

 

衛から必要軽費として清美の洋服代を渡されている。

 

「とりあえずスーツを2着、用意したげて」

 

さすがに若い女の子のファッションはわからない。

 

零子と一緒に仕事用としての清美のスーツを買いに行くことになった。

 

「じゃあ行くよ、安達さん」

 

「はい」

 

宮村と零子の後ろを両腕でカバンを抱きかかえるようにしてあたふたとついていく清美の姿を優は視界の端で見送った。

 

宮村の近くに女の子がいることに、何となく心がざわついていた。

 

 

 

 

 

丸の内にあるスーツ専門のテーラーは零子が時々利用している店だ。

 

試着室の横に置かれたソファーに座ると零子が口を開いた。

 

「衛、あの子に相当期待しているみたいね」

 

「・・・・・・そうですね」

 

会社の業績も順調な今、確かに衛には専任の秘書が必要だ。

 

だがそれは自分が衛のそばにいる時間が減ることにもつながる。

 

これまで陰になり日向になり衛を支えてきたのは自分だという自負がある。

 

その立場を奪われてしまうことはやはり少し寂しい。

 

更衣室から出てきた清美は明るいベージュのスーツがよく似合っている。

 

よく見るとスタイルもよく、大きな黒い瞳が人目を引く。

 

身に着けているそのスーツは宮村が見立てた。

 

てっきり零子が選ぶものとばかり思っていたのだが、

 

「宮村君は他社の秘書さんをたくさん見てきてるし、私よりセンスも若いと思うわ」

 

そう言われて断れなかったのだ。

 

「あとは髪ね」

 

宮村の隣で満足そうに零子がうなずいた。

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

オフィスの入り口で零子と宮村の後に続く清美に皆が感嘆の声を上げた。

 

真新しいスーツ姿に緩めのパーマをかけた長い黒髪。

 

午前中とは打って変わって大人っぽく、垢抜けた印象だ。

 

「へえ、見違えたよ」

 

「ほんと、そのスーツよく似合ってる」

 

皆が口々に賛美の言葉を述べながら、恥じらうように頬を赤く染めている清美を取り囲んだ。

 

「宮村君が見立てたのよ」

 

「さすが、センスいいですね」

 

皆の輪の外で一言も口を利かず黙って見つめている優に、振り返ったリリカが声をかけた。

 

「気になる?」

 

優の考えていることなどお見通しとでも言いたげなリリカに優は慌てて首を横に振った。

 

「え、あ・・・・・・いや」

 

けれどリリカの推測は的外れではなかった。

 

宮村の隣に立つ清美が何となく心に引っかかる。

 

宮村のことは誰よりも信じている。

 

だが、なんだか心に薄い霧がかかったように素直な目で見ることができない。

 

これを嫉妬というのだろうか。

 

 

 

 

 

この日から、まだ社会人になって日の浅い清美を秘書として教育するべく、宮村が付きっ切りで仕事を教えることになった。

 

「これにクライアントの名刺を読み込んだデータが入ってる。今週中に会社名と担当者の名前覚えといて」

 

渡されたUSBから清美が顧客データを開くと、半年以内に取引のあったクライアントだけでも大小合わせて300社を超えていた。

 

「今週中にですか?」

 

確認するように問いかける清美に宮村は平坦な口調で答えた。

 

「ああ、来週から少しずつ挨拶まわりに同行してもらうから」

 

さも当然のように言葉を返したが、さすがに容易な数でないことは宮村にもわかっている。

 

だがこれは清美のやる気を試すテストでもあった。

 

ここで甘えたり投げ出したりするようでは衛の秘書は務まらない。

 

自分の代わりに衛を助ける存在になるのであれば、それに相応しい能力と強い精神力を身に着けてもらいたい。

 

そんな宮村の思惑など知る由もなく、戸惑いながらも清美は素直にうなずいた。

 

「はい、わかりました」

 

 

 

この日のランチタイム。

 

今日は月曜で優はフルタイムの出勤日だ。

 

フロアの窓際にある休憩スペースのテーブル席に二人並んで座り優が作った弁当箱を開けると、宮村は嬉しそうに笑った。

 

「お、うまそう」

 

「ふふ、今日の唐揚げはショウガで味付けしたんですよ」

 

「へえ・・・・・・うん、美味い!」

 

一口食べると満足そうに声を上げる宮村に、優の顔にも笑みが浮かんだ。

 

二人で楽しく語らいながらしばらく箸を進めていた宮村だったが、優との話の切れ目に、ふとフロアに目を向けた。

 

内勤者の大半は宮村たちと同じように休憩スペースで昼食を食べるか、それ以外は外食で出ていてフロアには誰もいない。

 

・・・・・・はずなのに、清美だけがこちらに背を向けた形で席に座っていた。

 

いつもなら他の女性社員たちとお弁当を広げたりランチを食べに出たりしているのに。

 

もしかして先程指示した仕事をまだやっているのだろうか。

 

宮村は立ち上がると、清美の傍に駆け寄った。

 

「安達さん、お昼行っていいよ」

 

宮村の声に振り返った清美は笑顔で返事をした。

 

「はい、ここでお弁当食べながらクライアントチェックします。お昼休みは電話も少ないから集中できるんです」

 

「そう・・・・・・

 

 

 

テーブルに戻ってきた宮村に、成り行きを見守っていた優が尋ねた。

 

「どう? 安達さんは」

 

「うん、ああ見えて、なかなか根性ありそうだよ」

 

宮村の顔に自然と笑みが浮かぶ。

 

どちらかというと大人しいタイプだと思っていたが、自分が期待する以上に清美は意欲的なのかもしれない。

 

「・・・・・・そっか」

 

信頼するようなその口ぶりにうなずきながら、けれど優にはその先の言葉を続けることが出来なかった。

 

宮村と清美は業務時間中、ほとんど一緒にいるようだ。

 

仕事なのだから仕方がないとわかっている。

 

だが、週の半分をリモートワークで出社しない自分からすると、二人の距離がこれ以上近づいてほしくない気もするのだ。

 

話を変えるように今度は宮村が問いかけた。

 

「ところで、大学はどう?」

 

「ああ、この前、梓ちゃんたちにテニスのサークル誘われたけど断った」

 

その話は今日初めて聞いた。

 

なぜ言ってくれなかったのだろう。

 

合格発表の時に顔を合わせた梓は、明るくはきはきとして活発な印象だった。

 

ふと、優と梓が寄り添って立つ姿が頭に浮かんだ。

 

それは若さが放つキラキラとした輝きに溢れた、誰もが羨む「お似合いのカップル」だ。

 

―― あれ? 俺、なんでこんなこと・・・・・・。

 

自分でも戸惑う妄想を搔き消すように宮村は心の中で首を横に振ると、優を正面から見つめた。

 

 


 

 

 

 

 

 

~ to be continued

 

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